武家拾要記抄録 / 善行篇・敵方への対応と、一人の剛が衆を導く
一敵方より音物等を贈りこしたる時は、其子細を早速言上すべし、敵方より箭文を射こしたる時も、私に披見すべからず、やがて當番の目付組頭まで注進すべし、敵方より回忠の者ある時は、異義なく披露すべし、敵方より使者來らば、當番の組頭ども寄合對面すべし、又矢文を射る相圖は、鐵炮の大筒を一放ち、其跡に射出すべし、認めやうは走羽の下、羽中の節につくる也、あるひは矢柄の中へしたゝめ入ることもあるべし、一鬼神物怪の沙汰、一切是を禁ずべし、味方の惡事いふべからず、敵の小功を揚べからず、但總じて何事も例にだがひたる事あらば、心をつくべし、男物思ふ時は仰き、女物おもふ時は俯くものなり、一一人の至剛に、衆士ひかれて大利を得る事、雲井を渡る雁の、一鳥の翅をなびかすを見て、衆鳥これにしたがふが如くなるべし、甲斐の信玄には、靑貝の衆とて旗本に鎗武者一組連られたり、越後の謙信には、念佛の衆とて、先懸の死武者一組つれられしとなり、
新字:一敵方より音物等を贈りこしたる時は、其子細を早速言上すべし、敵方より箭文を射こしたる時も、私に披見すべからず、やがて当番の目付組頭まで注進すべし、敵方より回忠の者ある時は、異義なく披露すべし、敵方より使者来らば、当番の組頭ども寄合対面すべし、又矢文を射る相図は、鉄炮の大筒を一放ち、其跡に射出すべし、認めやうは走羽の下、羽中の節につくる也、あるひは矢柄の中へしたゝめ入ることもあるべし、一鬼神物怪の沙汰、一切是を禁ずべし、味方の悪事いふべからず、敵の小功を揚べからず、但総じて何事も例にだがひたる事あらば、心をつくべし、男物思ふ時は仰き、女物おもふ時は俯くものなり、一一人の至剛に、衆士ひかれて大利を得る事、雲井を渡る雁の、一鳥の翅をなびかすを見て、衆鳥これにしたがふが如くなるべし、甲斐の信玄には、青貝の衆とて旗本に鎗武者一組連られたり、越後の謙信には、念仏の衆とて、先懸の死武者一組つれられしとなり、
書き下し
一敵方より音物等を贈りこしたる時は、其子細を早速言上すべし、敵方より箭文を射こしたる時も、私に披見すべからず、やがて當番の目付組頭まで注進すべし、敵方より回忠の者ある時は、異義なく披露すべし、敵方より使者來らば、當番の組頭ども寄合對面すべし、又矢文を射る相圖は、鐵炮の大筒を一放ち、其跡に射出すべし、認めやうは走羽の下、羽中の節につくる也、あるひは矢柄の中へしたゝめ入ることもあるべし、一鬼神物怪の沙汰、一切是を禁ずべし、味方の惡事いふべからず、敵の小功を揚べからず、但總じて何事も例にだがひたる事あらば、心をつくべし、男物思ふ時は仰き、女物おもふ時は俯くものなり、一一人の至剛に、衆士ひかれて大利を得る事、雲井を渡る雁の、一鳥の翅をなびかすを見て、衆鳥これにしたがふが如くなるべし、甲斐の信玄には、靑貝の衆とて旗本に鎗武者一組連られたり、越後の謙信には、念佛の衆とて、先懸の死武者一組つれられしとなり、
現代語訳
一つ、敵方から贈り物などが届いたときは、その事情をすぐに申し上げるべきです。敵方から矢文を射込んできたときも、私に開いて見てはなりません。ただちに当番の目付や組頭に注進すべきです。敵方から寝返ってくる者があるときは、異議なく披露すべきです。敵方から使者が来たら、当番の組頭たちが寄り合って対面すべきです。また、矢文を射る合図は、鉄砲の大筒を一発放ち、その後に射出すべきです。書き方は、走羽の下、羽の中の節に付けるのです。あるいは矢柄の中へ書き入れることもあるでしょう。一つ、鬼神や物怪の噂話は、一切禁ずるべきです。味方の悪事を言ってはなりません。敵の小さな功を持ち上げてはなりません。ただし、すべて何事も、例に違うことがあれば、心を配るべきです。男が物を思うときは仰ぎ、女が物を思うときは俯くものです。一つ、一人の至剛に、衆士が引かれて大利を得ることは、雲の上を渡る雁が、一羽の翼のなびくのを見て、多くの鳥がこれに従うようなものです。甲斐の信玄には、青貝の衆といって、旗本に槍武者一組が連れられていました。越後の謙信には、念仏の衆といって、先駆けの死武者(決死の者)一組が連れられていたということです。
解説

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