武道初心集 / 士法二
世の騷動の砌は日比の士法をばしばらく取置き。常には御主君殿樣と申御方を。御大將と申し。家中大小の士の義は。軍兵士卒と呼び。上も下も禮服を脫ぎ捨て。身には甲冑を着。手に兵仗を提げて。敵地へ進み向ふ樣體をさして軍陣と申候。是に付て種々の仕樣仕形の習ひ事あるを。名付て軍法と申候。是を知らずしては叶ふべからず候。次に戰法と申は。敵味方出會て旣に一戰に及ぶ刻。味方備の立配り。人數の扱ひ。圖に當る時は勝利をえ。圖に當らざる時は勝利を失ひ。敗北に及び候。其仕樣仕形に習ひ口訣あるを名付て戰法と申候。是亦知らずしては叶ふべからず候。變法に二段ありと申すは此事に候。右常法變法四段の修行成就の武士をさして。上品の士とは申にて候。常法の二段相調ひ候得ば。一騎前の勤めに於ては事濟候得共。變法の二段に未熟にては。士大將者頭物奉行等は勤り不申候。依て爰を分別致し。とても武士を立罷在に付ては。士法兵法の義は申に及ばず。軍法戰法の奧秘まで修行致し。一度上品の士と不罷成しては。指置まじきをと心懸。肝要の所に候。初心の武士心ゑの爲仍如件。
新字:世の騷動の砌は日比の士法をばしばらく取置き。常には御主君殿様と申御方を。御大将と申し。家中大小の士の義は。軍兵士卒と呼び。上も下も礼服を脱ぎ捨て。身には甲冑を着。手に兵仗を提げて。敵地へ進み向ふ様体をさして軍陣と申候。是に付て種々の仕様仕形の習ひ事あるを。名付て軍法と申候。是を知らずしては叶ふべからず候。次に戦法と申は。敵味方出会て既に一戦に及ぶ刻。味方備の立配り。人数の扱ひ。図に当る時は勝利をえ。図に当らざる時は勝利を失ひ。敗北に及び候。其仕様仕形に習ひ口訣あるを名付て戦法と申候。是亦知らずしては叶ふべからず候。変法に二段ありと申すは此事に候。右常法変法四段の修行成就の武士をさして。上品の士とは申にて候。常法の二段相調ひ候得ば。一騎前の勤めに於ては事済候得共。変法の二段に未熟にては。士大将者頭物奉行等は勤り不申候。依て爰を分別致し。とても武士を立罷在に付ては。士法兵法の義は申に及ばず。軍法戦法の奥秘まで修行致し。一度上品の士と不罷成しては。指置まじきをと心懸。肝要の所に候。初心の武士心ゑの為仍如件。
書き下し
世の騷動の砌は日比の士法をばしばらく取置き。常には御主君殿樣と申御方を。御大將と申し。家中大小の士の義は。軍兵士卒と呼び。上も下も禮服を脫ぎ捨て。身には甲冑を着。手に兵仗を提げて。敵地へ進み向ふ樣體をさして軍陣と申候。是に付て種々の仕樣仕形の習ひ事あるを。名付て軍法と申候。是を知らずしては叶ふべからず候。次に戰法と申は。敵味方出會て旣に一戰に及ぶ刻。味方備の立配り。人數の扱ひ。圖に當る時は勝利をえ。圖に當らざる時は勝利を失ひ。敗北に及び候。其仕樣仕形に習ひ口訣あるを名付て戰法と申候。是亦知らずしては叶ふべからず候。變法に二段ありと申すは此事に候。右常法變法四段の修行成就の武士をさして。上品の士とは申にて候。常法の二段相調ひ候得ば。一騎前の勤めに於ては事濟候得共。變法の二段に未熟にては。士大將者頭物奉行等は勤り不申候。依て爰を分別致し。とても武士を立罷在に付ては。士法兵法の義は申に及ばず。軍法戰法の奧秘まで修行致し。一度上品の士と不罷成しては。指置まじきをと心懸。肝要の所に候。初心の武士心ゑの爲仍如件。
現代語訳
世の騒動の折には、日ごろの士法はしばらくさしおき、常には御主君、殿様と申し上げる御方を御大将と呼び、家中の大小の士のことは軍兵・士卒と呼び、上も下も礼服を脱ぎ捨て、身には甲冑を着け、手に兵仗を提げて、敵地へ進み向かう様子を軍陣と申します。これについて、さまざまな仕様・仕形の習いごとがあるのを、名付けて軍法と申します。これを知らなくてはなりません。次に戦法と申すのは、敵と味方が出会って、すでに一戦に及ぶとき、味方の備えの立て方、人数の扱いなどで、図に当たるときは勝利を得、図に当たらないときは勝利を失い、敗北に及びます。その仕様・仕形に習い・口訣があるのを、名付けて戦法と申します。これもまた知らなくてはなりません。変法に二段あると申すのは、このことです。この常法・変法の四段の修行を成就した武士を指して、上品の士と申します。常法の二段が整えば、一騎前の勤めにおいては事は足りますが、変法の二段に未熟では、士大将・者頭・物奉行などは務まりません。そこで、ここを分別して、いずれ武士として身を立てている以上は、士法・兵法はもちろん、軍法・戦法の奥秘まで修行し、一度は上品の士にならないでは置くまいと心がけることが肝要なところです。初心の武士の心得のために、以上のとおりである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『墨子』尚同中故に古者の正長を置くや、將に以て民を治めんとするなり。之を譬うるに絲縷に紀有り、而して罔罟に綱有るが若きなり。將に以て天下の淫暴を運役して其の義を一同せんとするなり。是を以て先王の書、相年の道いて曰く、「夫れ國を建て都を設け、乃ち后王君公を作るは、泰を用うるに否ざるなり。大夫師長を輕んずるは、佚を用うるに否ざるなり。維れ辯じて天均を治めしむ」と。則ち此れ古者、上帝鬼神の國都を建設し正長を立つるは、其の爵を髙くし、其の祿を厚くし、富貴佚樂にして之を錯くに非ず、將に以て萬民の為に利を興し害を除き、貧寡を富貴にし、危亂を安治にせんとするを語るなり。故に古者、聖王の為すこと此くの若し。
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『韓非子』難勢第四十堯も匹夫為らば、三人を治むること能わじ、而して桀天子為れば、能く天下を亂る。吾此を以て勢位の恃むに足り、而して賢智の慕うに足らざるを知るなり。
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『講孟余話』公孫丑下 第五章「霊丘を辞して士師を請ふ」。霊丘は下邑なり、其の大夫は今の代官の類にして、而も常に治所に居る。故に都城に遠くして、数々得失を上言することを得ず。故に士師を請ふ。士師は都城の官なれば、上言も心の儘なるを以てなり。漢の武帝元狩五年、初めて諫大夫を置く。是れより以前は諫官と云ふ者なき故に、諸官皆上言することを得しなり。註に「士師は王に近く、以て刑罰の中らざる者を諫むることを得」と云ふ。然れども士師の言ふことを得る、恐らくは刑罰を諫むるに止まらざるべし。
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『政談』官位爵祿の次第並に勳階頭助允目の事古より官位爵禄と云ふことあり、官と云ふは今の役儀なり、位と云ふは今の座席也、爵と云ふは官位の外に別に規模なることを拵へ置て、之を人に賜はることなる故今の官位なり、今の官位も古公家の代には役儀を官と云ひ、座席を位と云へとも、今は皆名はかりになりて、当時は武家の役と席との外に別に官位を設くることなれは、今の官位は古の爵にあたるなり、根は古も今も変りなし、然るに当時は一役一席に定めて、役と席と離したものなる故、役の進めは席をも進み、役の下くれは席も下かることの段不便利なることなり、古にも官と位とに相当あれとも、或は官高く位低きも有り、或ば官低きく位高きもあり、強ちに一様ならぬに仔細あることなり、当時の如く役と席とを離れたものに拵へ置くときは、役の替れは席も必らす夫に連れて替はる、
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『墨子』貴義子墨子曰く、世の君子、之をして一彘の宰と為らしむるに、能わずんば則ち之を辭す。一國の相と為らしむるに、能わざるも之を為す。豈に悖らざらんや。
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論語・顔淵篇子張、政を問う。子曰く、「之に居りて倦むこと無く、之を行うに忠を以てす。」
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