武家小学 / 衣服と食の質素
一衣服は外の錺を好まず。唯武備に稱ふを以て用とすべし。長短縫裁皆則あり。其身相應にすべし。一食は麁菜麁食を喰ふべし。尤上下を分たず滋味を同ふすべし。然共氣質に依て多病なるか。或は脾胃の調はざる者は麁食をなし。我が氣質に及ざる事を强てなさば。却て身を損する事有べし。此のごとくの士は養生を能して身を養ひ。生を全し。時至らば道を全守て。義に死するの心得有べし。
新字:一衣服は外の錺を好まず。唯武備に称ふを以て用とすべし。長短縫裁皆則あり。其身相応にすべし。一食は麁菜麁食を喰ふべし。尤上下を分たず滋味を同ふすべし。然共気質に依て多病なるか。或は脾胃の調はざる者は麁食をなし。我が気質に及ざる事を強てなさば。却て身を損する事有べし。此のごとくの士は養生を能して身を養ひ。生を全し。時至らば道を全守て。義に死するの心得有べし。
書き下し
一衣服は外の錺を好まず。唯武備に稱ふを以て用とすべし。長短縫裁皆則あり。其身相應にすべし。一食は麁菜麁食を喰ふべし。尤上下を分たず滋味を同ふすべし。然共氣質に依て多病なるか。或は脾胃の調はざる者は麁食をなし。我が氣質に及ざる事を强てなさば。却て身を損する事有べし。此のごとくの士は養生を能して身を養ひ。生を全し。時至らば道を全守て。義に死するの心得有べし。
現代語訳
一、衣服は外見の飾りを好まず、ただ武備に適うことを用とするべきです。長さや短さ、縫い方や裁ち方には、みな規則があります。その身に相応にしなさい。一、食は粗末な菜や食事を食べなさい。もっとも、身分の上下を分けず、滋味(うまい物)を同じくしなさい。ただし、生まれつきの体質のために病気がちな者、あるいは胃腸の調わない者は、粗食をして、自分の体質に及ばないことを無理にすれば、かえって身を損なうことがあります。このような武士は、養生をよくして身を養い、命を全うし、時が至ったら道を堅く守って、義に死ぬ心得を持ちなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『武家小学』・衣食居は足るを知る一麁服を恥て身に美服を飾り。口に麁食を嫌て厚味の旨を好。身を寛にして居の安からん事をねがふは。道に志す士とは言べからず。凡衣服は體を覆ひ隱すが爲なり。食は命を全する爲也。居は雨露を凌ぎ躰を休んが爲なり。然ば衣食居は只用るに足事を知て。其餘は華美を好むべからず。又身の勤も此三つの物の爲にする事なれば。身を佚樂にして居べき樣なし。故に居も安からん事を求事なかれ。衣食居は各分限相應成べし。其身の分限を越て華美なれば。度量相違するゆゑ。費多く財寶竭て武備を爲事あたはず。士の業必欠べし。又其身の分限より餘り疎畧過れば志も吝嗇となりて又正しからず。能ゝ其程よき處を守るべし
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『武家小学』・家宅は質素に一家宅は必輕薄を用て麁相に作るべし。費の飾をなすべからず。居安ふして家宅美麗なれば志專ら家を思ふにあり。是士の本意にあらず。偖家宅の廣狹は武の用法足る程なれば宜也。其身の分限より家宅の廣は其費尤甚し。傳曰帝堯の天下に王たるの時。錦繡文綺を衣ず。宮垣屋宅に堊せず。薨桷椽楹劉らず。茅茨庭に偏けれども剪らず。麁裘寒を禦ぎ。布衣形を掩ふ。糲粱の飯。藜藿の羹。役作の故を以て。民の耕織の時を害せず。心を削り志を約にして。事に無爲に從ふといへり。
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『武教小学』衣食居悪衣悪食を恥じ、居の安きを求むるは、則ち志士に非ず。(論語に曰く、士道に志して、悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らず、と。又曰く、君子は食に飽くを求むること無く、居に安きを求むること無し、と。)衣食及び居には各々分有り。三者其の位を出づれば、則ち度量相違い、費え多く財竭きて、武備を成すこと克わず。三者及ばざれば、則ち志必ず吝嗇に在りて、又正しからず。能く其の節を守るは、是れ士の用法なり。凡そ士の衣服には分有り、唯武備に称うを以て用と為し、長短縫裁皆則有り。食は麁糲を以て用と為し、唯士卒と滋味を同じくせんと欲するのみ。(三略に曰く、昔者良将の兵を用うるや、簞醪を饋る者有れば、諸を河に投ぜしめ、士卒と流れを同じくして飲む。夫れ一簞の醪、一河の水を味わわしむる能わず。而れども三軍の士、死を致さんと思う者は、滋味の己に及ぶを以てなり、と。)然れども気質病多く、脾胃調和せざるの士は、又身を養い生を全うして、死を全道に守るの量有るべし。(七十なる者は以て肉を食すべしと言う。是れ年老いて肉に非ざれば飽かざるなり。人生気の稟くる所、厚薄有り。年若しと雖も、其の脾胃七十に同じければ、則ち麁糲の食は用に足らず。)室宅は必ず軽薄を以て用と為す。(費敝の飾り無し。)居安く室美なれば、則ち志家を思うに在り。是れ志士の意に非ず。家宅の広狭用所、尤も武式を守るべし。伝に曰く、帝堯の天下に王たる時、錦繍文綺を衣ず、宮垣屋宅堊せず、甍桷椽楹劉らず、茅茨偏庭剪らず、鹿裘寒を禦ぎ、布衣形を掩い、糲粱の飯、藜藿の羹、役作の故を以て民の耕織の時を害せず、心を削り志を約し、無為に従事す、云云、と。
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『武家小学』・飲食と色欲の節一飲食と男女の欲は。天下の人何れも好み欲る所也。然共飲食は身躰を養ひ禮節を行んが爲也。色欲は子孫を嗣て血脉を全して先祖の祭をなさしめ。又情欲を止て邪淫なからしむる爲也。皆自然の節あり。愼て程よくすべし。凡士は農工商の三民の長にて。三民へ敎を施し。三民を治る役故。家業彌重して。職に任ずる處又甚重し。故に殊更愼ずんば有べからず。一飲食は分量を過し飽まで食ば。食滯て病を生ず。飲酒も節を過れば禮を失ひ爭を起べし。然らざれば睡眠を生じ。或は立居もおもく萬事怠生ずべし。怠多時は家業も忽に成て職る所の事も凝滯て其蔽大なるべし。
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『武家小学』・三つの容体を慎む一凡士たるの道は行住座臥共に。暫も武の業を忘て放心する時は。必變に臨て常の心懸を失ひ。一生涯士の道を行ひ遂んとする格勤も。只一事に闕滅て本意を失ふべし。變の出るは何時も計りがたき事なれば。平日怠る事なかれ。禮記にも凡人の人たるわけは禮義有ゆゑなり。禮義の初は容體を正し。顏色をとゝのへ。辭令を順にするに有。容體正しく。顏色をとゝのひ。辭も順にして而後に禮義備るといへり。士としては行住座臥共に。此三つを愼むべし。
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『武家小学』・朝の心得と孝一凡士たるの法は。先夙に起て手洗ひ。口すゝぎ。髪を結ひ。衣服を正して。躰に備る用具を佩て(用具とは刀脇差鼻紙扇子等也)躰を全くとゝのへ。能平旦の氣を養ふべし。朝の氣のいまだ物に接らず思ひ邪なく正しく平易なる時。先父母によつて成長し。君の爲に養はるゝ所の其恩情を毎朝思ひ出して忘るべからず。次に今日の家業我身の勤べき事を思ひ計べし。一我身は父母より受たる物なれば。私に毀傷らず。身を全して聊も人の誹謗をうけず。身を穢さず能士の道を行て。末の世迄も其身は勿論某の子と稱せられて父母の名まで顯し。諸人に譽らるゝは孝の道なる事を思ふべし。一日々家內の用事は。毎朝家內の者へ兼て下知を加置べし。扨客ある時は應對を能いたし。君に仕る時は早く出て仕へ。父母に事る節は其安否を察して父母の心躰を安からしむべし。

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