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武家小学 / 武芸の稽古と武器

一暇の日とても食は速なるべし。辰の上刻を朝飯の時とす。食終て手洗ひ。口漱て後。劔術或は弓射の禮或は鳥銃又は槍術柔術等の武藝常ゝ稽古あるべし。皆是手足をならし躰をこなし。骨節をためきたひ進退を正しくするの法也。故に師の方へ行。又は師匠を招請して其稽古おこたる事なかれ。怠る時は手足不自由にして。骨節相應ぜず。身輕からず。體馴ずして士の業必欠べし。猶閑有時は書傳を披見て。武義を論じ兵法を講習し。且士の用べき武器の利害を試むべし。凡武器を全備といへども。收藏をきて常に試し見ざれば。譬ば其役に人を附置ても日用の器物にあらざるゆゑ必怠て朽腐すべし。或は外は好して內蠹損る事あり。故に古の武將勇士は何れも賓客有時は座佑に武器を粧飾て。武功の人々に其用を尋。其利を問て。利害を詳にして或は用或は捨て。其器の實用を盡せり。士の志如此なれば一筋に武の道に志立て。氣外へ移らず。心放逸にして邪侈の意發る所なし。孟子に人常の產無ときは常の心なしといへり。去ば士農工商の四民共に。家々の產業おこたらず勤べき事なり。况士として武家の業を懈怠すべからず。

新字:一暇の日とても食は速なるべし。辰の上刻を朝飯の時とす。食終て手洗ひ。口漱て後。剣術或は弓射の礼或は鳥銃又は槍術柔術等の武芸常ゝ稽古あるべし。皆是手足をならし体をこなし。骨節をためきたひ進退を正しくするの法也。故に師の方へ行。又は師匠を招請して其稽古おこたる事なかれ。怠る時は手足不自由にして。骨節相応ぜず。身軽からず。体馴ずして士の業必欠べし。猶閑有時は書伝を披見て。武義を論じ兵法を講習し。且士の用べき武器の利害を試むべし。凡武器を全備といへども。収蔵をきて常に試し見ざれば。譬ば其役に人を附置ても日用の器物にあらざるゆゑ必怠て朽腐すべし。或は外は好して内蠹損る事あり。故に古の武将勇士は何れも賓客有時は座佑に武器を粧飾て。武功の人々に其用を尋。其利を問て。利害を詳にして或は用或は捨て。其器の実用を尽せり。士の志如此なれば一筋に武の道に志立て。気外へ移らず。心放逸にして邪侈の意発る所なし。孟子に人常の産無ときは常の心なしといへり。去ば士農工商の四民共に。家々の産業おこたらず勤べき事なり。況士として武家の業を懈怠すべからず。

書き下し

一暇の日とても食は速なるべし。辰の上刻を朝飯の時とす。食終て手洗ひ。口漱て後。劔術或は弓射の禮或は鳥銃又は槍術柔術等の武藝常ゝ稽古あるべし。皆是手足をならし躰をこなし。骨節をためきたひ進退を正しくするの法也。故に師の方へ行。又は師匠を招請して其稽古おこたる事なかれ。怠る時は手足不自由にして。骨節相應ぜず。身輕からず。體馴ずして士の業必欠べし。猶閑有時は書傳を披見て。武義を論じ兵法を講習し。且士の用べき武器の利害を試むべし。凡武器を全備といへども。收藏をきて常に試し見ざれば。譬ば其役に人を附置ても日用の器物にあらざるゆゑ必怠て朽腐すべし。或は外は好して內蠹損る事あり。故に古の武將勇士は何れも賓客有時は座佑に武器を粧飾て。武功の人々に其用を尋。其利を問て。利害を詳にして或は用或は捨て。其器の實用を盡せり。士の志如此なれば一筋に武の道に志立て。氣外へ移らず。心放逸にして邪侈の意發る所なし。孟子に人常の產無ときは常の心なしといへり。去ば士農工商の四民共に。家々の產業おこたらず勤べき事なり。况士として武家の業を懈怠すべからず。

現代語訳

暇な日でも食事は早く済ませなさい。辰の上刻(午前七時ごろ)を朝飯の時とします。食べ終えて手を洗い、口をすすいだ後は、剣術、あるいは弓を射る礼、あるいは鉄砲、または槍術、柔術などの武芸を、常に稽古しなさい。これらはみな、手足を慣らし、体をこなし、骨の節を鍛え、進退を正しくする法です。ですから師の所へ行き、または師匠を招いて、その稽古を怠ってはなりません。怠れば手足が不自由になり、骨節が合わず、身が軽くならず、体が馴染まなくて、武士の業は必ず欠けるでしょう。なお暇があれば、書物を開いて武の義を論じ、兵法を講じ習い、そのうえ武士の用いる武器の利害を試しなさい。そもそも武器を完全に備えていても、しまっておいて常に試さなければ、たとえ役目に人をつけておいても、日用の器物ではないため、必ず怠けて朽ち腐らせるでしょう。あるいは外見は立派でも、内側が虫に食われ傷むこともあります。ですから古の武将や勇士は、いずれも客のある時は、座の脇に武器を飾り、武功のある人々にその用い方を尋ね、その切れ味を問い、利害を詳しく知って、用いたり捨てたりして、その器の実用を尽くしました。武士の志がこのようであれば、一筋に武の道に志を立てて、気が外へ移らず、心が放逸になって邪悪や奢りの意が起こる所がありません。『孟子』に「人は恒産なければ恒心なし」とあります。それで、士農工商の四民は、みな家々の生業を怠らず勤めるべきです。まして武士として、武家の業をおろそかにしてはなりません。

解説

朝食のあとは剣術・弓・鉄砲・槍・柔術など武芸の稽古を欠かさず、手足を慣らし進退を正すこと、暇には兵書で議論し、武器も常に試して実用を確かめることが説かれます。さらに、志が一筋に定まれば心が放逸にならず、『孟子』のとおり、生業を怠らないことが心の安定を支えると述べます。現代の上に立つ者にとっても、技能の鍛錬、設備や仕組みの定期点検、そして本業に打ち込むことが判断の乱れを防ぐという点で示唆に富みます。

この章句が説くこと

武芸稽古武器の点検恒産恒心備え日課

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