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武備和訓 / 卷三・武備は敵を恐れさせ、戦わず守る

一愚按に、或明君の鳥銃大銃の術を貴として、晝夜諸士に勵習しめられし奧意を察るに、必しも用之て寇を塵にせんとにはあらじ、唯其武備を肝要とせられし主意成べし、戎器は元來不辭の器にして、天の惡み給ふもの也、乍然治世其備ある事は、是又天の道なり、依之兵は精銳なるものを以其長とせり、吾國神代よりして、弓箭を以其長とする事は、能百步の敵を制するものなればなり、其遠きを制し、敵を挫くの優劣、鐵砲の弓弩に勝れたる事は、喩ば弓弩は扇のごとく、鐵砲は三尺の靈劔のごとし、夜中火繩の嗅きをきく時は、山都、木客、猛獸、化鳥のごときも、よく近く事不能、然らば何ぞ敵國是が爲に先づ懼れざるべけんや、敵國恐怖する時は、不戰して必勝べし、然れば鳥銃は、敵を塵にするものにて、亦よく人を助るの器なり、されば國家の守り、亂世には長兵器なりと、明君の給ひしは是なり、必敵を塵にするものとのみおもへば、仁義の兵法に乖り、治世數〻習之事は、靈劔の鞘にありて、其威の嚴重なるがごとし、

新字:一愚按に、或明君の鳥銃大銃の術を貴として、昼夜諸士に励習しめられし奥意を察るに、必しも用之て寇を塵にせんとにはあらじ、唯其武備を肝要とせられし主意成べし、戎器は元来不辞の器にして、天の悪み給ふもの也、乍然治世其備ある事は、是又天の道なり、依之兵は精鋭なるものを以其長とせり、吾国神代よりして、弓箭を以其長とする事は、能百歩の敵を制するものなればなり、其遠きを制し、敵を挫くの優劣、鉄砲の弓弩に勝れたる事は、喩ば弓弩は扇のごとく、鉄砲は三尺の霊剣のごとし、夜中火縄の嗅きをきく時は、山都、木客、猛獣、化鳥のごときも、よく近く事不能、然らば何ぞ敵国是が為に先づ懼れざるべけんや、敵国恐怖する時は、不戦して必勝べし、然れば鳥銃は、敵を塵にするものにて、亦よく人を助るの器なり、されば国家の守り、乱世には長兵器なりと、明君の給ひしは是なり、必敵を塵にするものとのみおもへば、仁義の兵法に乖り、治世数〻習之事は、霊剣の鞘にありて、其威の厳重なるがごとし、

書き下し

一愚按に、或明君の鳥銃大銃の術を貴として、晝夜諸士に勵習しめられし奧意を察るに、必しも用之て寇を塵にせんとにはあらじ、唯其武備を肝要とせられし主意成べし、戎器は元來不辭の器にして、天の惡み給ふもの也、乍然治世其備ある事は、是又天の道なり、依之兵は精銳なるものを以其長とせり、吾國神代よりして、弓箭を以其長とする事は、能百步の敵を制するものなればなり、其遠きを制し、敵を挫くの優劣、鐵砲の弓弩に勝れたる事は、喩ば弓弩は扇のごとく、鐵砲は三尺の靈劔のごとし、夜中火繩の嗅きをきく時は、山都、木客、猛獸、化鳥のごときも、よく近く事不能、然らば何ぞ敵國是が爲に先づ懼れざるべけんや、敵國恐怖する時は、不戰して必勝べし、然れば鳥銃は、敵を塵にするものにて、亦よく人を助るの器なり、されば國家の守り、亂世には長兵器なりと、明君の給ひしは是なり、必敵を塵にするものとのみおもへば、仁義の兵法に乖り、治世數〻習之事は、靈劔の鞘にありて、其威の嚴重なるがごとし、

現代語訳

一つ、私(著者)が考えるに、ある明君が鳥銃・大銃の術を貴んで、昼夜諸士に励み習わせられたその奥意を察すると、必ずしもこれを用いて敵を塵にしようとしたのではなく、ただその武備を肝要とされた主意でしょう。戎器(武器)はもともと、やむを得ず用いる器であって、天が憎みたもうものです。けれども、治世にその備えがあることは、これもまた天の道です。そのため兵は精鋭であることをその長所とします。わが国が神代から弓箭をその長所としたのは、よく百歩の敵を制するからです。その遠くを制し、敵を挫く優劣で、鉄砲が弓弩に勝ることは、たとえば弓弩が扇のようなら、鉄砲は三尺の霊剣のようなものです。夜中に火縄の匂いをかげば、山都・木客・猛獣・化鳥のようなものでも、近づくことができません。そうであれば、敵国がこれのためにまず恐れないでしょうか。敵国が恐怖するときは、戦わずして必ず勝つでしょう。そうであれば鳥銃は、敵を塵にするものであって、また人を助ける器でもあります。ですから、国家の守りは、乱世には長兵器であると、明君が言われたのはこのことです。必ず敵を塵にするものとだけ思えば、仁義の兵法に背きます。治世にしばしばこれを習うことは、霊剣が鞘の中にあって、その威が厳重であるようなものです。

解説

鉄砲の武備は敵を倒すためだけでなく、備えが敵に恐れを生み、戦わずして守る力になるという章句です。武器は天が憎むものであり、必ず敵を塵にするものとだけ思えば仁義の兵法に背く、と明記しています。霊剣が鞘の内にある威という喩えが核心です。現代の管理職にとっては、備えや専門力は、使うためでなく、安心と抑止のためにあると読めます。リスク対応、品質、情報セキュリティの備えを平時から怠らないことが、組織を守る静かな力になります。
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この章句が説くこと

『武備和訓』片島武矩武備武芸鉄砲心得

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