武家小学 / 言葉遣いと品格
一言語應對は志の適所とて。內に思ふ事ならでは外へ出ざる物なり。又思ひ內に有ば假初の戲言にも其情外へ顯るゝもの也。凡士の言語正しからざれば。其行も必猥なるものなり。故に士は懦弱の詞鄙劣なる詞をつかふ人は無下に賤敷見ゆる物なり。且詞に連て行も賤し。總じて詞は其人の器量程ならては出ざる物なり。故に鄙劣の言語を爲は上品の士にあらず。文を學ざるの費なりと言り。然ば士は各其詞を遣ふべし。先第一は戰法軍旅に何も武者詞あり武器馬具等にも各品々の名所あり。古來より用ひきたる所の詞を遣ふべし。其外貴人え對しての詞。役所にて公邊向の詞。葬祭。婚禮の時の詞等各法あり。詞を輕ゝ敷いたして節當らざれば應對に威儀も正しからず。却て無禮と成て必禍を招べし。况無用の詞多遣ふべからず。
新字:一言語応対は志の適所とて。内に思ふ事ならでは外へ出ざる物なり。又思ひ内に有ば仮初の戯言にも其情外へ顕るゝもの也。凡士の言語正しからざれば。其行も必猥なるものなり。故に士は懦弱の詞鄙劣なる詞をつかふ人は無下に賤敷見ゆる物なり。且詞に連て行も賤し。総じて詞は其人の器量程ならては出ざる物なり。故に鄙劣の言語を為は上品の士にあらず。文を学ざるの費なりと言り。然ば士は各其詞を遣ふべし。先第一は戦法軍旅に何も武者詞あり武器馬具等にも各品々の名所あり。古来より用ひきたる所の詞を遣ふべし。其外貴人え対しての詞。役所にて公辺向の詞。葬祭。婚礼の時の詞等各法あり。詞を軽ゝ敷いたして節当らざれば応対に威儀も正しからず。却て無礼と成て必禍を招べし。況無用の詞多遣ふべからず。
書き下し
一言語應對は志の適所とて。內に思ふ事ならでは外へ出ざる物なり。又思ひ內に有ば假初の戲言にも其情外へ顯るゝもの也。凡士の言語正しからざれば。其行も必猥なるものなり。故に士は懦弱の詞鄙劣なる詞をつかふ人は無下に賤敷見ゆる物なり。且詞に連て行も賤し。總じて詞は其人の器量程ならては出ざる物なり。故に鄙劣の言語を爲は上品の士にあらず。文を學ざるの費なりと言り。然ば士は各其詞を遣ふべし。先第一は戰法軍旅に何も武者詞あり武器馬具等にも各品々の名所あり。古來より用ひきたる所の詞を遣ふべし。其外貴人え對しての詞。役所にて公邊向の詞。葬祭。婚禮の時の詞等各法あり。詞を輕ゝ敷いたして節當らざれば應對に威儀も正しからず。却て無禮と成て必禍を招べし。况無用の詞多遣ふべからず。
現代語訳
言語応対は志の適う所といって、内に思うことでなければ外へ出ないものです。また内に思うことがあれば、ちょっとした冗談にもその気持ちが外へ現れるものです。総じて武士の言葉が正しくなければ、その行いも必ず乱れるものです。ですから武士は、臆病で弱々しい言葉や卑しい言葉を使う人は、ひどく下賤に見えるものです。しかも言葉につれて行いも卑しくなります。総じて言葉は、その人の器量の程度でなければ出ないものです。ですから卑しい言葉を口にするのは、上品な武士ではありません。これは学問をしない報いであると言います。それゆえ武士は、それぞれ適切に言葉を使いなさい。まず第一に、戦の法や軍旅には、それぞれ武者言葉があり、武器や馬具にも、それぞれ名称があります。古来から用いられてきた言葉を使いなさい。そのほか、貴人に対しての言葉、役所で公の向きの言葉、葬祭や婚礼の時の言葉など、それぞれ法があります。言葉を軽々しく使って場に適わなければ、応対の威儀も正しくなく、かえって無礼となって必ず禍を招くでしょう。まして無用の言葉を多く使ってはなりません。
解説
この章句が説くこと
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