武家小学 / 家宅は質素に
一家宅は必輕薄を用て麁相に作るべし。費の飾をなすべからず。居安ふして家宅美麗なれば志專ら家を思ふにあり。是士の本意にあらず。偖家宅の廣狹は武の用法足る程なれば宜也。其身の分限より家宅の廣は其費尤甚し。傳曰帝堯の天下に王たるの時。錦繡文綺を衣ず。宮垣屋宅に堊せず。薨桷椽楹劉らず。茅茨庭に偏けれども剪らず。麁裘寒を禦ぎ。布衣形を掩ふ。糲粱の飯。藜藿の羹。役作の故を以て。民の耕織の時を害せず。心を削り志を約にして。事に無爲に從ふといへり。
新字:一家宅は必軽薄を用て麁相に作るべし。費の飾をなすべからず。居安ふして家宅美麗なれば志専ら家を思ふにあり。是士の本意にあらず。偖家宅の広狭は武の用法足る程なれば宜也。其身の分限より家宅の広は其費尤甚し。伝曰帝堯の天下に王たるの時。錦繍文綺を衣ず。宮垣屋宅に堊せず。薨桷椽楹劉らず。茅茨庭に偏けれども剪らず。麁裘寒を禦ぎ。布衣形を掩ふ。糲粱の飯。藜藿の羹。役作の故を以て。民の耕織の時を害せず。心を削り志を約にして。事に無為に従ふといへり。
書き下し
一家宅は必輕薄を用て麁相に作るべし。費の飾をなすべからず。居安ふして家宅美麗なれば志專ら家を思ふにあり。是士の本意にあらず。偖家宅の廣狹は武の用法足る程なれば宜也。其身の分限より家宅の廣は其費尤甚し。傳曰帝堯の天下に王たるの時。錦繡文綺を衣ず。宮垣屋宅に堊せず。薨桷椽楹劉らず。茅茨庭に偏けれども剪らず。麁裘寒を禦ぎ。布衣形を掩ふ。糲粱の飯。藜藿の羹。役作の故を以て。民の耕織の時を害せず。心を削り志を約にして。事に無爲に從ふといへり。
現代語訳
一、家や屋敷は、必ず軽く薄い材を用いて粗末に作りなさい。費用のかかる飾りをしてはなりません。住まいが安らかで家宅が美麗であれば、志がもっぱら家を思うことに向かいます。これは武士の本意ではありません。さて、家宅の広い狭いは、武の用の法が足りる程度であればよいのです。その身の分限より広い家宅は、その費用が特に大きくなります。伝にいわく、「帝堯が天下に王であった時は、錦や綾の美しい衣を着ず、宮垣や屋敷に白土を塗らず、棟木や垂木や柱を削り磨かず、茅葺きの屋根が庭に広がっても刈りそろえなかった。粗い皮衣で寒さを防ぎ、布の衣で体を覆い、玄米の飯と、藜や豆の葉の吸い物をとった。工事の仕事のために、民の耕作や機織りの時を害さず、心を削り志を引き締めて、無為の政に従った」といいます。
解説
この章句が説くこと
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