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武備和訓 / 卷五・平時の武備は、病気の前の養生と灸

一或人問曰、當時は鐵砲石火矢ありて、いにしへのごとく武士弓馬鎗打物の優劣分明なるまじきや、然らば武門の本意なきものに似たるか、愚答て曰、治世に武備ある事、たとへば無病なる時、用心藥を服し、灸をすゆるがごとし、國に文武備る時は國倉卒に亂ず、亂るといへども早く治る、是平生養生節にあたりて灸をすへたる人病發りても早く本復するがごとし、弓馬刀術鎗術柔術のごときは、陳皮、甘艸、茯苓、香附子、身柱、痃癖等のごとし、鐵砲は人參四花のごとし、人參ありても甘艸なければならず、四花すへても章門にもすへねばならず候といへば、諾して又問、當世上方表におゐて、紀國弓に郡山鐵砲と申て、所々神社佛閣に、和州郡山之住人稻葉六郎太夫重政と稱し、圖にあらわし、

新字:一或人問曰、当時は鉄砲石火矢ありて、いにしへのごとく武士弓馬鎗打物の優劣分明なるまじきや、然らば武門の本意なきものに似たるか、愚答て曰、治世に武備ある事、たとへば無病なる時、用心薬を服し、灸をすゆるがごとし、国に文武備る時は国倉卒に乱ず、乱るといへども早く治る、是平生養生節にあたりて灸をすへたる人病発りても早く本復するがごとし、弓馬刀術鎗術柔術のごときは、陳皮、甘艸、茯苓、香附子、身柱、痃癖等のごとし、鉄砲は人参四花のごとし、人参ありても甘艸なければならず、四花すへても章門にもすへねばならず候といへば、諾して又問、当世上方表におゐて、紀国弓に郡山鉄砲と申て、所々神社仏閣に、和州郡山之住人稲葉六郎太夫重政と称し、図にあらわし、

書き下し

一或人問曰、當時は鐵砲石火矢ありて、いにしへのごとく武士弓馬鎗打物の優劣分明なるまじきや、然らば武門の本意なきものに似たるか、愚答て曰、治世に武備ある事、たとへば無病なる時、用心藥を服し、灸をすゆるがごとし、國に文武備る時は國倉卒に亂ず、亂るといへども早く治る、是平生養生節にあたりて灸をすへたる人病發りても早く本復するがごとし、弓馬刀術鎗術柔術のごときは、陳皮、甘艸、茯苓、香附子、身柱、痃癖等のごとし、鐵砲は人參四花のごとし、人參ありても甘艸なければならず、四花すへても章門にもすへねばならず候といへば、諾して又問、當世上方表におゐて、紀國弓に郡山鐵砲と申て、所々神社佛閣に、和州郡山之住人稻葉六郎太夫重政と稱し、圖にあらわし、

現代語訳

一つ、ある人が尋ねて言いました。当世は鉄砲や石火矢があるので、昔のように、武士の弓馬・鎗・打物の優劣が明らかでなくなっているのではないでしょうか。そうなると、武門の本意がないようなものではありませんか。私は答えて言いました。治世に武備があるのは、たとえば病気のないときに、用心薬を飲み、灸をすえるようなものです。国に文武が備わっていれば、国が慌ただしく乱れることがなく、乱れてもすぐに治まります。これは、日頃の養生が節度に当たり、灸をすえた人が病気になっても早く本復するのと同じです。弓馬・刀術・鎗術・柔術などは、陳皮・甘草・茯苓・香附子・身柱・痃癖などのようなものです。鉄砲は人参や四花のようなものです。人参があっても甘草がなければならず、四花に灸をすえても章門にもすえなければならない、と言いましたところ、その人はうなずいて、また尋ねました。当世、上方の表では、紀州の弓、郡山の鉄砲と申して、あちこちの神社仏閣に、大和の郡山の住人稲葉六郎太夫重政と称して絵に描いて掲げ、

解説

平時に武備を整える意味を、病気のときの養生や灸にたとえて答える章句です。鉄砲が登場しても弓馬などの術は不要にならず、薬の取り合わせのように、それぞれが役割を持つと説きます。人参があっても甘草がいるという比喩は、一つの強みだけでは足りないという意味です。管理職にとっては、問題が起きていない平時に、研修や備え、体制づくりへ投資する大切さに通じます。火が出てから慌てるより、日頃の養生で乱れを小さくする視点を持ちたいものです。
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この章句が説くこと

『武備和訓』片島武矩武備養生平時備え

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