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武家拾要記抄録 / 敬身篇・寒暑と馬の用意、心で馬に乗る

一雪中にて手足凍ざる藥は、古酒(一舛)生姜(六十目皮を去る)よく〱細末し、鍋に入て火をほそくたきて、半分ほどに煉詰、小豆ほどづゝ手足にぬるべし、或は古酒ばかりを、面手足までにぬりても寒を防ぐ事は同前、但酒を多くのむはあしゝ、遠路をゆく時霧ふかき時には、赤手拭をもつて面をぬぐふべし、大雪のふるには、煎豆を喰べし、大寒のをりふし河を渡るには、胡椒を喰べし、又炎天の節、艾を臍の中に入て、下帶にてゆひつくれば、暑氣にあたらず、一馬上にて刀をぬく時、己が手綱を切事ありといふ、初より柄を越して置べし、又鞍の前輪に、短き細引を付をき、其先に鈎を付をきて上帶にはさむべし、鞍固めの事は、馬氈の穴より糸を引出し、鞍の後輪の山がたの穴溝へ引通し前にて結ぶべし、腹帶、逆鞘、鞅など切れたる時の用意尤也、鐙は金銀を用ひ、障泥は毛障泥を用ゆべし、批袋は目に立ぬやふに拵ゆべし、又鞍に乘れ、腰にのれ、鐙にのれ、心にのれといふ事あり、馬は乘たる人の心のごとくゆくもの也、故に遠山の心といふを、よく〱あぢはふべし、

新字:一雪中にて手足凍ざる薬は、古酒(一舛)生姜(六十目皮を去る)よく〱細末し、鍋に入て火をほそくたきて、半分ほどに煉詰、小豆ほどづゝ手足にぬるべし、或は古酒ばかりを、面手足までにぬりても寒を防ぐ事は同前、但酒を多くのむはあしゝ、遠路をゆく時霧ふかき時には、赤手拭をもつて面をぬぐふべし、大雪のふるには、煎豆を喰べし、大寒のをりふし河を渡るには、胡椒を喰べし、又炎天の節、艾を臍の中に入て、下帯にてゆひつくれば、暑気にあたらず、一馬上にて刀をぬく時、己が手綱を切事ありといふ、初より柄を越して置べし、又鞍の前輪に、短き細引を付をき、其先に鈎を付をきて上帯にはさむべし、鞍固めの事は、馬氈の穴より糸を引出し、鞍の後輪の山がたの穴溝へ引通し前にて結ぶべし、腹帯、逆鞘、鞅など切れたる時の用意尤也、鐙は金銀を用ひ、障泥は毛障泥を用ゆべし、批袋は目に立ぬやふに拵ゆべし、又鞍に乗れ、腰にのれ、鐙にのれ、心にのれといふ事あり、馬は乗たる人の心のごとくゆくもの也、故に遠山の心といふを、よく〱あぢはふべし、

書き下し

一雪中にて手足凍ざる藥は、古酒(一舛)生姜(六十目皮を去る)よく〱細末し、鍋に入て火をほそくたきて、半分ほどに煉詰、小豆ほどづゝ手足にぬるべし、或は古酒ばかりを、面手足までにぬりても寒を防ぐ事は同前、但酒を多くのむはあしゝ、遠路をゆく時霧ふかき時には、赤手拭をもつて面をぬぐふべし、大雪のふるには、煎豆を喰べし、大寒のをりふし河を渡るには、胡椒を喰べし、又炎天の節、艾を臍の中に入て、下帶にてゆひつくれば、暑氣にあたらず、一馬上にて刀をぬく時、己が手綱を切事ありといふ、初より柄を越して置べし、又鞍の前輪に、短き細引を付をき、其先に鈎を付をきて上帶にはさむべし、鞍固めの事は、馬氈の穴より糸を引出し、鞍の後輪の山がたの穴溝へ引通し前にて結ぶべし、腹帶、逆鞘、鞅など切れたる時の用意尤也、鐙は金銀を用ひ、障泥は毛障泥を用ゆべし、批袋は目に立ぬやふに拵ゆべし、又鞍に乘れ、腰にのれ、鐙にのれ、心にのれといふ事あり、馬は乘たる人の心のごとくゆくもの也、故に遠山の心といふを、よく〱あぢはふべし、

現代語訳

一つ、雪の中で手足が凍らない薬は、古酒(一升)と生姜(六十匁、皮を去る)をよくよく細かい粉にし、鍋に入れて火を細くたいて半分ほどに煉り詰め、小豆ほどずつ手足に塗ります。あるいは古酒だけを顔や手足にまで塗っても、寒さを防ぐことは同じです。ただし、酒を多く飲むのは悪いことです。遠路を行くとき、霧が深いときは、赤い手拭いで顔をぬぐうべきです。大雪が降るときは煎り豆を食べなさい。大寒のときに河を渡るには胡椒を食べなさい。また、炎天のときは、艾(もぐさ)を臍の中に入れ、下帯で結んでおけば、暑気にあたりません。一つ、馬上で刀を抜くとき、自分の手綱を切ることがあるといいます。初めから柄を越して置くべきです。また鞍の前輪に短い細引(縄)を付けておき、その先に鈎を付けて上帯に挟むべきです。鞍固めのことは、馬氈の穴から糸を引き出し、鞍の後輪の山形の穴溝へ引き通して前で結びます。腹帯、逆鞘、鞅などが切れたときの用意は最も大切です。鐙は金銀を用い、障泥は毛障泥を用いるべきです。批袋は目立たないようにこしらえるべきです。また、鞍に乗れ、腰に乗れ、鐙に乗れ、心に乗れということがあります。馬は乗った人の心のとおりに行くものです。ゆえに、遠山の心ということを、よくよく味わいなさい。

解説

寒さや暑さをしのぐ工夫、馬上で手綱を切らない置き方、馬具が切れたときの備えなど、細かな実用の知恵が並びます。最後の、馬は乗り手の心のとおりに動くという言葉は、道具や相手の動きを決めるのは自分の心の状態だという教えとして読めます。現代の管理職にとっても、現場の環境に応じた事前の準備と、不測の事態への備えは欠かせません。同時に、部下は上司の心のあり方を映して動くことを意識し、自分の落ち着きを整えることが成果を左右します。
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この章句が説くこと

『武家拾要記抄録』山本屠竜軒敬身篇備え馬術防寒

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