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武備和訓 / 卷三・強弓も外した大猿を鉄砲が仕留める

一或大名猪狩の場におゐて、大なる猿の其長七八尺計なるが出て、列卒を引裂、噬殺しなどして、白刄を奪取て高木にのぼれり、其主消息を見て、强弓に命じて射之さしむ、射人山鳥の羽を以て作たる節蔭の矢に、わたり四寸の雁股の上刺を番ひて射之に、猿片手にて中に其矢を取て折之、射手慮けるは、大雁股にて矢ざし鈍くしてこそは一の矢は射損じたらめ、二の矢を以て射落ものをと、中刺を番ひて又射之、猿二の矢を又取て始のごとく折之、射人二筋の矢を射損じ、赤面して恐之、大守則鐵砲の上手に命ず、砲人木の下に寄を見て、猿難活事を悟りて、合掌罪を謝す、砲人眉間を的にして放之に、猿則樹下に落たり、衆たちより見けるに、首牛分は碎けて微塵となれり、其鐵砲は拾五匁玉なりといへり、武人必しも武備を逞しふせんとおもはゞ、此藝を舍べからず、

新字:一或大名猪狩の場におゐて、大なる猿の其長七八尺計なるが出て、列卒を引裂、噬殺しなどして、白刄を奪取て高木にのぼれり、其主消息を見て、強弓に命じて射之さしむ、射人山鳥の羽を以て作たる節蔭の矢に、わたり四寸の雁股の上刺を番ひて射之に、猿片手にて中に其矢を取て折之、射手慮けるは、大雁股にて矢ざし鈍くしてこそは一の矢は射損じたらめ、二の矢を以て射落ものをと、中刺を番ひて又射之、猿二の矢を又取て始のごとく折之、射人二筋の矢を射損じ、赤面して恐之、大守則鉄砲の上手に命ず、砲人木の下に寄を見て、猿難活事を悟りて、合掌罪を謝す、砲人眉間を的にして放之に、猿則樹下に落たり、衆たちより見けるに、首牛分は砕けて微塵となれり、其鉄砲は拾五匁玉なりといへり、武人必しも武備を逞しふせんとおもはゞ、此芸を舎べからず、

書き下し

一或大名猪狩の場におゐて、大なる猿の其長七八尺計なるが出て、列卒を引裂、噬殺しなどして、白刄を奪取て高木にのぼれり、其主消息を見て、强弓に命じて射之さしむ、射人山鳥の羽を以て作たる節蔭の矢に、わたり四寸の雁股の上刺を番ひて射之に、猿片手にて中に其矢を取て折之、射手慮けるは、大雁股にて矢ざし鈍くしてこそは一の矢は射損じたらめ、二の矢を以て射落ものをと、中刺を番ひて又射之、猿二の矢を又取て始のごとく折之、射人二筋の矢を射損じ、赤面して恐之、大守則鐵砲の上手に命ず、砲人木の下に寄を見て、猿難活事を悟りて、合掌罪を謝す、砲人眉間を的にして放之に、猿則樹下に落たり、衆たちより見けるに、首牛分は碎けて微塵となれり、其鐵砲は拾五匁玉なりといへり、武人必しも武備を逞しふせんとおもはゞ、此藝を舍べからず、

現代語訳

一つ、ある大名の猪狩りの場で、体長七、八尺ほどの大きな猿が現れ、列の兵を引き裂き、噛み殺すなどして、抜き身の刀を奪い取って高い木に登りました。その主君は様子を知らせる報告を見て、強弓の者に命じて射させました。射手は山鳥の羽で作った節蔭の矢に、渡り四寸の雁股の上刺を番えて射たところ、猿は片手で空中に矢を取り、折りました。射手は、大きな雁股で矢先が鈍かったから一の矢は射損じたのだろう、二の矢で射落とそうと考え、中刺を番えてまた射ましたが、猿は二の矢をまた取って最初のように折りました。射手は二筋の矢を射損じ、赤面して恐れ入りました。大守(大名)はすぐに鉄砲の上手に命じました。砲手は木の下に寄って、猿が助かりにくいと悟り、合掌して罪を謝しました。砲手が眉間を的にして放つと、猿はたちまち樹下に落ちました。皆が立ち寄って見ると、首の半分は砕けて微塵になっていました。その鉄砲は十五匁玉であったといいます。武人は、武備を盛んにしようと思うなら、この芸(鉄砲)を捨ててはなりません。

解説

弓の上手が二度続けて射損じた大猿を、鉄砲の一発が仕留めたという逸話で、鉄砲の技術を捨てずに備えるべきだと結ぶ章句です。砲手が合掌して罪を謝したという一節には、生きものを討つことへの畏れも感じられます。獣を討つ描写は歴史的な文脈として読み、現代では、従来のやり方では対処できない事態に備え、別の手段や技術を持っておく大切さとして受け取れます。管理職は、得意な手法に固執せず、想定外の課題に使える引き出しを複数用意しておくことが求められます。
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この章句が説くこと

『武備和訓』片島武矩武備武芸鉄砲心得

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