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大和俗訓 / 巻之一・為学上

されども藝は末なり、道義の學は本なり。藝をひたすら好めば、必學の志をうばはれて失ふものなり。いはんや私欲のなぐさみ好みにまかするをや。いましむべし。志を立つれば、たとへば西國の人のあづまへ行かんとおもひ立ちて、日々に行くに、其間晝夜あづまへ行かんと思ふ心は、念々つねにやまず。是あづまへ行く志たつなり。かくの如くなれば、つひに志す所に行きとゞかずといふ事なし。道に志すも亦かくの如くなるべし。

新字:されども芸は末なり、道義の学は本なり。芸をひたすら好めば、必学の志をうばはれて失ふものなり。いはんや私欲のなぐさみ好みにまかするをや。いましむべし。志を立つれば、たとへば西国の人のあづまへ行かんとおもひ立ちて、日々に行くに、其間昼夜あづまへ行かんと思ふ心は、念々つねにやまず。是あづまへ行く志たつなり。かくの如くなれば、つひに志す所に行きとゞかずといふ事なし。道に志すも亦かくの如くなるべし。

書き下し

されども芸は末なり、道義の学は本なり。芸をひたすら好めば、必学の志をうばはれて失ふものなり。いはんや私欲のなぐさみ好みにまかするをや。いましむべし。志を立つれば、たとへば西国の人のあづまへ行かんとおもひ立ちて、日々に行くに、其間昼夜あづまへ行かんと思ふ心は、念々つねにやまず。是あづまへ行く志たつなり。かくの如くなれば、つひに志す所に行きとどかずといふ事なし。道に志すも亦かくの如くなるべし。

現代語訳

けれども芸は末であり、道義の学問が本です。芸をひたすら好めば、必ず学問の志を奪われて失うものです。まして私欲の慰みや好みにまかせるのはなおさらです。戒めるべきです。志を立てれば、たとえば西国の人が東国へ行こうと思い立って、毎日進んでいくとき、その間、昼も夜も東国へ行こうと思う心が一念一念常にやまないようなものです。これが東国へ行く志が立ったということです。このようであれば、最後には目指す所に行き着かないということはありません。道に志すのもまた、このようであるべきです。

解説

前の段で文芸・武芸は学ぶべきだと認めたうえで、それでも芸は末、道義の学問が本だと順序を示す段です。本と末を取り違えると、芸にのめり込んで肝心の志を失うと益軒は戒めます。後半の、西国の人が東国を目指して昼夜歩き続けるたとえは、志の持続をわかりやすく描いています。趣味や特技に打ち込むことは悪くありませんが、自分にとって何が本で何が末かを見定めておくと、時間の使い方に迷わなくなります。

この章句が説くこと

志本末芸道義学問

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