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武学啓蒙 / 論・清明の徳:見られずとも己を欺かぬ武士道

武田氏の迹を、ふまず、明德を明にし、世々を、千載に永くする道、皆こゝにあり、唯君たるのみには、あらず、凡そ、人の上にたつもの、儀鑑するにたれり、士は、小祿と云とも、農工商の上にあり、いかんぞ、徒に祿をぬすみ、肱はる、ばかりにて、よしとせん、一隊の上たるも、上にある、天を學ぶ、明淸の德ありて、明中に、人を育、暗裡、心を欺かざる操を、立得べし、況や、それより上なる人、一段高ければ、一段の明あるを、其位に、かなふとするの、道きつと知るべし、されば、古人の語にも淸明、身にあれば、志氣神の如しと、云ふことありて、大小、上下、時處位の差別、利世安民の大業は、企及ばずとも、凡そ、義とする所のものは、此淸明の中より、來るによりて、大なれば大、小なれば小にして、是を、我心に、さぐり問ても、むさき所なく、是を、人に知せても、恥しからず、故に、物ごとに、わたりて、疑念すくなく、卓然公行する場あり、豈、りつぱなる武士道ならずや、諺の、人は武士と、是なり、もし君臣、此際會を得ば、治亂とも、拔群の、はたらきも、立べく、自然の舊弊も、あらたむべし、是を明德、上に照り、忠誠、下に應ずる、大慶の時節と、いふなり、士大夫、こゝに志ざし、幸ひ非常の遇を得て、非常の功を立んと、水ならば、舟楫、旱ならば、雨露とも、なることは、無藝無術にして、其用にたゆべけんや、かね〱思按工夫ありたし、孔子の曰、もし汝を知ることあらば、また何を以てせんやと、此義なり、わけて、家がらなど號稱する、譜第相傳、其國の先君と、ひとしく、はたらきせし子孫の士業、切瑳琢磨、一かたならざること、あらかじめ、心得、知らずんば、あるべからず、

新字:武田氏の迹を、ふまず、明徳を明にし、世々を、千載に永くする道、皆こゝにあり、唯君たるのみには、あらず、凡そ、人の上にたつもの、儀鑑するにたれり、士は、小禄と云とも、農工商の上にあり、いかんぞ、徒に禄をぬすみ、肱はる、ばかりにて、よしとせん、一隊の上たるも、上にある、天を学ぶ、明清の徳ありて、明中に、人を育、暗裡、心を欺かざる操を、立得べし、況や、それより上なる人、一段高ければ、一段の明あるを、其位に、かなふとするの、道きつと知るべし、されば、古人の語にも清明、身にあれば、志気神の如しと、云ふことありて、大小、上下、時処位の差別、利世安民の大業は、企及ばずとも、凡そ、義とする所のものは、此清明の中より、来るによりて、大なれば大、小なれば小にして、是を、我心に、さぐり問ても、むさき所なく、是を、人に知せても、恥しからず、故に、物ごとに、わたりて、疑念すくなく、卓然公行する場あり、豈、りつぱなる武士道ならずや、諺の、人は武士と、是なり、もし君臣、此際会を得ば、治乱とも、抜群の、はたらきも、立べく、自然の旧弊も、あらたむべし、是を明徳、上に照り、忠誠、下に応ずる、大慶の時節と、いふなり、士大夫、こゝに志ざし、幸ひ非常の遇を得て、非常の功を立んと、水ならば、舟楫、旱ならば、雨露とも、なることは、無芸無術にして、其用にたゆべけんや、かね〱思按工夫ありたし、孔子の曰、もし汝を知ることあらば、また何を以てせんやと、此義なり、わけて、家がらなど号称する、譜第相伝、其国の先君と、ひとしく、はたらきせし子孫の士業、切瑳琢磨、一かたならざること、あらかじめ、心得、知らずんば、あるべからず、

書き下し

武田氏の迹を、ふまず、明德を明にし、世々を、千載に永くする道、皆こゝにあり、唯君たるのみには、あらず、凡そ、人の上にたつもの、儀鑑するにたれり、士は、小祿と云とも、農工商の上にあり、いかんぞ、徒に祿をぬすみ、肱はる、ばかりにて、よしとせん、一隊の上たるも、上にある、天を學ぶ、明淸の德ありて、明中に、人を育、暗裡、心を欺かざる操を、立得べし、況や、それより上なる人、一段高ければ、一段の明あるを、其位に、かなふとするの、道きつと知るべし、されば、古人の語にも淸明、身にあれば、志氣神の如しと、云ふことありて、大小、上下、時處位の差別、利世安民の大業は、企及ばずとも、凡そ、義とする所のものは、此淸明の中より、來るによりて、大なれば大、小なれば小にして、是を、我心に、さぐり問ても、むさき所なく、是を、人に知せても、恥しからず、故に、物ごとに、わたりて、疑念すくなく、卓然公行する場あり、豈、りつぱなる武士道ならずや、諺の、人は武士と、是なり、もし君臣、此際會を得ば、治亂とも、拔群の、はたらきも、立べく、自然の舊弊も、あらたむべし、是を明德、上に照り、忠誠、下に應ずる、大慶の時節と、いふなり、士大夫、こゝに志ざし、幸ひ非常の遇を得て、非常の功を立んと、水ならば、舟楫、旱ならば、雨露とも、なることは、無藝無術にして、其用にたゆべけんや、かね〱思按工夫ありたし、孔子の曰、もし汝を知ることあらば、また何を以てせんやと、此義なり、わけて、家がらなど號稱する、譜第相傳、其國の先君と、ひとしく、はたらきせし子孫の士業、切瑳琢磨、一かたならざること、あらかじめ、心得、知らずんば、あるべからず、

現代語訳

武田氏の轍を踏まず、明徳を明らかにし、世々を千年にも長くする道は、すべてここにあります。ただ君たる者だけではなく、およそ人の上に立つ者の鑑とするに足ります。士は小禄といえども農工商の上にあります。どうしてむなしく禄を盗み、肘を張るばかりでよしとできましょう。一隊の長であっても、上にある天に学び、明清の徳があって、明るいところで人を育て、暗いところでも心を欺かない操を立てることができるでしょう。ましてそれより上の人は、一段高ければ一段の明があるのがその位にかなうとする道だと、必ず知るべきです。そこで古人の言葉にも、清明が身にあれば志気は神のようだ、というものがあり、大小・上下・時・処・位の差別があって、世を利し民を安んずる大業は及ばなくても、およそ義とするところはこの清明の中から来るので、大なれば大、小なれば小で、これを我が心に探り問うても汚いところがなく、これを人に知らせても恥ずかしくないので、物事にわたって疑念が少なく、堂々と公然と行える場があります。これこそ立派な武士道ではありませんか。諺の「人は武士」というのがこれです。もし君臣がこの際会を得れば、治にも乱にも抜群の働きを立て、自然の旧弊もあらためることができるでしょう。これを、明徳が上に照り、忠誠が下に応じる大慶の時節というのです。士大夫がここに志し、幸いに非常の遇を得て非常の功を立てようとし、水ならば舟と楫、旱ならば雨露ともなるには、無芸無術でその用に堪えられましょうか。日ごろから思案工夫がなければなりません。孔子が「もし汝を知る者があれば、何をもってするか」と言われたのは、この意味です。とりわけ、家柄などと称する譜第相伝の、その国の先君と等しく働いた子孫の士としての業は、切磋琢磨が一通りでないことを、あらかじめ心得、知らないでいてはなりません。

解説

人の上に立つ者は、天に学んで明るく清い徳を持ち、人目のない所でも心を欺かない操を立てるべきだと説く部分です。清明から出る行いは、自分の心に問うても、人に知られても恥ずかしくなく、そこに堂々とした武士道があるといいます。君臣がそろって明徳と忠誠で応じ合う時節が理想とされます。管理職にとっては、小さな役職でも、見られていない場面での誠実さが信頼の土台になります。日頃の思案と工夫が、いざという機会に活きるという戒めも実務に通じます。
『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

『武学啓蒙』力丸東山清明明徳忠誠士の務め

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