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文武訓 / 武訓上

一古人の曰、いにしへは兵を農に寓す。事あれば戰はしめ、事なければ武をならはしむといふこと、大將の必ず知るべきことなり。云ふこゝろは、古の軍法を以て、國を守る君將は、つねに無用なる士をば、多くはめしつかはず。無用の武士多ければ、國土は限あるものなれば、財祿たらずして國用ともしく、臣民困窮す。故に、平生用なき武士は多くは養はず。農人の内、勇氣あらんものをえらんで、少の祿をあたへ扶養し置くべし。農人は商工にかはりて、其志いやしからず、養をうけ恩をかうぶれば、戰にのぞんで、其勇氣をはげましてつたなからず。平生の扶持をあたへ、其身を養ふの費は、無用の武士をかゝへ置きたる十分一の費なり。無事なる時は耕作してみづから養ふ。多く祿をあたへざれども飢寒せず。平治の時は、四時のひまには、狩をして軍法をまなぶ。戰にのぞんで軍法ありて兵つよし。

新字:一古人の曰、いにしへは兵を農に寓す。事あれば戦はしめ、事なければ武をならはしむといふこと、大将の必ず知るべきことなり。云ふこゝろは、古の軍法を以て、国を守る君将は、つねに無用なる士をば、多くはめしつかはず。無用の武士多ければ、国土は限あるものなれば、財禄たらずして国用ともしく、臣民困窮す。故に、平生用なき武士は多くは養はず。農人の内、勇気あらんものをえらんで、少の禄をあたへ扶養し置くべし。農人は商工にかはりて、其志いやしからず、養をうけ恩をかうぶれば、戦にのぞんで、其勇気をはげましてつたなからず。平生の扶持をあたへ、其身を養ふの費は、無用の武士をかゝへ置きたる十分一の費なり。無事なる時は耕作してみづから養ふ。多く禄をあたへざれども飢寒せず。平治の時は、四時のひまには、狩をして軍法をまなぶ。戦にのぞんで軍法ありて兵つよし。

書き下し

一古人の曰、いにしへは兵を農に寓す。事あれば戦はしめ、事なければ武をならはしむといふこと、大将の必ず知るべきことなり。云ふこころは、古の軍法を以て、国を守る君将は、つねに無用なる士をば、多くはめしつかはず。無用の武士多ければ、国土は限あるものなれば、財禄たらずして国用ともしく、臣民困窮す。故に、平生用なき武士は多くは養はず。農人の内、勇気あらんものをえらんで、少の禄をあたへ扶養し置くべし。農人は商工にかはりて、其志いやしからず、養をうけ恩をかうぶれば、戦にのぞんで、其勇気をはげましてつたなからず。平生の扶持をあたへ、其身を養ふの費は、無用の武士をかかへ置きたる十分一の費なり。無事なる時は耕作してみづから養ふ。多く禄をあたへざれども飢寒せず。平治の時は、四時のひまには、狩をして軍法をまなぶ。戦にのぞんで軍法ありて兵つよし。

現代語訳

古人が言いました。「昔は兵を農に宿らせた。事があれば戦わせ、事がなければ武を習わせた」と。これは大将が必ず知るべきことです。その意味は、昔の軍法によって国を守る君主や将は、つねに無用な士を多くは召し抱えなかったということです。無用な武士が多ければ、国土には限りがあるので、財や禄が足りずに国の費用が乏しくなり、臣下も民も困窮します。ゆえに平生用のない武士は多くは養いません。農民の中から勇気のある者を選んで、少しの禄を与えて扶養しておくべきです。農民は商人や職人と違って、その志は卑しくなく、養いを受け恩をこうむれば、戦いに臨んでその勇気を励まして拙くはありません。平生の扶持を与え、その身を養う費用は、無用の武士を抱えておく費用の十分の一です。無事なときは耕作して自ら養い、多くの禄を与えなくても飢えも凍えもしません。平和なときは、四季の暇に狩りをして軍法を学びます。戦いに臨んで軍法があるので兵は強いのです。

解説

古代中国の「兵を農に寓す」という制度を紹介し、平時に多くの武士を抱えれば財政が苦しくなり民も困窮すると指摘します。代わりに勇気ある農民を少しの禄で養い、平時は耕作させ、農閑期に訓練すれば、費用は十分の一で済み兵も強いと説きます。藩の財政を知る益軒らしい、費用対効果を踏まえた提案です。今の組織でいえば、固定費を膨らませず、必要な力を効率よく確保する工夫に通じます。平時の備えと財政の健全さを両立させる知恵です。

この章句が説くこと

兵農財政備え軍法効率

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