茶の本 / 第一章 人情の碗・シルクハットを得ることが文明か
かくのごとき誤解はわれわれのうちからすみやかに消え去ってゆく。商業上の必要に迫られて欧州の国語が、東洋幾多の港に用いられるようになって来た。アジアの青年は現代的教育を受けるために、西洋の大学に群がってゆく。われわれの洞察力は、諸君の文化に深く入り込むことはできない。しかし少なくともわれわれは喜んで学ぼうとしている。私の同国人のうちには、諸君の習慣や礼儀作法をあまりに多く取り入れた者がある。こういう人は、こわばったカラや丈の高いシルクハットを得ることが、諸君の文明を得ることと心得違いをしていたのである。かかる様子ぶりは、実に哀れむべき嘆かわしいものであるが、ひざまずいて西洋文明に近づこうとする証拠となる。
書き下し
かくのごとき誤解は、われわれのうちからすみやかに消え去ってゆく。商業上の必要に迫られて、欧州の国語が東洋幾多の港に用いられるようになって来た。アジアの青年は現代的教育を受けるために、西洋の大学に群がってゆく。われわれの洞察力は、諸君の文化に深く入り込むことはできない。しかし少なくともわれわれは喜んで学ぼうとしている。私の同国人のうちには、諸君の習慣や礼儀作法をあまりに多く取り入れた者がある。こういう人は、こわばったカラや丈の高いシルクハットを得ることが、諸君の文明を得ることと心得違いをしていたのである。かかる様子ぶりは、実に哀れむべき嘆かわしいものであるが、ひざまずいて西洋文明に近づこうとする証拠となる。
現代語訳
このような誤解は、私たちの側からは速やかに消えていきます。商業上の必要に迫られ、ヨーロッパの言語が東洋の多くの港で使われるようになりました。アジアの青年は現代的な教育を受けるために西洋の大学へ群がっていきます。私たちの洞察力は皆さんの文化に深く入り込めません。しかし少なくとも私たちは喜んで学ぼうとしています。私の同国人の中には、皆さんの習慣や礼儀作法をあまりにも多く取り入れた者がいます。こういう人は、こわばった襟や丈の高いシルクハットを手に入れることが、皆さんの文明を手に入れることだと取り違えていたのです。そうした気取りは実に哀れで嘆かわしいものですが、ひざまずいて西洋文明に近づこうとしている証拠ではあります。
解説
この章句が説くこと
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『墨子』魯問子墨子曰く、曹公子を出だして宋に於いてす。三年にして反る。子墨子を睹て曰く、「始め吾れ子の門に游びしとき、短褐の衣、藿羮も朝に之を得れば則ち夕に得ず、鬼神を祭祀す。而して夫子の政を以て家、始めより厚し。家、厚きこと有りて謹んで鬼神を祭祀す。然り而して人徒、多く死し、六畜、蕃らず、身は病に湛む。吾れ未だ夫子の道の用う可きを知らざるなり」と。子墨子曰く、「然らず。夫れ鬼神の人に欲する所の者は多し。人の髙爵禄に處らば則ち以て賢に讓り、財多ければ則ち以て貧に分かつを欲す。夫れ鬼神、豈に唯だ擢季拑肺を之れ欲せんや。今、子は髙爵禄に處りて以て賢に讓らず、一の不祥なり。財多くして以て貧に分かたず、二の不祥なり。今、子、鬼神に事うるは、唯だ祭るのみ。而して曰く、『病、何自り至れるか』と。是れ猶お百門にして一門を閉じて、『盜、何從り入らん』と曰うがごときなり。是くの若くして福を求むるは、怪の鬼に於いて有らんや。豈に可ならんや」と。
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『学問のすゝめ』十一編・名分をもって偽君子を生ずるの論・この病に罹る者を偽君子と名づく右のごとく上下貴賤の名分を正し、ただその名のみを主張して専制の権を行なわんとするの原因よりして、その毒の吹き出すところは人間に流行する欺詐術策の容体なり。この病に罹る者を偽君子と名づく。譬えば封建の世に大名の家来は表向きみな忠臣のつもりにて、その形を見れば君臣上下の名分を正し、辞儀をするにも敷居一筋の内外を争い、亡君の逮夜には精進を守り、若殿の誕生には上下を着し、年頭の祝儀、菩提所の参詣、一人も欠席あることなし。その口吻にいわく、「貧は士の常、尽忠報国」またいわく、「その食を食む者はその事に死す」などと、たいそうらしく言い触らし、すはといわば今にも討死せん勢いにて、ひととおりの者はこれに欺かるべき有様なれども、竊に一方より窺えば、はたして例の偽君子なり。
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『武士道』原序・心に書かれたる律法を信ず予が同情を表する能はざるものは、即ち基督の教訓の光明を翳遮する伝道の形式なり。予は心に書かれたる律法を信じ、又た基督の教にして、新約全書を通じて吾人に伝へられたる宗教を信ず。而も亦た神は、異邦人たると、猶太人たると、基督教徒たると異教徒たるとを問はず、凡ての衆生に与ふるに、称して旧と名くべき約書を以てしたるものなるを信ず。予の神学説は此れを云ふを以て足れり、更に論じて世の倦厭を招くを要せず。明治三十二年十二月、費府郊外マルヴァーン村居にて、新渡戸稲造識。
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