武家家訓集 / 武田信繁家訓九十九箇条第88〜90条
一於人前、食物並賣買之雜談不可爲事、云、金以火試、人以言試、 一縱雖爲知晉之人、賴用所儀、可思慮事、古語曰、貪他一盃酒、失却滿船魚、 一不可立其徒黨事、語曰、君子周不比、小人比不周、
新字:一於人前、食物並売買之雑談不可為事、云、金以火試、人以言試、 一縦雖為知晋之人、頼用所儀、可思慮事、古語曰、貪他一盃酒、失却満船魚、 一不可立其徒党事、語曰、君子周不比、小人比不周、
書き下し
一、人前に於いて、食物並びに売買の雑談為すべからざる事。云く、「金は火を以て試み、人は言を以て試む」と。 一、縦い知音の人たりと雖も、頼み用うる所の儀は、思慮すべき事。古語に曰く、「他の一杯の酒を貪り、満船の魚を失却す」と。 一、其の徒党を立つべからざる事。語に曰く、「君子は周して比せず、小人は比して周せず」と。
現代語訳
第一に、人前で、食べ物や売り買いの雑談をしてはなりません。「金は火で試し、人は言葉で試す」と云います。第二に、たとえ知り合いの人であっても、頼りにして用いる事柄については、よく考えるべきです。古語に「他人の一杯の酒を貪って、船いっぱいの魚を失う」とあります。第三に、徒党を立ててはなりません。論語に「君子は広く交わって偏らず、小人は偏って広く交わらない」とあります。
解説
最初は、人前での食べ物や売買の話を慎めという条で、言葉で人を見られてしまうと金と火の喩えで警告します。次に、親しい相手であっても頼みごとは考えてから、と説き、一杯の酒に釣られて満船の魚を失う例えを示します。三つ目は、徒党を組むなという条で、広く交わって偏らない君子と、偏って広くない小人の対比が引かれます。現代では、会議や会食での話題が評価に結びつくこと、親しさだけで取引先や協力者を選ぶ危うさ、そして派閥を作らず広く人と関わる姿勢が、組織運営の基本に重なります。言葉と付き合いの慎みという点で、三条は一つにつながります。
この章句が説くこと
言葉の慎み目先の利徒党を戒める論語派閥武家家訓集
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