武家家訓集 / 武田信繁家訓九十九箇条第58〜60条
一對貴人、縱使雖有千萬之道理、理強不可申事、云、多言害身、 一過不可爭、自今以後嗜肝要之事、語云、過則勿憚改、又云、過不改是謂過矣、 一雖有深思立儀、就無餘義異見者、可任其意事、語云、信近義、言可復、
新字:一対貴人、縦使雖有千万之道理、理強不可申事、云、多言害身、 一過不可争、自今以後嗜肝要之事、語云、過則勿憚改、又云、過不改是謂過矣、 一雖有深思立儀、就無余義異見者、可任其意事、語云、信近義、言可復、
書き下し
一、貴人に対し、縦使い千万の道理有りといえども、理強く申すべからざる事。云く、「多言は身を害す」と。 一、過ちは争うべからず、自今以後嗜むこと肝要の事。語に云く、「過てば則ち改むるに憚ること勿かれ」。又云く、「過ちて改めざる、是を過ちと謂う」と。 一、深く思い立つ儀有りといえども、余義無き異見に就いては、其の意に任すべき事。語に云く、「信、義に近ければ、言復むべし」と。
現代語訳
第一に、身分の高い人に対しては、たとえ千万の道理があっても、理屈を強く押して申し立ててはなりません。「言葉が多いと身を害する」と云います。第二に、過ちは言い争うものではなく、今後は慎むことが肝心です。論語に「過ちがあれば改めることを憚るな」とあり、また「過ちを犯してなお改めない、これを過ちというのだ」とあります。第三に、深く思い立った考えがあっても、やむを得ない異見が出たときは、その人の意に任せるべきです。論語に「約束が義に近ければ、その言葉は果たせる」とあります。
解説
三条に共通するのは、意地を張らない姿勢です。上の人に道理を強く押し込めば、正しくても身を損ねる、と多言を戒めます。次に、過ちは争わず改めよと、論語の二句を重ねて説き、改めないことこそが本当の過ちだと言い切ります。三つ目は、自分の思い立ちがあっても、もっともな反対意見には譲れという条で、「信、義に近ければ言復むべし」を引きます。現代の組織では、上司への提案は論破でなく納得を得る順を踏むこと、ミスを責め合うより再発防止に使うこと、反対意見の正当さを認めて計画を調整することに通じます。
この章句が説くこと
過ちを改める多言を慎む異見の受容論語報連相武家家訓集
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