牧民忠告 / 慎獄
在獄之囚,吏案雖成,猶當詳讞也。若酷吏鍛煉而成者,雖讞之,囚不敢異辭焉。須盡闢吏卒,和顏易氣,開誠心以感之,或令忠厚獄卒款曲以其情問之。如得其寃,立為辨白,不可徒拘閡吏文也。噫!奸吏無文,何所不至哉!
新字:在獄之囚,吏案雖成,猶当詳讞也。若酷吏鍛煉而成者,雖讞之,囚不敢異辞焉。須尽闢吏卒,和顏易気,開誠心以感之,或令忠厚獄卒款曲以其情問之。如得其寃,立為弁白,不可徒拘閡吏文也。噫!奸吏無文,何所不至哉!
書き下し
獄に在るの囚は、吏案(りあん)成ると雖も、猶お當に詳讞(しょうげん)すべきなり。若し酷吏鍛煉して成す者ならば、之を讞すと雖も、囚敢えて辭を異にせず。須(すべか)らく盡(ことごと)く吏卒を闢(しりぞ)け、顏を和らげ氣を易(やわ)らげ、誠心を開きて以て之を感ぜしめ、或いは忠厚なる獄卒をして款曲(かんきょく)に其の情を以て之を問わしむべし。如(も)し其の寃(えん)を得ば、立ちどころに辨白を為せ、徒(いたず)らに吏文に拘閡(こうがい)すべからざるなり。噫(ああ)、奸吏文無くんば、何の至らざる所ぞ。
現代語訳
獄につながれた囚人は、役人による判決文書ができていても、なお改めて詳しく審理し直すべきである。もし過酷な役人が無理にこじつけて作り上げたものであれば、審理し直しても囚人はあえて供述を変えないものである。必ず役人や獄卒をすべて退け、顔つきを和らげ気持ちを穏やかにし、誠実な心を開いて相手を感じ入らせるか、あるいは温厚な獄卒に丁寧にその実情を尋ねさせるべきである。もし冤罪だとわかれば、すぐにこれを晴らしてやるべきであり、いたずらに役所の文書だけにこだわってはならない。ああ、悪辣な役人に良心の呵責がなければ、いったいどんな不正でも起こさないことがあろうか。
解説
「詳讞」は、既に完成した判決文があっても、それを鵜呑みにせず改めて詳細に審理し直すべきだと説く一条である。張養浩は、拷問などでこじつけられた自白は表面上矛盾なく見えるため、通常の再審理では見抜けないとし、役人を遠ざけ穏やかな態度で本音を引き出す工夫を具体的に提示する。文書という既成事実に頼りきることの危険性を鋭く指摘している点が重要である。現代の組織でも、一度報告書や結論としてまとまった案件を、無批判に受け入れてしまう危険は常にある。管理職は、公式な記録の背後にある実情を、当事者との対話を通じて丁寧に確かめる姿勢を持つべきである。
この章句が説くこと
詳讞冤罪誠心再審理