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武治提要 / 知人・第2段

武將は只人を知を以て才智の樞要とす。たとへ博覽宏才にして古今の事迹を記するとも、今日人を知こと的切ならずんば、有智の將となすにたらず。凡萬物高にあつて、ひきゝをのぞむときは、見ること易し。只人のみこれに反す。故に君よりして臣は明に見へがたく、君の是非は見ること易し。其故何ぞや。君の應接する處廣して、臣の應接する處狹し。君は一人にして、下は億兆なり。億兆の耳目を以て一人を仰見る、猶巖々たる南山のごとし。君は一人の耳目を以て億兆の人を見る、其得失かくのごとし。故に將の下を見ること、容易にして得べからず。

新字:武将は只人を知を以て才智の枢要とす。たとへ博覧宏才にして古今の事迹を記するとも、今日人を知こと的切ならずんば、有智の将となすにたらず。凡万物高にあつて、ひきゝをのぞむときは、見ること易し。只人のみこれに反す。故に君よりして臣は明に見へがたく、君の是非は見ること易し。其故何ぞや。君の応接する処広して、臣の応接する処狭し。君は一人にして、下は億兆なり。億兆の耳目を以て一人を仰見る、猶巖々たる南山のごとし。君は一人の耳目を以て億兆の人を見る、其得失かくのごとし。故に将の下を見ること、容易にして得べからず。

書き下し

武將は只人を知を以て才智の樞要とす。たとへ博覽宏才にして古今の事迹を記するとも、今日人を知こと的切ならずんば、有智の將となすにたらず。凡萬物高にあつて、ひきゝをのぞむときは、見ること易し。只人のみこれに反す。故に君よりして臣は明に見へがたく、君の是非は見ること易し。其故何ぞや。君の應接する處廣して、臣の應接する處狹し。君は一人にして、下は億兆なり。億兆の耳目を以て一人を仰見る、猶巖々たる南山のごとし。君は一人の耳目を以て億兆の人を見る、其得失かくのごとし。故に將の下を見ること、容易にして得べからず。

現代語訳

武将は、ただ人を知ることを才智の要とします。たとえ広く書物を読み、すぐれた才があって、古今の事跡を記していても、今日の人を知ることが的確でなければ、智ある将とするには足りません。およそ万物は、高い所にあって低い所を望むときは見るのが易しいものです。ただ人だけはこれに反しています。ですから、君から臣ははっきり見えにくく、君の是非は見やすいのです。その理由は何でしょうか。君の接するところは広く、臣の接するところは狭いからです。君は一人で、下は億兆です。億兆の耳目で一人を仰ぎ見るのは、そびえ立つ南山を仰ぐようなものです。君が一人の耳目で億兆の人を見る場合は、その見え方の違いは右のとおりです。ですから、将が下を見ることは、容易には得られません。

解説

この段は、博識でも今の人を的確に知れなければ智ある将とは言えない、と述べています。物は高い所から低い所を見るほうが見やすいのに、人だけは逆だという逆説が中心です。理由は、君は一人で下は億兆であり、下の人々は一人の君を山のように仰ぎ見られるが、君は一人の目で大勢を見なければならないからだとされます。つまり、上に立つ者のほうが、部下を見る視野はむしろ限られるということです。現代の管理職も、自分は部下を見ているつもりでも、実際は限られた接点しか把握していません。上から見えないものがあるという前提に立ち、多様な情報の入り口を持つ必要があります。

この章句が説くこと

知人視野上下観察限界武治提要

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