武人訓抄録 / 文武を学ぶ害という世評
一俗士不別いふ事あり、文理を學べば容貌異風に偏し、武備を習へば心術譎詐に陷ると、嗟呼是何の謂ぞや、己が嗜まざるの遁辭ならずむば、また惑へるの甚しき也、學者百千の衆多なるが中に、偶其類に似なるもあるべし、是文武の道を學習するの害にはあらずして、皆其人品の罪なり、これによつて文武の敎を忌棄ば、譬ば米粟を餐て噎死たる者を見て、嘉穀を鴆毒とおもひて是を斷がごし、如斯守株のやからは、正に飢に臨むにあらずんば、米粟の主味なる事を悟るべからず、正に災に遭ふにあらずんば、文武の至道なる事を知べからず、武人たらんものは、かゝる世諺に惑ふ事なかれ、況神武學習の人におゐてをや、
新字:一俗士不別いふ事あり、文理を学べば容貌異風に偏し、武備を習へば心術譎詐に陥ると、嗟呼是何の謂ぞや、己が嗜まざるの遁辞ならずむば、また惑へるの甚しき也、学者百千の衆多なるが中に、偶其類に似なるもあるべし、是文武の道を学習するの害にはあらずして、皆其人品の罪なり、これによつて文武の教を忌棄ば、譬ば米粟を餐て噎死たる者を見て、嘉穀を鴆毒とおもひて是を断がごし、如斯守株のやからは、正に飢に臨むにあらずんば、米粟の主味なる事を悟るべからず、正に災に遭ふにあらずんば、文武の至道なる事を知べからず、武人たらんものは、かゝる世諺に惑ふ事なかれ、況神武学習の人におゐてをや、
書き下し
一俗士不別いふ事あり、文理を學べば容貌異風に偏し、武備を習へば心術譎詐に陷ると、嗟呼是何の謂ぞや、己が嗜まざるの遁辭ならずむば、また惑へるの甚しき也、學者百千の衆多なるが中に、偶其類に似なるもあるべし、是文武の道を學習するの害にはあらずして、皆其人品の罪なり、これによつて文武の敎を忌棄ば、譬ば米粟を餐て噎死たる者を見て、嘉穀を鴆毒とおもひて是を斷がごし、如斯守株のやからは、正に飢に臨むにあらずんば、米粟の主味なる事を悟るべからず、正に災に遭ふにあらずんば、文武の至道なる事を知べからず、武人たらんものは、かゝる世諺に惑ふ事なかれ、況神武學習の人におゐてをや、
現代語訳
世俗の人が言い分けにすることがあります。文理を学ぶと容貌や風が偏って異様になり、武備を習うと心のはたらきが偽りや詐りに陥ると。ああ、これは何を言っているのでしょうか。自分が学ばないための逃げ口上でなければ、迷いのはなはだしいものです。学者が百千と多数いる中には、たまたまそうした類に似る者もいるでしょう。しかしそれは文武の道を学習する害ではなく、すべてその人の人品の罪です。これによって文武の教えを忌み捨てるのは、たとえば米や粟を食べてむせて死んだ者を見て、良い穀物を毒と思い込んで断つようなものです。このような守株の輩は、まさに飢えに臨まなければ米粟の主たる味を悟れず、まさに災いに遭わなければ文武が至道であることを知れません。武人たらんとする者は、こうした世間の俗説に惑ってはなりません。まして神武を学習する人はなおさらです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『重職心得箇条』第三条家々に祖先の法あり、取り失ふべからず。又仕来(しきた)り仕癖(しくせ)の習いあり、是れは時に従って変易あるべし。兎角目の付け方間違ふて、家法を古式と心得て除(の)け置き、仕来り仕癖を家法家格などと心得て守株(しゅしゅ)せり。時世に連れて動かすべきを動かさざれば、大勢立たぬものなり。
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論語・為政篇子曰く、「故きを温めて新しきを知らば、以て師と為るべし。」
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論語・述而篇子、人と歌いて善ければ、必ず之を反さしめて、而る後に之に和す。
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『韓非子』五蠹第四十九宋人に田を耕やす者有り。田中に株有り、免走りて株に觸れ、頸を折りて死す。・・・今先王の政を以て、當世の民を治めんと欲するは、皆な株を守るの類なり。
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『呻吟語』外篇・治道・何ぞ其れ定靜なる官多く設けて數しば易へ、事多く議して屢しば更むれば、生民の殃ひ未だ極まる所を知らず。古人は慎みて人を擇びて久しく任じ、慎みて政を立てて久しく行ふ。一年も是の如く、百千年も亦た是の如し。代を易へずんば政を改めず、事を弊せずんば法を更めず。故に百官の法守は一にして、敢へて聰明を作して擅に更張せず。百姓の耳目は一にして、聽聞を亂して以て政令に乖くに至らず。日に漸み月に漬りて、上の紀綱法度に遵ひて以て其の身を淑くせざる莫く、上の政教號令に習ひて以て其の俗を成さざる莫し。之を寒暑の易はらずして、興作する者歲歲循る持する有るに譬ふ。道路の易はらずして、往來する者年年遠近を知るなり。何ぞ其れ定靜なる。何ぞ其れ經常なる。何ぞ其れ相ひ安んずる。何ぞ其れ行ひ易き。何ぞ其れ勞費を省く。
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『茶の本』第一章 人情の碗・シルクハットを得ることが文明かかくのごとき誤解は、われわれのうちからすみやかに消え去ってゆく。商業上の必要に迫られて、欧州の国語が東洋幾多の港に用いられるようになって来た。アジアの青年は現代的教育を受けるために、西洋の大学に群がってゆく。われわれの洞察力は、諸君の文化に深く入り込むことはできない。しかし少なくともわれわれは喜んで学ぼうとしている。私の同国人のうちには、諸君の習慣や礼儀作法をあまりに多く取り入れた者がある。こういう人は、こわばったカラや丈の高いシルクハットを得ることが、諸君の文明を得ることと心得違いをしていたのである。かかる様子ぶりは、実に哀れむべき嘆かわしいものであるが、ひざまずいて西洋文明に近づこうとする証拠となる。

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