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武家小学 / 財宝を惜しまぬ

一夫財寶は乏者にあたへ。貧者を救ひ。賢人を招き良士を聚るの用也。器物は今日の用を足らしめんが爲なり。士たるの道は身を主君に委ねて死を善道に守は是古人の格言也。若財寶を吝み。器物道具の類を愛し翫ぶ時は。武義自欠て大節に臨て必財寶器物に心殘て家を忘る事あたはず。家を思ふ心切なる時は義を捨死を遁るべし。死すべき所をのがれて。謗を諸人の指頭に受ては我身の恥辱のみにあらず父祖までも汚す。人面獸心の行なり。人としてかくのどき時は。生存ても何の樂か有べきや。昔より金銀財寶を積貯へ又は平日吝嗇にて身に替て財寶を積貯ふる士の。國を失ひ家を亡す輩。擧て數がたし。豈忽如にすべけんや。

新字:一夫財宝は乏者にあたへ。貧者を救ひ。賢人を招き良士を聚るの用也。器物は今日の用を足らしめんが為なり。士たるの道は身を主君に委ねて死を善道に守は是古人の格言也。若財宝を吝み。器物道具の類を愛し翫ぶ時は。武義自欠て大節に臨て必財宝器物に心残て家を忘る事あたはず。家を思ふ心切なる時は義を捨死を遁るべし。死すべき所をのがれて。謗を諸人の指頭に受ては我身の恥辱のみにあらず父祖までも汚す。人面獣心の行なり。人としてかくのどき時は。生存ても何の楽か有べきや。昔より金銀財宝を積貯へ又は平日吝嗇にて身に替て財宝を積貯ふる士の。国を失ひ家を亡す輩。挙て数がたし。豈忽如にすべけんや。

書き下し

一夫財寶は乏者にあたへ。貧者を救ひ。賢人を招き良士を聚るの用也。器物は今日の用を足らしめんが爲なり。士たるの道は身を主君に委ねて死を善道に守は是古人の格言也。若財寶を吝み。器物道具の類を愛し翫ぶ時は。武義自欠て大節に臨て必財寶器物に心殘て家を忘る事あたはず。家を思ふ心切なる時は義を捨死を遁るべし。死すべき所をのがれて。謗を諸人の指頭に受ては我身の恥辱のみにあらず父祖までも汚す。人面獸心の行なり。人としてかくのどき時は。生存ても何の樂か有べきや。昔より金銀財寶を積貯へ又は平日吝嗇にて身に替て財寶を積貯ふる士の。國を失ひ家を亡す輩。擧て數がたし。豈忽如にすべけんや。

現代語訳

そもそも財宝は、乏しい者に与え、貧しい者を救い、賢人を招き、良い士を集めるための用です。器物は今日の用を足すためのものです。武士たる道は、身を主君に委ねて、死を善き道で守るというのが、古人の格言です。もし財宝を惜しみ、器物や道具の類を愛し弄ぶと、武義が自然と欠けて、大事な節目に臨んで必ず財宝や器物に心が残り、家を忘れることができなくなります。家を思う心が切実なときは、義を捨てて死を逃れるでしょう。死ぬべき所を逃れて、人々から指さされてそしりを受ければ、自分の恥辱であるだけでなく、父祖までも汚します。それは人の顔をした獣の心の行いです。人としてこのようになれば、生き延びても何の楽しみがあるでしょうか。昔から金銀財宝を積み蓄え、また平生けちで、身に代えて財宝を積み蓄える武士で、国を失い家を滅ぼした者は、数えきれません。どうして軽く見てよいでしょうか。

解説

財宝は貧者を救い、賢人を招き、良い士を集めるための用であり、器物は今日の用に足りれば足ります。財宝や道具に執着すると、大事な場面でそれに心が残って義を捨て、死ぬべき所を逃れて自分も父祖も恥じさせると戒めます。吝嗇で蓄財した者が国を失い家を亡ぼした例は数えきれないとも言います。現代の経営者や管理職も、財や資産への執着が重大な局面での判断を歪めます。資源は人材の登用や支援に生かしてこそ価値があるという視点を持つことが大切です。

この章句が説くこと

財宝吝嗇義賢人を招く執着死を善道に守る

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