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武道初心集 / 馬術二

馬さへよくば。求めて繫く心得尤に候。むかし信州村上家に。額岩寺と申て。三百騎許の大將にて。弓矢功者の武士有之。自分の乘料家中の馬共に。世の人の大に嫌ふ毛疵といへども。少しも忌ことなく。求め繫く家風に致しなし。家中の諸士に馬塲責をさする事なく。五十騎も百騎も城下の廣野へ罷出。額岩寺眞先に進て。原中を縱橫十文字に馳廻り。馬より落るかと見れば其まゝ飛乘り。乘るかと思へば則飛下り候義を。自由に致すを以て。よき乘手と申して譽之候。去るに依て。其時代甲州武田の家中に於ても。信州額岩寺が如くなる敵へは。大物見必ず遠慮との取沙汰致し候。是額岩寺身にとりて。大き成る譽に候。凡武士の戰塲へ乘る馬は中の上肝にして。高は一寸より三寸まで。頭持は中頭にて。後脚は中の後脚とこそ申傳へ候。然るに乘替もたぬ。小身武士の壹疋馬を。上肝にして。大高なるを欲しがり。頭持はいかほども高きに厭かず。後脚は一間後脚など申て。何程も廣きを悅び。前に取らせむとては腕の筋をのべ。

新字:馬さへよくば。求めて繋く心得尤に候。むかし信州村上家に。額岩寺と申て。三百騎許の大将にて。弓矢功者の武士有之。自分の乗料家中の馬共に。世の人の大に嫌ふ毛疵といへども。少しも忌ことなく。求め繋く家風に致しなし。家中の諸士に馬塲責をさする事なく。五十騎も百騎も城下の広野へ罷出。額岩寺真先に進て。原中を縦横十文字に馳廻り。馬より落るかと見れば其まゝ飛乗り。乗るかと思へば則飛下り候義を。自由に致すを以て。よき乗手と申して誉之候。去るに依て。其時代甲州武田の家中に於ても。信州額岩寺が如くなる敵へは。大物見必ず遠慮との取沙汰致し候。是額岩寺身にとりて。大き成る誉に候。凡武士の戦塲へ乗る馬は中の上肝にして。高は一寸より三寸まで。頭持は中頭にて。後脚は中の後脚とこそ申伝へ候。然るに乗替もたぬ。小身武士の壱疋馬を。上肝にして。大高なるを欲しがり。頭持はいかほども高きに厭かず。後脚は一間後脚など申て。何程も広きを悦び。前に取らせむとては腕の筋をのべ。

書き下し

馬さへよくば。求めて繫く心得尤に候。むかし信州村上家に。額岩寺と申て。三百騎許の大將にて。弓矢功者の武士有之。自分の乘料家中の馬共に。世の人の大に嫌ふ毛疵といへども。少しも忌ことなく。求め繫く家風に致しなし。家中の諸士に馬塲責をさする事なく。五十騎も百騎も城下の廣野へ罷出。額岩寺眞先に進て。原中を縱橫十文字に馳廻り。馬より落るかと見れば其まゝ飛乘り。乘るかと思へば則飛下り候義を。自由に致すを以て。よき乘手と申して譽之候。去るに依て。其時代甲州武田の家中に於ても。信州額岩寺が如くなる敵へは。大物見必ず遠慮との取沙汰致し候。是額岩寺身にとりて。大き成る譽に候。凡武士の戰塲へ乘る馬は中の上肝にして。高は一寸より三寸まで。頭持は中頭にて。後脚は中の後脚とこそ申傳へ候。然るに乘替もたぬ。小身武士の壹疋馬を。上肝にして。大高なるを欲しがり。頭持はいかほども高きに厭かず。後脚は一間後脚など申て。何程も廣きを悅び。前に取らせむとては腕の筋をのべ。

現代語訳

馬さえよければ、求めてつなぐ心得はもっともです。昔、信州の村上家に、額岩寺という、三百騎ほどの大将で弓矢に熟達した武士がいました。自分の乗用や家中の馬に、世の人が大いに嫌う毛疵があっても少しも忌むことなく、求めてつなぐ家風にし、家中の諸士に馬場で責めさせることなく、五十騎も百騎も城下の広野に出て、額岩寺が真っ先に進み、原の中を縦横十文字に馳せ回り、馬から落ちるかと見えればそのまま飛び乗り、乗るかと思えばすぐ飛び下りることを自在にするのを、よい乗り手として誉めました。それゆえ、その時代に甲州武田の家中でも、信州の額岩寺のような敵に対しては、大がかりな物見は必ず遠慮すべしと取り沙汰しました。これは額岩寺自身にとって大きな誉れです。おおよそ武士が戦場で乗る馬は、中の上の肝で、高さは一寸から三寸まで、頭の持ちは中ぐらいの頭で、後脚は中の後脚と申し伝えています。ところが乗り替えの馬を持たない小身の武士が、一頭の馬を上肝にして大高を欲しがり、頭の持ちはいくら高くても飽きず、後脚は一間後脚などと言っていくらでも広いのを喜び、前に取らせようとしては腕の筋を伸ばし、

解説

額岩寺の逸話は、毛疵を気にせず馬を求め、家中に馬場責めをさせず、自らが先頭で野を馳せて見せたという話です。その実力は武田の家中にも警戒されたと友山は述べます。ここでの要点は、見た目や外聞でなく、使えるかどうかで道具を選ぶこと、そして大将自身が率先して腕を示すことです。後半は、戦場で乗る馬は中ほどがよいという伝承に対し、小身の武士が高さや脚の広さを欲張る姿を示しています。現代でも、人や機材を見栄えで選び、実戦で使えない例は多くあります。自分が先頭で手本を示す姿勢は、管理職にも通じます。

この章句が説くこと

額岩寺馬術実用率先垂範外聞武道初心集

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