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驢鞍橋 / 卷下

午の五月十七日、一庵に示して曰く、學文計して機をへらさずとも、心の强く成る位を仕習ふべし。その賢人は何とし、此の聖人は何と有りと、人の上を取て、我鼻に上けたりとも、何の用にも立つべからず。結句是れを以て人を賤めて居る物也。誠に今迄學して好き人を一人も見す、學した程の者は皆惡き也。兎角今の分になし行かば、其方も三十迄はいきぬずと也。因に去る人曰く、誠に學文は詮なき物也。儒者何某あれほと廣學なれども、次第に欲深く成ると申す也。師曰く、次第に機沈み行く間、欲も深からてば、强い機ならてば切端なし。沈みたる機著、離れかたかるべし。一庵も兎角命は惜しかるべしと也。

新字:午の五月十七日、一庵に示して曰く、学文計して機をへらさずとも、心の強く成る位を仕習ふべし。その賢人は何とし、此の聖人は何と有りと、人の上を取て、我鼻に上けたりとも、何の用にも立つべからず。結句是れを以て人を賤めて居る物也。誠に今迄学して好き人を一人も見す、学した程の者は皆悪き也。兎角今の分になし行かば、其方も三十迄はいきぬずと也。因に去る人曰く、誠に学文は詮なき物也。儒者何某あれほと広学なれども、次第に欲深く成ると申す也。師曰く、次第に機沈み行く間、欲も深からてば、強い機ならてば切端なし。沈みたる機著、離れかたかるべし。一庵も兎角命は惜しかるべしと也。

書き下し

午の五月十七日、一庵に示して曰く、学文計して機をへらさずとも、心の强く成る位を仕習ふべし。その賢人は何とし、此の聖人は何と有りと、人の上を取て、我鼻に上けたりとも、何の用にも立つべからず。結句是れを以て人を賤めて居る物也。誠に今迄学して好き人を一人も見す、学した程の者は皆悪き也。兎角今の分になし行かば、其方も三十迄はいきぬずと也。因に去る人曰く、誠に学文は詮なき物也。儒者何某あれほと広学なれども、次第に欲深く成ると申す也。師曰く、次第に機沈み行く間、欲も深からてば、强い機ならてば切端なし。沈みたる機著、離れかたかるべし。一庵も兎角命は惜しかるべしと也。

現代語訳

午の年五月十七日、一庵に示して言われた。学問ばかりして気迫を減らさなくても、心が強くなる位を習いなさい。その賢人はどうした、この聖人はどうだと、人の上のことを取って自分の鼻に掛けても、何の役にも立たない。かえってこれで人を卑しめているものである。まことに今まで学問して良い人を一人も見ない。学問をしたほどの者は、みな悪い。とにかく今のままでいったら、あなたも三十までは生きないだろう、と。ついでにある人が言った。まことに学問は甲斐のないものです。儒者の某は、あれほど博学ですが、次第に欲深くなると申します。師は言われた。次第に気迫が沈んでいくので、欲も深くなるのだ。強い気迫でなければ、断ち切る刃はない。沈んだ気迫の執着は、離れがたいだろう。一庵も、とにかく命は惜しいのだろう、と。

解説

学問ばかりして気力を減らしている弟子に、正三は、あの賢人はこう、この聖人はこうと他人の言葉を集めて鼻にかけても、何の役にも立たず、かえって人を見下す種になる、と厳しく言う。博学な儒者が次第に欲深くなるという話にも、学問で気力が沈むから欲も深まる、強い気迫がなければ断ち切れない、と答える。知識の量が人格を高めるとは限らず、かえって慢心と欲を育てることがある、という鋭い警告である。
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この章句が説くこと

学問博学慢心欲気迫知識の害

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