武道初心集 / 士法一
武士道に。二法四段の子細有之候。二法とは常法變法に候、常法の內に士法兵法あり。變法の內に軍法戰法有て。都合四段に候。先づ士法と申は。朝夕手足を洗ひ。湯風呂にも入て。身を潔く持なし。毎朝髮を結ひ。節々月額をも剃り。時節に應じたる禮服を着し。刀脇差の義は申に及ばず。腰に扇子を離さず。客對のときは。尊卑に隨て相當の禮義を盡し。無益の言語を愼しみ。たとひ一椀の飯を食し。一服の茶を啜るに付ても。其さま拙からざる樣にと。油斷なく是をたしなみ。其身奉公人ならば。非番休息の透々には只居を致さず。書を讀み字を書き。武家の古實古法を心にかけ。行住座臥の行義作法。流石武士と見ゆる樣に。身を持なす義に候。次に兵法と申は腰刀の勝負を最初と致し。鎗をつかひ馬に乘弓を射鐵砲を發し。其外何によらず。武藝とさへあれば。數奇好みて稽古仕り。修練を極めて。其身の覺悟と致す義に候。右士法兵法の二段の修行さへ相調候へば。常法に於ては何の不足も無之候に付。大抵の人の眼には。儲も好武士かなよき使ひ料かなと見え申ものに候。然りといへども。武士はもと變の役人に候。
新字:武士道に。二法四段の子細有之候。二法とは常法変法に候、常法の内に士法兵法あり。変法の内に軍法戦法有て。都合四段に候。先づ士法と申は。朝夕手足を洗ひ。湯風呂にも入て。身を潔く持なし。毎朝髪を結ひ。節々月額をも剃り。時節に応じたる礼服を着し。刀脇差の義は申に及ばず。腰に扇子を離さず。客対のときは。尊卑に随て相当の礼義を尽し。無益の言語を慎しみ。たとひ一椀の飯を食し。一服の茶を啜るに付ても。其さま拙からざる様にと。油断なく是をたしなみ。其身奉公人ならば。非番休息の透々には只居を致さず。書を読み字を書き。武家の古実古法を心にかけ。行住座臥の行義作法。流石武士と見ゆる様に。身を持なす義に候。次に兵法と申は腰刀の勝負を最初と致し。鎗をつかひ馬に乗弓を射鉄砲を発し。其外何によらず。武芸とさへあれば。数奇好みて稽古仕り。修練を極めて。其身の覚悟と致す義に候。右士法兵法の二段の修行さへ相調候へば。常法に於ては何の不足も無之候に付。大抵の人の眼には。儲も好武士かなよき使ひ料かなと見え申ものに候。然りといへども。武士はもと変の役人に候。
書き下し
武士道に。二法四段の子細有之候。二法とは常法變法に候、常法の內に士法兵法あり。變法の內に軍法戰法有て。都合四段に候。先づ士法と申は。朝夕手足を洗ひ。湯風呂にも入て。身を潔く持なし。毎朝髮を結ひ。節々月額をも剃り。時節に應じたる禮服を着し。刀脇差の義は申に及ばず。腰に扇子を離さず。客對のときは。尊卑に隨て相當の禮義を盡し。無益の言語を愼しみ。たとひ一椀の飯を食し。一服の茶を啜るに付ても。其さま拙からざる樣にと。油斷なく是をたしなみ。其身奉公人ならば。非番休息の透々には只居を致さず。書を讀み字を書き。武家の古實古法を心にかけ。行住座臥の行義作法。流石武士と見ゆる樣に。身を持なす義に候。次に兵法と申は腰刀の勝負を最初と致し。鎗をつかひ馬に乘弓を射鐵砲を發し。其外何によらず。武藝とさへあれば。數奇好みて稽古仕り。修練を極めて。其身の覺悟と致す義に候。右士法兵法の二段の修行さへ相調候へば。常法に於ては何の不足も無之候に付。大抵の人の眼には。儲も好武士かなよき使ひ料かなと見え申ものに候。然りといへども。武士はもと變の役人に候。
現代語訳
武士道には、二法四段の子細がございます。二法とは常法と変法で、常法のうちに士法と兵法があり、変法のうちに軍法と戦法があって、あわせて四段でございます。まず士法と申すのは、朝夕に手足を洗い、湯風呂にも入って身を清潔に保ち、毎朝髪を結い、節々には月代も剃り、時節に応じた礼服を着し、刀・脇差はもちろんのこと、腰に扇子を離さず、客に対するときは身分の上下に従って相応の礼儀を尽くし、無益な言葉を慎み、たとえ一椀の飯を食べ、一服の茶をすするにつけても、その様子が見苦しくないようにと、油断なくたしなみ、その身が奉公人ならば、非番や休息のひまひまにはただ居るだけにせず、書を読み、字を書き、武家の古実・古法を心にかけ、立ち居振る舞いの行儀作法が、さすが武士と見えるように身を持ち扱うことです。次に兵法と申すのは、腰刀の勝負を最初として、槍を使い、馬に乗り、弓を射、鉄砲を撃ち、そのほか何によらず武芸とあれば好んで稽古し、修練を極めて、自分の覚悟とすることです。この士法・兵法の二段の修行さえ整っていれば、常法においては何の不足もありませんので、たいていの人の目には、なるほどよい武士だ、よい使い手だと見えるものです。しかしながら、武士はもともと変事に備える役人でございます。
解説
この章句が説くこと
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