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武道初心集 / 文雅一

武士道は。剛強の意地あるを第一と仕るは。勿論の義に候得共。片向に强さ計りにては。何とやらん農人上りの武士を見る樣にて不可然候。學問は勿論。其餘暇には。歌學。茶の湯など。少しづゝは相心得罷在度事にて候。先學問無之候ては。古今の道理を辨へ可申樣無之に付。其身何ほど世智賢くさし當り利發にても。事に臨み差支多きものに候。異國本朝の義を粗々覺悟いたし。時と所と位との三つをよく考へ合せて。其宜さに隨ひ。事を取計らひ候へば。物に致し毀ひと申義は。左のみ無之ものに候。爰を以て學問は勿論とは申にて候。但し心得惡しく候へば。大方は我慢になり。無學文盲なる者をば。目八分に見こなし。其上異國最負をいたし。何もかも唐流を善と心得。たとひ道理は善にもせよ。本朝の今時には。用ひ難さといふ勘辨もなく。片情を張りて物を申す樣なるは。散々の事に候。爰を分別致して學問尤に候。次に歌學の義は。和朝の風俗にして。古今の名將勇士の中に。歌道の達人も有之候。然れば小身の武士たりとも。歌道に立入。折にふれたる腰折の一首も。綴り候程にはあり度事に候。

新字:武士道は。剛強の意地あるを第一と仕るは。勿論の義に候得共。片向に強さ計りにては。何とやらん農人上りの武士を見る様にて不可然候。学問は勿論。其余暇には。歌学。茶の湯など。少しづゝは相心得罷在度事にて候。先学問無之候ては。古今の道理を弁へ可申様無之に付。其身何ほど世智賢くさし当り利発にても。事に臨み差支多きものに候。異国本朝の義を粗々覚悟いたし。時と所と位との三つをよく考へ合せて。其宜さに随ひ。事を取計らひ候へば。物に致し毀ひと申義は。左のみ無之ものに候。爰を以て学問は勿論とは申にて候。但し心得悪しく候へば。大方は我慢になり。無学文盲なる者をば。目八分に見こなし。其上異国最負をいたし。何もかも唐流を善と心得。たとひ道理は善にもせよ。本朝の今時には。用ひ難さといふ勘弁もなく。片情を張りて物を申す様なるは。散々の事に候。爰を分別致して学問尤に候。次に歌学の義は。和朝の風俗にして。古今の名将勇士の中に。歌道の達人も有之候。然れば小身の武士たりとも。歌道に立入。折にふれたる腰折の一首も。綴り候程にはあり度事に候。

書き下し

武士道は。剛強の意地あるを第一と仕るは。勿論の義に候得共。片向に强さ計りにては。何とやらん農人上りの武士を見る樣にて不可然候。學問は勿論。其餘暇には。歌學。茶の湯など。少しづゝは相心得罷在度事にて候。先學問無之候ては。古今の道理を辨へ可申樣無之に付。其身何ほど世智賢くさし當り利發にても。事に臨み差支多きものに候。異國本朝の義を粗々覺悟いたし。時と所と位との三つをよく考へ合せて。其宜さに隨ひ。事を取計らひ候へば。物に致し毀ひと申義は。左のみ無之ものに候。爰を以て學問は勿論とは申にて候。但し心得惡しく候へば。大方は我慢になり。無學文盲なる者をば。目八分に見こなし。其上異國最負をいたし。何もかも唐流を善と心得。たとひ道理は善にもせよ。本朝の今時には。用ひ難さといふ勘辨もなく。片情を張りて物を申す樣なるは。散々の事に候。爰を分別致して學問尤に候。次に歌學の義は。和朝の風俗にして。古今の名將勇士の中に。歌道の達人も有之候。然れば小身の武士たりとも。歌道に立入。折にふれたる腰折の一首も。綴り候程にはあり度事に候。

現代語訳

武士道は、剛強の意地があることを第一とするのはもちろんですが、ただ強いばかりでは、どうも農民上がりの武士を見るようで、よくありません。学問はもちろん、その余暇には、歌学や茶の湯なども、少しずつは心得ておきたいものです。まず学問がなければ、古今の道理をわきまえることができないので、その身がどれほど世知に賢く、さしあたって利発であっても、事に臨んでは差し支えが多いものです。異国と本朝のことをあらあら心得て、時と所と位の三つをよく考え合わせ、その適切さに従って事を取り計らえば、物事をし損なうということは、さほどないものです。これをもって、学問はもちろん、と申すのです。ただし、心得が悪いと、たいていは慢心となり、無学文盲の者を見下し、そのうえ異国かぶれをして、何もかも唐流を善いと考え、たとえ道理は善くても、本朝の今の時代には用いにくいという分別もなく、偏った情をはって物を言うようなことは、とんでもないことです。ここを分別して学問は大切なのです。次に、歌学のことは、わが国の風俗であって、古今の名将や勇士の中にも、歌道の達人がいます。ですから、小身の武士であっても、歌道に立ち入り、折にふれた拙い一首を詠めるほどにはありたいものです。

解説

ここから「文雅」の篇に入り、武士のたしなみとしての学問と歌学が述べられます。友山は、剛強の意地を第一としつつ、強いだけでは農民上がりの武士のようで良くないと言い、学問の意義を、古今の道理をわきまえて事に臨んで差し支えないようにするためだと説明します。そのうえで、時と所と位の三つをよく考え合わせよ、と具体的な物差しを示します。同時に、学問は慢心や異国かぶれにつながりやすいと警告し、無学の者を見下したり、唐流を何でも善いと思ったりする態度を戒めます。歌学は、名将・勇士にも達人がいるとして、小身の武士にも拙い一首程度は勧めます。現代でも、流行の手法に酔って現場の事情を無視する人は多く、学びを時・所・位に合わせて使う視点が示されています。

この章句が説くこと

文雅学問歌学慢心時と所と位武道初心集

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