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武治提要 / 傳璽・第2段

堯の舜を擧、舜の禹を擧るごときは、聖德の至れるものにして、全く天命なり。其事跡を取て、後世の模範となすべからず。唯其血脈の統系に從て、大寳を其人に傳へ玉はんこと、德の常なり。本朝の俗たとへ優德の人たりとも、異姓の賤士を君となさんことを欲せず、衆情信ぜざるときは、天命亦歸すべからず。たとへ微しき不德たりとも、其同姓の系譜に於ては、衆心服せずんばあるべからず。服するときは、天命亦歸す。傳璽の實、皆天命になる。作爲を以て如何ともすべからず。況や愛を以て嫡庶子に大寳を授るごときは、惑の甚しきものなり。論ずるにたらず。

新字:堯の舜を挙、舜の禹を挙るごときは、聖徳の至れるものにして、全く天命なり。其事跡を取て、後世の模範となすべからず。唯其血脈の統系に従て、大宝を其人に伝へ玉はんこと、徳の常なり。本朝の俗たとへ優徳の人たりとも、異姓の賤士を君となさんことを欲せず、衆情信ぜざるときは、天命亦帰すべからず。たとへ微しき不徳たりとも、其同姓の系譜に於ては、衆心服せずんばあるべからず。服するときは、天命亦帰す。伝璽の実、皆天命になる。作為を以て如何ともすべからず。況や愛を以て嫡庶子に大宝を授るごときは、惑の甚しきものなり。論ずるにたらず。

書き下し

堯の舜を擧、舜の禹を擧るごときは、聖德の至れるものにして、全く天命なり。其事跡を取て、後世の模範となすべからず。唯其血脈の統系に從て、大寳を其人に傳へ玉はんこと、德の常なり。本朝の俗たとへ優德の人たりとも、異姓の賤士を君となさんことを欲せず、衆情信ぜざるときは、天命亦歸すべからず。たとへ微しき不德たりとも、其同姓の系譜に於ては、衆心服せずんばあるべからず。服するときは、天命亦歸す。傳璽の實、皆天命になる。作爲を以て如何ともすべからず。況や愛を以て嫡庶子に大寳を授るごときは、惑の甚しきものなり。論ずるにたらず。

現代語訳

堯が舜を挙げ、舜が禹を挙げたようなことは、聖徳の至りであって、すべて天命です。その事跡を取って、後世の模範としてはなりません。ただ、その血脈の統系に従って、大宝(国を治める位)をその人に伝えられるのが、徳の常道です。本朝の風俗では、たとえ優れた徳の人であっても、異姓の賤しい士を君とすることを望まず、衆情が信じないなら、天命も帰することはできません。たとえ少し不徳であっても、同姓の系譜にある者に対しては、人々の心が服さないということはありません。服すれば、天命も帰します。伝璽の実は、すべて天命によるものです。人の作為ではどうにもなりません。まして、愛情から嫡子・庶子に大宝を授けるようなことは、惑いの甚だしいものです。論じるに足りません。

解説

君主の地位を継ぐ方法について、堯舜の禅譲は聖徳の至りで特別な例であり、後世の模範にはならないと述べる段です。ここでは血筋に従って受け渡すのが常道で、本朝の風俗では、徳があっても異姓の者は人々が信じず、天命も帰さないとされます。愛情で嫡子と庶子を取り替えるのは惑いだとも言います。血統を重んじる当時の身分観にもとづく記述で、現代の人事にそのまま当てはめることはできません。ただ、後継者選びは、本人の能力だけでなく、周囲の納得がなければ成り立たないという指摘は、事業承継の現場に通じます。情で決めず、周りが従える筋道をつくることが、継ぐ側と継がれる側の双方を守ります。

この章句が説くこと

伝璽後継衆情納得情実武治提要

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