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武人訓抄録 / 真の忠は他腸なきこと

一忠は武夫の處る所雄士日用の本心たり、學者忽にすべからず、今の士夫君に奉じて身を忘れ、事に居て直を行ひ、敵に接て鋒を犯し、危に臨て死を致すをもつて、忠義盡せりとす、豈惟是のみならんや、愚は全く其力を竭し、智は專ら其心を盡し、義を守りて其名を不求、躬を困めて其利を不計、功を成して不伐、身を辱めて不憂、言をつゝしみ德をおさめ、國家の安危にしたがひて人臣の節操をあらはし、あえて他腸なきをもて、忠道備れりと謂べし、當門の小子速かに其本心をあきらめ、眞忠のさかひに至らん事をのみ、常に心とすべし、

新字:一忠は武夫の処る所雄士日用の本心たり、学者忽にすべからず、今の士夫君に奉じて身を忘れ、事に居て直を行ひ、敵に接て鋒を犯し、危に臨て死を致すをもつて、忠義尽せりとす、豈惟是のみならんや、愚は全く其力を竭し、智は専ら其心を尽し、義を守りて其名を不求、躬を困めて其利を不計、功を成して不伐、身を辱めて不憂、言をつゝしみ徳をおさめ、国家の安危にしたがひて人臣の節操をあらはし、あえて他腸なきをもて、忠道備れりと謂べし、当門の小子速かに其本心をあきらめ、真忠のさかひに至らん事をのみ、常に心とすべし、

書き下し

一忠は武夫の處る所雄士日用の本心たり、學者忽にすべからず、今の士夫君に奉じて身を忘れ、事に居て直を行ひ、敵に接て鋒を犯し、危に臨て死を致すをもつて、忠義盡せりとす、豈惟是のみならんや、愚は全く其力を竭し、智は專ら其心を盡し、義を守りて其名を不求、躬を困めて其利を不計、功を成して不伐、身を辱めて不憂、言をつゝしみ德をおさめ、國家の安危にしたがひて人臣の節操をあらはし、あえて他腸なきをもて、忠道備れりと謂べし、當門の小子速かに其本心をあきらめ、眞忠のさかひに至らん事をのみ、常に心とすべし、

現代語訳

忠は武夫の居るところ、雄士が日用する本心です。学者は軽んじてはなりません。今の士大夫は、君に仕えて身を忘れ、事に当たって直を行い、敵に接して鋒を犯し、危うきに臨んで死を致すことを、忠義を尽くしたとします。しかし、どうしてこれだけでしょうか。愚かな者はその力を尽くし、智ある者はひたすらその心を尽くし、義を守って名を求めず、身を苦しめて利を計らず、功を成して誇らず、身が辱められても憂えず、言葉を慎み徳を修め、国家の安危に従って人臣の節操を表し、あえて他心のないことをもって、忠の道が備わったと言うべきです。わが門の小子は、速やかにその本心を明らかにし、真の忠の境地に至ることだけを、常に心とすべきです。

解説

忠を、身を捨てて危地に赴くことだけでなく、力と智を尽くし、名も利も功も求めず、他心なく節操を守ることだと広げる章です。死を致す行為を絶対視せず、日常の姿勢にまで忠を落とし込んでいます。現代の組織で忠誠心を語るのは難しいものですが、置き換えれば、自分の損得より組織と顧客の安危を先に置く姿勢です。管理職が功を誇らず、他心なく役割に徹する姿は、部下の信頼の源になります。派手な献身より、静かな徹底が忠の中心であると読めます。

この章句が説くこと

忠他腸なし節操無私名利人臣

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