武備和訓 / 卷四・号令と一致した動きが備えの成果
主稅をして表門に差遣す、是奇正の變化無窮して、因敵轉化すと云もの是なり、扨又鬪戰に、號令と云事肝要なり、喩へば平日寇讐の思ひをなせし人々も、讐家に入つて相鬪の間は、唯今組合たる面々、三人一身と合して、勝負を相助、少も自私の働をなすべからず、三人合體一人とするからは、本より手足相離るべき樣なしと、堅く令し、相詞を以て聲を聞、相印を以て色を見、耳目を用て心を決し、精銳驍勇の鼎兵、必死を誓ひて討入、是則四十余人の、進退一致にして、唯一人の手足耳目を用て、其動靜一心の欲する處に叶ふがごとし、其分數奇正號令節制皆能孫吳の規矩にかなへり、此理をもつて見る刻は、勝負自分明にして、いぶかる事なし、爰を以ておもふ時は、兵を用るの法は多少によらず、深く慮るべきの道なり、武人是を等閑の事にするは誠に悼むに餘りあり、されば武門に生れて、兵法の道にうとく、武備を忘るゝ時は、忠孝盡す事ならずといふものは爰なり、良雄が黨、兵法を鍛鍊して、武備をおさめたるが故に、能忠勇に達せりといへば、問人感服せり、
新字:主税をして表門に差遣す、是奇正の変化無窮して、因敵転化すと云もの是なり、扨又闘戦に、号令と云事肝要なり、喩へば平日寇讐の思ひをなせし人々も、讐家に入つて相闘の間は、唯今組合たる面々、三人一身と合して、勝負を相助、少も自私の働をなすべからず、三人合体一人とするからは、本より手足相離るべき様なしと、堅く令し、相詞を以て声を聞、相印を以て色を見、耳目を用て心を決し、精鋭驍勇の鼎兵、必死を誓ひて討入、是則四十余人の、進退一致にして、唯一人の手足耳目を用て、其動静一心の欲する処に叶ふがごとし、其分数奇正号令節制皆能孫呉の規矩にかなへり、此理をもつて見る刻は、勝負自分明にして、いぶかる事なし、爰を以ておもふ時は、兵を用るの法は多少によらず、深く慮るべきの道なり、武人是を等閑の事にするは誠に悼むに余りあり、されば武門に生れて、兵法の道にうとく、武備を忘るゝ時は、忠孝尽す事ならずといふものは爰なり、良雄が党、兵法を鍛錬して、武備をおさめたるが故に、能忠勇に達せりといへば、問人感服せり、
書き下し
主稅をして表門に差遣す、是奇正の變化無窮して、因敵轉化すと云もの是なり、扨又鬪戰に、號令と云事肝要なり、喩へば平日寇讐の思ひをなせし人々も、讐家に入つて相鬪の間は、唯今組合たる面々、三人一身と合して、勝負を相助、少も自私の働をなすべからず、三人合體一人とするからは、本より手足相離るべき樣なしと、堅く令し、相詞を以て聲を聞、相印を以て色を見、耳目を用て心を決し、精銳驍勇の鼎兵、必死を誓ひて討入、是則四十余人の、進退一致にして、唯一人の手足耳目を用て、其動靜一心の欲する處に叶ふがごとし、其分數奇正號令節制皆能孫吳の規矩にかなへり、此理をもつて見る刻は、勝負自分明にして、いぶかる事なし、爰を以ておもふ時は、兵を用るの法は多少によらず、深く慮るべきの道なり、武人是を等閑の事にするは誠に悼むに餘りあり、されば武門に生れて、兵法の道にうとく、武備を忘るゝ時は、忠孝盡す事ならずといふものは爰なり、良雄が黨、兵法を鍛鍊して、武備をおさめたるが故に、能忠勇に達せりといへば、問人感服せり、
現代語訳
主税を表門に差し遣わしました。これが、奇正の変化は無窮で、敵に因って転化すというものです。さて、戦いでは号令ということが肝要です。たとえば、平日は仇のように思っていた人々でも、仇の家に入って戦っている間は、ただいま組み合った面々は三人が一身と合わさり、勝負を相助け、少しも私の働きをしてはならない、三人が合体して一人とするからには、もとより手足が離れるはずがない、と固く命じ、合言葉で声を聞き、合印で色を見、耳目を用いて心を決め、精鋭驍勇の鼎兵は必死を誓って討ち入りました。これは四十余人の進退が一致して、ただ一人の手足耳目を用いるようで、その動静が一心の欲するところにかなうようです。その分数・奇正・号令・節制はみな孫呉の規矩にかないました。この理をもって見れば、勝負は自然と明らかで、疑うことはありません。ここから思えば、兵を用いる法は多少によらず、深く慮るべき道です。武人がこれをなおざりにするのは、まことに嘆かわしいことです。そもそも武門に生まれて兵法の道にうとく、武備を忘れるときは、忠孝を尽くすことができないというのはここのことです。良雄の一党は、兵法を鍛錬し武備を修めたからこそ、よく忠勇に達したと言うと、問うた人は感服しました。
解説

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