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武学啓蒙 / 論・奸佞は毒虫、悪は広がり善は育ちにくい

苟且にも、惡念、惡癖を發し、己に、かけかまわざることにも、人の密事を、索求、他の、少し短を、あげて、形を指さし、勢を咲ひ、よきことあれば、そねみ、ねたみ、毒蟲の、身に毒毛ありて、人を、さす如し、古聖賢、彼毒毛に、ふれ、さゝれて、なやみしもの、多し、故に、載籍の上に、佞奸小人を、仇讎とす、本條に引し、三略の文も、其物なりき、昔し甲州武田の諸賢も、彼佞奸の毒蟲に、さゝれたればこそ、此段の議論ありたれ、是を論じいひしは、一たび、君德をして、明ならしめ、小人の霧を起し、物の分ち、みへざるやうにし、國を蠧んとするを、退けて、民人を、毒害すること、なからしめんとする、忠諫なれども、惡艸は、蔓やすく、稻粱は、そだちにくゝ、種まきて、人力を、つくすなれども、諺の寸善尺魔にや、水旱の災も、ありやすくして、思ふほどならざるは、世のありさまなり、ましてや、善は、のぼり道、惡は、下りの、やすき旨あり、もし、惡艸こやしの、片ひいきあらば、さこそ、はびこり、まわり、良田を、野と、なさんも、しらず、己が便にとりては、誰が、いひたりと、はじめ、己が術につきては、誰こそ、かく〱など、迹形の有無に、論なく、己を護ふ狐狸の徒より、人を陷いるゝ、不意穿あり、そのうへ、恆心なきが故、轉變迅速の毒發、風の來れるを、知らざる如く、防ぐべからざるは、奸者の巧なり、嗚呼、武田氏をして、彼奸佞なるものに、くらまされず、君たるの明德を以て、賢能を照し得ば、とびの巣の敗、天目の亡、あれほどに、すみやかならざるべきに、擧て惜むべきことゝす、昔し、漢の代、盛なりし日、秦の亡びし所以を論じて、諫めしあり、後の君たる人も、また、

新字:苟且にも、悪念、悪癖を発し、己に、かけかまわざることにも、人の密事を、索求、他の、少し短を、あげて、形を指さし、勢を咲ひ、よきことあれば、そねみ、ねたみ、毒虫の、身に毒毛ありて、人を、さす如し、古聖賢、彼毒毛に、ふれ、さゝれて、なやみしもの、多し、故に、載籍の上に、佞奸小人を、仇讎とす、本条に引し、三略の文も、其物なりき、昔し甲州武田の諸賢も、彼佞奸の毒虫に、さゝれたればこそ、此段の議論ありたれ、是を論じいひしは、一たび、君徳をして、明ならしめ、小人の霧を起し、物の分ち、みへざるやうにし、国を蠹んとするを、退けて、民人を、毒害すること、なからしめんとする、忠諫なれども、悪艸は、蔓やすく、稲粱は、そだちにくゝ、種まきて、人力を、つくすなれども、諺の寸善尺魔にや、水旱の災も、ありやすくして、思ふほどならざるは、世のありさまなり、ましてや、善は、のぼり道、悪は、下りの、やすき旨あり、もし、悪艸こやしの、片ひいきあらば、さこそ、はびこり、まわり、良田を、野と、なさんも、しらず、己が便にとりては、誰が、いひたりと、はじめ、己が術につきては、誰こそ、かく〱など、迹形の有無に、論なく、己を護ふ狐狸の徒より、人を陥いるゝ、不意穿あり、そのうへ、恒心なきが故、転変迅速の毒発、風の来れるを、知らざる如く、防ぐべからざるは、奸者の巧なり、嗚呼、武田氏をして、彼奸佞なるものに、くらまされず、君たるの明徳を以て、賢能を照し得ば、とびの巣の敗、天目の亡、あれほどに、すみやかならざるべきに、挙て惜むべきことゝす、昔し、漢の代、盛なりし日、秦の亡びし所以を論じて、諫めしあり、後の君たる人も、また、

書き下し

苟且にも、惡念、惡癖を發し、己に、かけかまわざることにも、人の密事を、索求、他の、少し短を、あげて、形を指さし、勢を咲ひ、よきことあれば、そねみ、ねたみ、毒蟲の、身に毒毛ありて、人を、さす如し、古聖賢、彼毒毛に、ふれ、さゝれて、なやみしもの、多し、故に、載籍の上に、佞奸小人を、仇讎とす、本條に引し、三略の文も、其物なりき、昔し甲州武田の諸賢も、彼佞奸の毒蟲に、さゝれたればこそ、此段の議論ありたれ、是を論じいひしは、一たび、君德をして、明ならしめ、小人の霧を起し、物の分ち、みへざるやうにし、國を蠧んとするを、退けて、民人を、毒害すること、なからしめんとする、忠諫なれども、惡艸は、蔓やすく、稻粱は、そだちにくゝ、種まきて、人力を、つくすなれども、諺の寸善尺魔にや、水旱の災も、ありやすくして、思ふほどならざるは、世のありさまなり、ましてや、善は、のぼり道、惡は、下りの、やすき旨あり、もし、惡艸こやしの、片ひいきあらば、さこそ、はびこり、まわり、良田を、野と、なさんも、しらず、己が便にとりては、誰が、いひたりと、はじめ、己が術につきては、誰こそ、かく〱など、迹形の有無に、論なく、己を護ふ狐狸の徒より、人を陷いるゝ、不意穿あり、そのうへ、恆心なきが故、轉變迅速の毒發、風の來れるを、知らざる如く、防ぐべからざるは、奸者の巧なり、嗚呼、武田氏をして、彼奸佞なるものに、くらまされず、君たるの明德を以て、賢能を照し得ば、とびの巣の敗、天目の亡、あれほどに、すみやかならざるべきに、擧て惜むべきことゝす、昔し、漢の代、盛なりし日、秦の亡びし所以を論じて、諫めしあり、後の君たる人も、また、

現代語訳

かりそめにも悪念・悪癖を発し、自分に関わりのないことにも人の密事を探り求め、他人の少しの短所を取り上げて、姿を指さし、勢いを笑い、よいことがあればそねみ、ねたむのは、毒虫が身に毒毛があって人を刺すようなものです。古の聖賢は、あの毒毛に触れ、刺されて悩んだ者が多くいました。そのため書物の上でも、佞奸の小人を仇敵としています。本条に引いた『三略』の文もそのことでした。昔、甲州の武田の諸賢も、あの佞奸の毒虫に刺されたからこそ、この段の議論がありました。これを論じたのは、一たび君の徳を明らかにさせ、小人が霧を起こして物の区別が見えないようにし、国を蝕もうとするのを退けて、民を毒害することのないようにしようとする忠諫でしたが、悪草は蔓延しやすく、稲や粟は育ちにくく、種をまいて人力を尽くしても、諺の「寸善尺魔」でしょうか、水害・旱魃の災いもありやすく、思うようにならないのが世のありさまです。ましてや、善は登り道、悪は下り道で容易なものです。もし悪草に肥やしをやる片贔屓があれば、さぞはびこり広がり、良田を野にしてしまうのも知れません。自分の都合にとっては、誰が言ったと言い、自分の術についてはこれこれと、跡形の有無を問わず、己を護る狐狸の輩より、人を陥れる不意の穿鑿があり、そのうえ恒心がないので、変じる速さで毒が発し、風が来るのを知らないように防ぎようがないのは、奸者の巧みさです。ああ、武田氏が、あの奸佞の者に眩まされず、君としての明徳をもって賢能を照らし得ていたなら、鳶の巣の敗れ、天目の滅亡は、あれほど速やかではなかったでしょうに、挙げて惜しむべきこととします。昔、漢の代の盛んな日に、秦の亡びた理由を論じて諫めた者がありました。後の君たる人もまた、

解説

奸佞の小人を毒虫にたとえ、他人の短所を探し、よいことをそねむ振る舞いが、古来多くの賢者を悩ませたと述べます。善は上り坂で悪は下り坂という言葉どおり、悪は広がりやすく、善は育ちにくいと語り、武田氏が奸佞に惑わされなければあれほど早く滅びなかったと惜しみます。管理職にとっては、噂や告げ口に流されず、事実を確かめて公平に判断することが組織を守る基本です。耳に心地よい進言ばかりを重用していないか、折に触れて点検したいものです。
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人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

『武学啓蒙』力丸東山奸佞武田氏讒言君の明徳

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