牧民忠告 / 慎獄
獄問初情,入之常言也。蓋獄之初發,犯者不暇藻飾,問者不暇鍛煉,其情必真而易見,威以臨之,虛心以詰之,十得七八矣。少萌姑息,則其勞將有百倍厥初者,故片言折獄,聖人惟與乎子路,其難可知矣。
新字:獄問初情,入之常言也。蓋獄之初発,犯者不暇藻飾,問者不暇鍛煉,其情必真而易見,威以臨之,虚心以詰之,十得七八矣。少萌姑息,則其労将有百倍厥初者,故片言折獄,聖人惟与乎子路,其難可知矣。
書き下し
獄(ごく)は初情(しょじょう)を問うは、之を入るるの常言なり。蓋(けだ)し獄の初めて發するや、犯す者藻飾(そうしょく)するに暇あらず、問う者鍛煉(たんれん)するに暇あらず、其の情必ず真にして見(あらわ)れ易し、威以て之に臨み、虛心以て之を詰(なじ)れば、十に七八を得ん。少しく姑息(こそく)を萌(きざ)せば、則ち其の勞將(まさ)に厥(そ)の初めに百倍する者有らんとす、故に片言(へんげん)獄を折(さだ)むるは、聖人惟(た)だ子路に與(くみ)す、其の難きこと知るべし。
現代語訳
裁判ではまず初めの供述を問い質せというのは、取り調べの定石である。そもそも事件が起きた最初は、犯人には言い訳を飾り立てる暇がなく、取り調べる側も無理にこじつける暇がない。だからこそ実情がありのままに真実で現れやすいのである。威厳をもって臨み、先入観のない心で問い詰めれば、十のうち七、八は真実をつかめる。少しでも姑息な妥協が生じれば、その後の労力は最初の百倍にもなるだろう。それゆえ、わずかな言葉で訴訟を裁くことができたのは、孔子が子路だけに許した能力であり、いかにそれが難しいことかがわかる。
解説
「獄詰其初」は、事件の取り調べは初動が最も真実に近く、時間が経つほど困難になるという実務上の鉄則を説く一条である。張養浩は、犯人も取調官も準備不足である初期段階にこそ実情が現れやすいとし、初動での威厳と虚心の両立が真実解明の鍵だとする。孔子が子路にのみ許したという「片言折獄」の逸話を引き、それがいかに稀有な能力かを示しつつ、凡人でも初動を的確に押さえれば七、八割の真実に到達できると実務的に説く点が特徴的である。現代の組織でもトラブルやクレーム対応において、初動対応の速さと的確さがその後の解決コストを大きく左右する。

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本の中身を見るこの章句が説くこと
獄詰其初初動対応片言折獄虚心
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