武学啓蒙 / 論・質素に徹し、部下を大切に使う心得
按ずるに、論語に、食飽ことを、求むるなく、居は、安を求むることなかれと、又士たるもの、道に志ざし、惡衣、惡食を恥るは、與に議するにたらずと、此條、聖訓にかなへりと云べし、顧に、武士の血戰に、志あるもの、居住の美を、ことゝするは、もちろん、服の美と、味の美を、ゑらぶ心なかるべし、古闘の野陣、小屋どりの、わりより、兵粮、器物の諸品に、至るまで、太平の人の、たゆべきとも、おぼへざるもの多し、古名將、質素にして、驕がましきこと、なきも、此わけなり、子弟輩、よく尋きくべし、昔し、武士の家にて、武器を飾るより外、皆省略せしも、平生の志ざし、唯忠義にありて、死を、善道に守るの、一途なればなり、もし、金銀珠玉、美麗の奢具を、もてわそびとし、婦女に溺れ、酒食に放縱にし、逸樂を、事とする心にては、彼一大事の場所、けはしきに、あひては、家を思ふの念、たへがたく、忠をも、義をも、かへりみず、一向に、死を、のがれんと、にげ、はしり、遂に、千載の謗を、になひ、汚名を、父母、先祖に、及ぼすあり、士たるもの、愼むべき第一なり、又家隸より、下は、馬にいたるまで、かねて、憐恕して、つかふことは、常の道なれども、わけて、武門にては、一命を、さしだす、片腕なれば、大に心得て、つかふべきこと、ならずや、(常用の大小より、衣服の制、予が、武器考略に、ろんぜり、)
新字:按ずるに、論語に、食飽ことを、求むるなく、居は、安を求むることなかれと、又士たるもの、道に志ざし、悪衣、悪食を恥るは、与に議するにたらずと、此条、聖訓にかなへりと云べし、顧に、武士の血戦に、志あるもの、居住の美を、ことゝするは、もちろん、服の美と、味の美を、ゑらぶ心なかるべし、古闘の野陣、小屋どりの、わりより、兵粮、器物の諸品に、至るまで、太平の人の、たゆべきとも、おぼへざるもの多し、古名将、質素にして、驕がましきこと、なきも、此わけなり、子弟輩、よく尋きくべし、昔し、武士の家にて、武器を飾るより外、皆省略せしも、平生の志ざし、唯忠義にありて、死を、善道に守るの、一途なればなり、もし、金銀珠玉、美麗の奢具を、もてわそびとし、婦女に溺れ、酒食に放縦にし、逸楽を、事とする心にては、彼一大事の場所、けはしきに、あひては、家を思ふの念、たへがたく、忠をも、義をも、かへりみず、一向に、死を、のがれんと、にげ、はしり、遂に、千載の謗を、になひ、汚名を、父母、先祖に、及ぼすあり、士たるもの、慎むべき第一なり、又家隸より、下は、馬にいたるまで、かねて、憐恕して、つかふことは、常の道なれども、わけて、武門にては、一命を、さしだす、片腕なれば、大に心得て、つかふべきこと、ならずや、(常用の大小より、衣服の制、予が、武器考略に、ろんぜり、)
書き下し
按ずるに、論語に、食飽ことを、求むるなく、居は、安を求むることなかれと、又士たるもの、道に志ざし、惡衣、惡食を恥るは、與に議するにたらずと、此條、聖訓にかなへりと云べし、顧に、武士の血戰に、志あるもの、居住の美を、ことゝするは、もちろん、服の美と、味の美を、ゑらぶ心なかるべし、古闘の野陣、小屋どりの、わりより、兵粮、器物の諸品に、至るまで、太平の人の、たゆべきとも、おぼへざるもの多し、古名將、質素にして、驕がましきこと、なきも、此わけなり、子弟輩、よく尋きくべし、昔し、武士の家にて、武器を飾るより外、皆省略せしも、平生の志ざし、唯忠義にありて、死を、善道に守るの、一途なればなり、もし、金銀珠玉、美麗の奢具を、もてわそびとし、婦女に溺れ、酒食に放縱にし、逸樂を、事とする心にては、彼一大事の場所、けはしきに、あひては、家を思ふの念、たへがたく、忠をも、義をも、かへりみず、一向に、死を、のがれんと、にげ、はしり、遂に、千載の謗を、になひ、汚名を、父母、先祖に、及ぼすあり、士たるもの、愼むべき第一なり、又家隸より、下は、馬にいたるまで、かねて、憐恕して、つかふことは、常の道なれども、わけて、武門にては、一命を、さしだす、片腕なれば、大に心得て、つかふべきこと、ならずや、(常用の大小より、衣服の制、予が、武器考略に、ろんぜり、)
現代語訳
考えてみると、論語に「食は満腹を求めず、住まいは安楽を求めない」とあり、また「士が道に志しながら、粗末な衣や食を恥じるような者は、ともに議論するに足りない」とあります。この箇条は聖人の教えにかなっていると言うべきです。思うに、武士で血戦に志のある者は、住まいの美を事とせず、もちろん衣服の美や味の美を選ぶ心もないはずです。古の戦いの野陣、小屋の割り当てから兵糧、器物の諸品に至るまで、太平の世の人には耐えられそうにないものが多くあります。古の名将が質素で驕りがましいことがなかったのも、この理由です。子弟たちはよく尋ね聞くべきです。昔、武士の家では武器を飾るほかはみな省略したのは、平生の志がただ忠義にあり、死を善い道に守る一途だったからです。もし金銀珠玉や美麗の奢りの道具をもてあそび、婦女に溺れ、酒食に放縦で、逸楽を事とする心では、あの一大事の場所、険しい場面に遭ったとき、家を思う念に耐えがたく、忠も義も顧みず、ひたすら死を逃れようと逃げ走り、ついには千年の謗りを負い、汚名を父母・先祖に及ぼす者もいます。士たる者の慎むべき第一です。また家来から下は馬に至るまで、日ごろから憐れみ思いやって使うのは常の道ですが、とりわけ武門では一命を差し出す片腕ですから、大いに心得て使うべきではないでしょうか。(常用の大小刀から衣服の制度は、私の『武器考略』で論じました。)
解説

人生を、一行の式にしてみた。
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本の中身を見るこの章句が説くこと
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啓発録・跋嗚呼如何せん、吾身刀圭の家に生れ、賤技に局々として、吾初年の志を遂る事を不得を。然れども所業は此に在りても、所志は彼に在り候へは、後世吾心を知り吾志を憐み吾道を信ずる者あらん歟。嘉永戊申季夏橋本左内誌。
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