武治提要 / 傳璽・第8段
敎養に文學讀書を必とすること、世の通例なり。尤善敎にしてこれをなすこと、武敎の實を以てせざるときは、必ず害あり。幼將の智漸く通ずるに及では、先武義武勇に導ことを主要とす。而して后これをたすくるに文學を以てするときは、大益たり。文章詩句のごとき、亦文の一事にして、泥著して嗜べからず。蓋し文學に二の大益あり。聖人の心を知、古今の情を知、これ第一益なり。多く天下の事物を知、これ第二益なり。此事物を知と云に品あり。文學をなすもの、多くは外國の事物を知て、本朝の事物を不知、これ世の通病なり。武將は只 本朝の事物を知を先務とす。民間卑劣の事物といへども、能これを知を武將の博覽と稱すべし。武治に志あらざるときは、必ずこれにうとし。故に幼將の內よりも卑劣たることを知しめて、折にふれ凡下の事物をも茗談し、下情に通ぜしむること、尤も大益たり。かの麥飯に通ぜざるごときこと、治世國郡の將に尤も多し、武將の不明に近し。
新字:教養に文学読書を必とすること、世の通例なり。尤善教にしてこれをなすこと、武教の実を以てせざるときは、必ず害あり。幼将の智漸く通ずるに及では、先武義武勇に導ことを主要とす。而して后これをたすくるに文学を以てするときは、大益たり。文章詩句のごとき、亦文の一事にして、泥著して嗜べからず。蓋し文学に二の大益あり。聖人の心を知、古今の情を知、これ第一益なり。多く天下の事物を知、これ第二益なり。此事物を知と云に品あり。文学をなすもの、多くは外国の事物を知て、本朝の事物を不知、これ世の通病なり。武将は只 本朝の事物を知を先務とす。民間卑劣の事物といへども、能これを知を武将の博覧と称すべし。武治に志あらざるときは、必ずこれにうとし。故に幼将の内よりも卑劣たることを知しめて、折にふれ凡下の事物をも茗談し、下情に通ぜしむること、尤も大益たり。かの麦飯に通ぜざるごときこと、治世国郡の将に尤も多し、武将の不明に近し。
書き下し
敎養に文學讀書を必とすること、世の通例なり。尤善敎にしてこれをなすこと、武敎の實を以てせざるときは、必ず害あり。幼將の智漸く通ずるに及では、先武義武勇に導ことを主要とす。而して后これをたすくるに文學を以てするときは、大益たり。文章詩句のごとき、亦文の一事にして、泥著して嗜べからず。蓋し文學に二の大益あり。聖人の心を知、古今の情を知、これ第一益なり。多く天下の事物を知、これ第二益なり。此事物を知と云に品あり。文學をなすもの、多くは外國の事物を知て、本朝の事物を不知、これ世の通病なり。武將は只 本朝の事物を知を先務とす。民間卑劣の事物といへども、能これを知を武將の博覽と稱すべし。武治に志あらざるときは、必ずこれにうとし。故に幼將の內よりも卑劣たることを知しめて、折にふれ凡下の事物をも茗談し、下情に通ぜしむること、尤も大益たり。かの麥飯に通ぜざるごときこと、治世國郡の將に尤も多し、武將の不明に近し。
現代語訳
教養に文学・読書を必ず取り入れるのは、世の通例です。たとえ善い教えであっても、武教の実をもってしなければ、必ず害があります。幼い将の智がようやく通じるようになったら、まず武義・武勇に導くことを主要とします。その後で、それを助けるのに文学をもってすれば、大きな益になります。文章や詩句などは、また文の一つの事柄であって、とらわれて嗜んではなりません。思うに、文学には二つの大きな益があります。聖人の心を知り、古今の情を知ること、これが第一の益です。多く天下の事物を知ること、これが第二の益です。この事物を知るというのにも品があります。文学をする者は、多くは外国の事物を知って、本朝の事物を知りません。これは世の通弊です。武将はただ、本朝の事物を知ることを先務とします。民間の卑しい事物であっても、よくこれを知るなら、武将の博覧と称すべきです。武治に志がなければ、必ずこれにうといものです。だから、幼い将のうちから卑しいことも知らせ、折にふれて庶民の事物を談じて、下情に通じさせることは、最も大きな益です。かの麦飯を知らない、といったことは、治世の国郡の将に最も多く、武将の不明に近いのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『武治提要』武事・第2段武學の要旨、古典を讀て、武國の風俗を知、武治の本意を辨、猶先進に問て其奧旨を曉すべし。軍書を學て、勝負の情を切にわきまえ、或は古戰の得失を論じて今日を知、以て勝利の淵源に通ずべし。爰に至て事理の大段明なり。武術に及ては御法を第一とす。劔法これに次、射法鐵砲等これに次。蓋しこれ武將武術を學習するの序なるべし。武器の品甚多く、古今の制、沿革の跡容易にきわむべからず。唯其利、不利を實にこゝろみ、全備省略の法を明にすべし。
-
『武士訓』卷一・第4段世俗の說に。われは武人なり。武をこそ專らにすべけれ。文はまなぶにたらずといふは。武の本意をしらざるなり。文武は。車の兩輪のごとく。鳥の二翼にひとしければ。かた〳〵かけてはたちがたし。邵堯夫文武吟にも。旣爲文士。必有武備。文武之道。皆我家事と賦せり。但し文武をまなぶに。まづ文學をすゝめて忠孝の道をさとしめ。其のちに武術をならはすべし。武術を前にして。文學を後にすることなかれ。許棐氏が語に。讀孔孟之書而不嗜殺人者。未爲仁人也。讀孫吳之書而不嗜殺人者。仁人也とあるを考べし。軍學すらすでにしかり。况や其以下の小藝をや。文學は木の根本のごとく。諸藝は枝葉にひとしといへり。幼より文學をせざるうちに。外の藝にわたれば。事によりて。先入主となりて。害をまうくることも多しとなむ。
-
『文武訓』文訓上ここを以て、いとけなくわかき年、早く書をよむべし。もろもろの芸は、年たけてもならひやすし。只、書を読むことは、年たけては、おぼえよわく、気力すくなく、ひますくなし。このゆゑに、いとけなき時より、まづ、芸などのことわざはおろそかにしても、もはらつとめて書を読みならふべし。是、一生の身のたからとなるなり。書を読まざれば、道にくらきのみならず、万の事にくらし。書を読まざる人は、わがくらき事を知らず。はかなしといふべし。弓馬の芸をならひても、文字なければ、芸の理にくらくして其芸いやし。次に六芸をならふべし。もののふは、つるぎ、はこ、拳法などの術ならひ知るべし。文学は本なり、文武の芸は末なり。本なければ人の道立たず、末なければ人のわざ行はれず。
-
『武治提要』傳璽・第5段敎養の名號を別に設るときは、幼將必ず倦む。倦ときは其志背てならず。故に日用の事物に敎の實を寓すること、これ先其要なり。人幼弱の日は戲遊を安とす、故に或は書畫を以て其情を慰め、自然と物の稱號象形を知しむるは、智をなすの道なり。或は竹馬を以て馳逐の遊事をなし、或は蒲刀を以て勝負のまなびをなすがごときは、勇に涵浸するの道なり。其情のすゝみ向を察して、或は威儀のものまなびをなし、或は古將嚴肅の事實を談ずるは、德に導の術なり。總じて一事一物を以てするときは、幼年の人其情必ず倦、故に常に事物を新にして、其英氣をとりそだつるにあり。傅職能其大綱を心に得て、幼將の情を察し、敎養を以て深く身に委るときは、ならずと云ことあるべからず。
-
『武治提要』武智・第1段武道武事を明辨して、誤惑することなき、これを武智と云。たとへ古今の史籍に通じ、倭漢の文學を盡すとも、武道にくらきときは、武將の智と稱するにたらず。凡智は情意の用にして、才は智の用なり。古を學て多く知は智也。內に積てこれを外に推及し、今日の武道に能用て其變化に應ずるは、才なり。
-
『文武訓』文訓上文学をつとめずして時をうしなふ人は、一生をむなしく過して身ををはる、をしむべし。芸なければ人事にうとし。一生の間事欠くること多し。わかき時つとめて知るべし。凡はじめにつとむれば、後に楽多し。わかき時まなばざれば、老いて悔ゆれども益なし。智ある人は、一紙のふみを読みても益あり、やがて用にかなふ。愚なれば、百千巻を読んでも用なし。益にたたずしてをはる。ここを以て、わがごとき輩は、宝の山に入りても、手を空しくしてかへりぬ。書をみる人も、崑山に入らば、たからをもとめ得てかへるはかりごとをなすべし。是、書をよむ人の必ず心得べき事なり。しかれども、近年は又、四書五経を読まずして、仮名がきわづかなる書をよみ、文盲なる師の、わづかなる教をききて、道を得たりとて、人にたかぶりほこりて、数十年経伝を見たる学者をもないがしろにす。
人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る