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武治提要 / 正職役・第5段

人を知、人を擧ること亦易く、職役を立ること亦易し、只其器と其職との相應を得ること難中の難なり。相應せざるときは其事物終をなさず、これ將のあやまちなり。戰法に於て其かゝる處猶更重し。信玄の高坂をして謙信を押るがごときこれなり。或は若飯富、板垣等が如き者をして是を押しめば、彼此の剛猛爭て破るべし。謙信は其體の大なること飯富等に百倍す。故にたとへ剛猛は敵手なすとも、體微小なるが故に、謙信の爲に鏖戰して斃んのみ。或は跡部等がごとき將をして押しめば、一擧に壓倒せるべし。高坂が人となり强にもあらず弱にもあらずして、謙信これを破ること不叶。敵味方のつり合如此。此故に治世の職役は器と職との二にして、戰國の職は加るに敵を以てす、故に其撰更に難し。

新字:人を知、人を挙ること亦易く、職役を立ること亦易し、只其器と其職との相応を得ること難中の難なり。相応せざるときは其事物終をなさず、これ将のあやまちなり。戦法に於て其かゝる処猶更重し。信玄の高坂をして謙信を押るがごときこれなり。或は若飯富、板垣等が如き者をして是を押しめば、彼此の剛猛争て破るべし。謙信は其体の大なること飯富等に百倍す。故にたとへ剛猛は敵手なすとも、体微小なるが故に、謙信の為に鏖戦して斃んのみ。或は跡部等がごとき将をして押しめば、一挙に圧倒せるべし。高坂が人となり強にもあらず弱にもあらずして、謙信これを破ること不叶。敵味方のつり合如此。此故に治世の職役は器と職との二にして、戦国の職は加るに敵を以てす、故に其撰更に難し。

書き下し

人を知、人を擧ること亦易く、職役を立ること亦易し、只其器と其職との相應を得ること難中の難なり。相應せざるときは其事物終をなさず、これ將のあやまちなり。戰法に於て其かゝる處猶更重し。信玄の高坂をして謙信を押るがごときこれなり。或は若飯富、板垣等が如き者をして是を押しめば、彼此の剛猛爭て破るべし。謙信は其體の大なること飯富等に百倍す。故にたとへ剛猛は敵手なすとも、體微小なるが故に、謙信の爲に鏖戰して斃んのみ。或は跡部等がごとき將をして押しめば、一擧に壓倒せるべし。高坂が人となり强にもあらず弱にもあらずして、謙信これを破ること不叶。敵味方のつり合如此。此故に治世の職役は器と職との二にして、戰國の職は加るに敵を以てす、故に其撰更に難し。

現代語訳

人を知り、人を挙げることは易しく、職役を立てることも易しい。ただ、その器とその職とが相応することが難しいなかの難しいことである。相応しなければ、その事は終わりまで成らず、これは将の過ちである。戦法においては、それが関わる重みはさらに大きい。信玄が高坂に謙信を押さえさせたのが、その例である。もし若い飯富や板垣のような者に押さえさせれば、双方の剛猛がぶつかり合って破られるだろう。謙信は体の大きさが飯富らの百倍もある。だからたとえ剛猛が敵手であっても、体が微小であるため、謙信のために力戦して倒れるだけである。あるいは跡部などのような将に押さえさせれば、一挙に圧倒されるだろう。高坂は人となりが強くもなく弱くもなく、謙信はこれを破ることができない。敵と味方のつり合いはこのようなものである。だから治世の職役は器と職の二つだが、戦国の職は、これに敵を加える。そのため、その選びはさらに難しい。

解説

職に人を当てる際、器と職が相応することが何より難しいと述べる段です。例として、信玄が高坂に謙信を押さえさせた配置を挙げ、飯富や板垣では力負けし、跡部では圧倒されると、相手との釣り合いで説明します。強さそのものではなく、相手に対してちょうどよい人を当てよ、ということです。これは本文に出てくる人名の範囲での話です。平時は器と職の二つを見ればよいが、戦国ではそれに敵が加わるので、選択はいっそう難しいとします。いまの仕事でも、営業の担当割り当てや交渉の相手に対して、強い人を出すよりも、相手に合う人を出すほうが成果につながることがあります。

この章句が説くこと

適材適所器と職配置相性競争信玄

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