武家家訓集 / 武田信繁家訓九十九箇条第91〜93条
一縱雖爲箇之交、淫亂雜談不可爲、若人之申懸者、不立日樣可立其座事、語曰、用盡自己心、笑破他人口、 一於人前、妄不可爲背語事、戰國策曰、其善可賞、其惡不可語、 一手跡可嗜事、語云、三代遺直、無過翰墨、
新字:一縦雖為箇之交、淫乱雑談不可為、若人之申懸者、不立日様可立其座事、語曰、用尽自己心、笑破他人口、 一於人前、妄不可為背語事、戦国策曰、其善可賞、其悪不可語、 一手跡可嗜事、語云、三代遺直、無過翰墨、
書き下し
一、縦い箇の交わりたりと雖も、淫乱の雑談為すべからず、若し人の申し懸くるならば、日様を立てず其の座を立つべき事。語に曰く、「自己の心を用い尽くすも、他人の口を笑い破る」と。 一、人前に於いて、妄りに背語を為すべからざる事。戦国策に曰く、「其の善は賞すべし、其の悪は語るべからず」と。 一、手跡嗜むべき事。語に云く、「三代の遺直、翰墨に過ぐるは無し」と。
現代語訳
第一に、たとえ個人的な交わりであっても、淫らな雑談をしてはなりません。もし誰かが話を持ちかけてきたら、日付や理由を立てず、その座を立つべきです。「自分の心を尽くしても、他人の口には笑い破られる」と云います。第二に、人前でむやみに陰口を言ってはなりません。戦国策に「その人の善いところは賞めるがよく、悪いところは語ってはならない」とあります。第三に、書や筆跡をたしなむべきです。「三代にわたって遺された誠実さは、筆と墨に勝るものはない」と云います。
解説
最初は、淫らな雑談の場からは理由を告げずに席を立てという条で、他人の口に笑われる怖さが語られます。二番目は、人前で陰口を言うなという条で、戦国策の句が善は賞め悪は語るなと教えます。三番目は、筆跡をたしなめという条で、三代の遺直は筆墨に過ぎるものはないと、文字が人柄と家の記録を伝えることを述べます。現代では、ハラスメントになりかねない場から速やかに離れる判断、陰口に加わらない姿勢、そして手書きの文や議事録、メールの文面で誠実さを伝える意識が、そのまま重なります。口と筆の使い方が、人物の評価を決めるという点が共通しています。
この章句が説くこと
陰口を慎む場からの離脱文面の誠実戦国策評判武家家訓集
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