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武道初心集 / 臨終一

武士たらむものは。大小上下に限らず。第一の心掛たしなみと申すは。其身の果際の善惡に止り申候。常々何程口をきゝ。利根才覺に見え候者も。今を限りの時に臨み。前後不覺に取亂し最期惡しく候ては。前方の善行は皆々水に成り。心ある人の下墨に預り。大きに恥かしき事にて候。武士の戰塲に臨みて。武邊手柄の働を仕り。高名を極るも。兼て討死と覺悟を極め置たる上の事にて候。去るに依て。時の運惡しく勝負に仕負。敵に首を取らるゝ時。我名を敵に問れては愷かに姓名を名乘り。莞爾と笑て首をわたし。毛頭もわるびれたる氣色なく。或は外科の療治に叶はぬ程の深手を負ても。正氣さへあれば。番頭。組頭。諸傍輩の閒前にて。愷に物をも申し手負ぶりをたしなみ。尋常に相果候は。武士の正義第一の所に候。爰を以て考へ候得ば。靜謐の時代たり共。武士をたしなむものは。其身老人ならば申すに及ばず。たとひ年若く候ても。大病を受候に於ては。覺悟を極め。

新字:武士たらむものは。大小上下に限らず。第一の心掛たしなみと申すは。其身の果際の善悪に止り申候。常々何程口をきゝ。利根才覚に見え候者も。今を限りの時に臨み。前後不覚に取乱し最期悪しく候ては。前方の善行は皆々水に成り。心ある人の下墨に預り。大きに恥かしき事にて候。武士の戦塲に臨みて。武辺手柄の働を仕り。高名を極るも。兼て討死と覚悟を極め置たる上の事にて候。去るに依て。時の運悪しく勝負に仕負。敵に首を取らるゝ時。我名を敵に問れては愷かに姓名を名乗り。莞爾と笑て首をわたし。毛頭もわるびれたる気色なく。或は外科の療治に叶はぬ程の深手を負ても。正気さへあれば。番頭。組頭。諸傍輩の閒前にて。愷に物をも申し手負ぶりをたしなみ。尋常に相果候は。武士の正義第一の所に候。爰を以て考へ候得ば。静謐の時代たり共。武士をたしなむものは。其身老人ならば申すに及ばず。たとひ年若く候ても。大病を受候に於ては。覚悟を極め。

書き下し

武士たらむものは。大小上下に限らず。第一の心掛たしなみと申すは。其身の果際の善惡に止り申候。常々何程口をきゝ。利根才覺に見え候者も。今を限りの時に臨み。前後不覺に取亂し最期惡しく候ては。前方の善行は皆々水に成り。心ある人の下墨に預り。大きに恥かしき事にて候。武士の戰塲に臨みて。武邊手柄の働を仕り。高名を極るも。兼て討死と覺悟を極め置たる上の事にて候。去るに依て。時の運惡しく勝負に仕負。敵に首を取らるゝ時。我名を敵に問れては愷かに姓名を名乘り。莞爾と笑て首をわたし。毛頭もわるびれたる氣色なく。或は外科の療治に叶はぬ程の深手を負ても。正氣さへあれば。番頭。組頭。諸傍輩の閒前にて。愷に物をも申し手負ぶりをたしなみ。尋常に相果候は。武士の正義第一の所に候。爰を以て考へ候得ば。靜謐の時代たり共。武士をたしなむものは。其身老人ならば申すに及ばず。たとひ年若く候ても。大病を受候に於ては。覺悟を極め。

現代語訳

武士たるものは、大小や上下を問わず、第一の心がけとたしなみは、その身の最期の善し悪しにとどまります。常日頃どれほど口がうまく、利発で才覚があるように見えた者でも、今を限りの時に臨んで、前後不覚に取り乱し、最期が悪ければ、それまでの善行はすべて水の泡となり、心ある人の見下げられるところとなって、たいへん恥ずかしいことです。武士が戦場に臨んで、武辺の手柄の働きをして高名を極めるのも、あらかじめ討ち死にと覚悟を決めておいたうえでのことです。したがって、時の運が悪く勝負に負けて、敵に首を取られるとき、名を敵に問われれば静かに姓名を名乗り、にっこり笑って首を渡し、少しも見苦しい様子を見せず、あるいは外科の治療では間に合わないほどの深手を負っても、正気さえあれば、番頭・組頭・同僚たちの面前で、静かに物を言い、手負いの様子をたしなんで、平常のとおり亡くなるのが、武士の正義の第一のところです。ここから考えますと、静かな世の中であっても、武士をたしなむ者は、老人はもちろん、たとえ年が若くても、大病にかかったときは覚悟を決め、

解説

ここから三段、臨終の心得が続きます。友山の第一の主張は、武士のたしなみで最も大事なのは最期の善し悪しだという点です。普段どれほど口が立ち才覚があるように見えても、臨終で取り乱せば、それまでの善行はすべて水の泡になると言います。戦場の討ち死にであれ、静かに名乗って笑って首を渡し、深手を負っても正気のあるうちは同僚の前で静かに話すのが、武士の正義だとします。そのうえで、太平の世でも、大病にかかれば覚悟を決めよと、話を日常に引き寄せます。『葉隠』のような常住死身の気迫とは違い、友山は病という現実的な場面を想定し、準備のしかたに話を進めていきます。人生の終盤をどう迎えるかという問いは、キャリアの終え方にも通じます。

この章句が説くこと

臨終最期覚悟たしなみ名乗り武道初心集

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