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武家拾要記抄録 / 善行篇・退くときの志と、主君の大事に仕える心

一戰場にて傍輩討死したる時は、敵のかたを枕になし、うつぶけて置べし、然らずば又味方の方を枕とし、あふのけて置べし、めづらしからぬ事ながら、懸口の時は先手を望み、一番をこゝろがけ、退口の時は主人の傍をはなれず、殿をこゝろがくべし、勇は先祖の眉目を興し、義は戰死の骸骨を淸む、まことにはげむべからざらんや、一主人の大事の使仰付らるゝ時は、若異義に及び候はど討果し申べきやと御意をうかがふべし、又上意うちは、上意のよし詞をかけてうつ也、但御前の放しうちは、一うち打て後に上意とことはるべし、主君秘藏の兒女など手討になされたる死骸を、とり置候へとある時、面をつけて寺へつかはし申べきや、但某が屋敷に埋み申べきやと、御意をうかゞふべし、一士卒の狐疑といふは、跡をあやぶみて利を失ふ也、かるがゆへに古來諸卒の心を決すべきために、をのれが館を燒はらひ或は渡りたる橋を□して、ふたゝび古郷に歸らざることを示すものなり、

新字:一戦場にて傍輩討死したる時は、敵のかたを枕になし、うつぶけて置べし、然らずば又味方の方を枕とし、あふのけて置べし、めづらしからぬ事ながら、懸口の時は先手を望み、一番をこゝろがけ、退口の時は主人の傍をはなれず、殿をこゝろがくべし、勇は先祖の眉目を興し、義は戦死の骸骨を清む、まことにはげむべからざらんや、一主人の大事の使仰付らるゝ時は、若異義に及び候はど討果し申べきやと御意をうかがふべし、又上意うちは、上意のよし詞をかけてうつ也、但御前の放しうちは、一うち打て後に上意とことはるべし、主君秘蔵の児女など手討になされたる死骸を、とり置候へとある時、面をつけて寺へつかはし申べきや、但某が屋敷に埋み申べきやと、御意をうかゞふべし、一士卒の狐疑といふは、跡をあやぶみて利を失ふ也、かるがゆへに古来諸卒の心を決すべきために、をのれが館を焼はらひ或は渡りたる橋を□して、ふたゝび古郷に帰らざることを示すものなり、

書き下し

一戰場にて傍輩討死したる時は、敵のかたを枕になし、うつぶけて置べし、然らずば又味方の方を枕とし、あふのけて置べし、めづらしからぬ事ながら、懸口の時は先手を望み、一番をこゝろがけ、退口の時は主人の傍をはなれず、殿をこゝろがくべし、勇は先祖の眉目を興し、義は戰死の骸骨を淸む、まことにはげむべからざらんや、一主人の大事の使仰付らるゝ時は、若異義に及び候はど討果し申べきやと御意をうかがふべし、又上意うちは、上意のよし詞をかけてうつ也、但御前の放しうちは、一うち打て後に上意とことはるべし、主君秘藏の兒女など手討になされたる死骸を、とり置候へとある時、面をつけて寺へつかはし申べきや、但某が屋敷に埋み申べきやと、御意をうかゞふべし、一士卒の狐疑といふは、跡をあやぶみて利を失ふ也、かるがゆへに古來諸卒の心を決すべきために、をのれが館を燒はらひ或は渡りたる橋を□して、ふたゝび古郷に歸らざることを示すものなり、

現代語訳

一つ、戦場で同輩が討死したときは、敵の方を枕にして、うつぶせに置くべきです。そうでなければ、味方の方を枕にして、あおむけに置くべきです。珍しいことではありませんが、攻めかかるときは先手を望んで一番を心がけ、引き口のときは主人の傍を離れず殿(しんがり)を心がけるべきです。勇は先祖の面目を興し、義は戦死した者の骸骨を清めます。まことに励まずにいられましょうか。一つ、主人から大事な使いを仰せ付けられるときは、もし異議に及んだら討ち果たしましょうかと、お考えをうかがうべきです。また上意討ちは、上意であるとの旨を声に出して討つのです。ただし御前での放し討ちは、一打ち討った後で上意であると断るべきです。主君秘蔵の子や女性などを手討ちになさって、その死骸を取り置けと言われたときは、顔を隠して寺へ遣わしましょうか、それとも私の屋敷に埋めましょうかと、お考えをうかがうべきです。一つ、士卒の狐疑(疑い迷うこと)というのは、後ろを案じて利を失うことです。ゆえに古来、諸卒の心を決めさせるために、自分の館を焼き払い、あるいは渡った橋を(底本で判読できない字)して、二度と故郷に帰らないことを示すものです。

解説

戦場の作法を述べつつ、攻めるときは先頭、退くときは主君のそばで殿を務める心がけを説きます。難しい命令や後始末の場面でも、独断せず、あらかじめ主君に確認するという慎重さも示されます。後半は、士卒の迷いを断つため、退路を絶つ例を挙げます。殺傷に関わる部分は歴史的な文脈として読み、現代では引き際の責任と、重大案件で上に確認する姿勢に置き換えられます。管理職は、困難なときほど現場に残り、判断に迷う案件は上司に確認し、チームの迷いを晴らす決断を示したいものです。
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