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弁名 / 聖

尋其禍端亦昉於子思孟子已。方子思之時。老氏之徒盛。而有謂孔子非聖人者。故子思作中庸書。專贊孔子之德。孔子學先王之道者也。故子思言學可以至聖人。不唯生知爲聖人。孔子非作者。故唯以其德言之。然子思孔子之孫而親見孔子。其所傳之未渝也。故其論道。必以禮儀三百。威儀三千。其論孔子。必以雖善無位不能制作禮樂。古之道存故也。至孟子之時。墨翟鄒衍刑名之流皆有所創作。各以爲道。是孔子所謂不知而作之者也。故孟子亦唯以德言聖。而不復及制作。然其意謂古之聖人皆作者也。孔子非作者也。故以孔子比古之聖人。難乎爲言。於是乎旁引古之賢人德行高者。比諸孔子。以見孔子之盛也。是其以夷惠爲聖人。古所無。而孟子取諸其臆。以濟一時之辯。不復顧其有後災者。雖非其罪。亦其過也已。

新字:尋其禍端亦昉於子思孟子已。方子思之時。老氏之徒盛。而有謂孔子非聖人者。故子思作中庸書。専賛孔子之徳。孔子学先王之道者也。故子思言学可以至聖人。不唯生知為聖人。孔子非作者。故唯以其徳言之。然子思孔子之孫而親見孔子。其所伝之未渝也。故其論道。必以礼儀三百。威儀三千。其論孔子。必以雖善無位不能制作礼楽。古之道存故也。至孟子之時。墨翟鄒衍刑名之流皆有所創作。各以為道。是孔子所謂不知而作之者也。故孟子亦唯以徳言聖。而不復及制作。然其意謂古之聖人皆作者也。孔子非作者也。故以孔子比古之聖人。難乎為言。於是乎旁引古之賢人徳行高者。比諸孔子。以見孔子之盛也。是其以夷恵為聖人。古所無。而孟子取諸其臆。以済一時之弁。不復顧其有後災者。雖非其罪。亦其過也已。

書き下し

其の禍端を尋ぬれば亦た子思・孟子に昉まるのみ。子思の時に方りて、老氏の徒盛んにして、孔子は聖人に非ずと謂ふ者有り。故に子思中庸の書を作り、専ら孔子の徳を賛す。孔子は先王の道を学ぶ者なり。故に子思は学びて以て聖人に至るべしと言ひ、唯だ生知のみを聖人と為さず。孔子は作者に非ず。故に唯だ其の徳を以て之を言ふ。然れども子思は孔子の孫にして親しく孔子を見る。其の伝ふる所未だ渝らざるなり。故に其の道を論ずる、必ず礼儀三百、威儀三千を以てし、其の孔子を論ずる、必ず「善なりと雖も位無ければ礼楽を制作すること能はず」を以てす。古の道存するが故なり。孟子の時に至りて、墨翟・鄒衍・刑名の流、皆創作する所有り、各〻以て道と為す。是れ孔子の所謂「知らずして之を作る」者なり。故に孟子も亦た唯だ徳を以て聖を言ひて、復た制作に及ばず。然れども其の意に謂へらく、古の聖人は皆作者なり、孔子は作者に非ずと。故に孔子を以て古の聖人に比するは、言を為すに難し。是に於てか旁く古の賢人の徳行高き者を引きて、諸を孔子に比し、以て孔子の盛んなるを見す。是れ其の夷・恵を以て聖人と為すは、古に無き所にして、孟子諸を其の臆に取り、以て一時の弁を済し、復た其の後災有るを顧みざる者なり。其の罪に非ずと雖も、亦た其の過なるのみ。

現代語訳

この禍のもとをたどれば、やはり子思・孟子に始まる。子思の時代には老子の一派が盛んで、孔子は聖人ではないと言う者がいた。そこで子思は『中庸』を書き、もっぱら孔子の徳をたたえた。孔子は先王の道を学んだ人である。だから子思は、学ぶことで聖人に至ることができると言い、生まれつき知る者だけを聖人とはしなかった。孔子は制度の作者ではないので、ただ徳によって論じたのである。しかし子思は孔子の孫で、孔子にじかに接しており、伝えたことはまだ変質していなかった。だから道を論じるときは必ず「礼儀三百、威儀三千」を持ち出し、孔子を論じるときは必ず「善であっても位がなければ礼楽を制作できない」と言った。古の道がまだ残っていたからである。孟子の時代になると、墨翟・鄒衍・刑名家の連中がみな新しい説を作り、それぞれ道だと称した。これは孔子の言う「知りもしないで作る」者である。そこで孟子もただ徳によって聖を語り、制作には触れなくなった。だが本心では、古の聖人はみな作者であり、孔子は作者ではないと思っていた。それで孔子を古の聖人と比べるのは言いにくい。そこで広く古の賢人で徳行の高い者を引いて孔子と比べ、孔子の偉大さを示した。伯夷・柳下恵を聖人としたのは古にはないことで、孟子が自分の考えから持ち出し、その場の論争を切り抜けるために使い、後に災いを残すことを顧みなかったのである。孟子の罪とまでは言わないが、やはり過ちである。

解説

聖人の徳を論じる風潮の起源を、徂徠は子思と孟子の論争的な事情に求める。子思は老子派から孔子を守るため徳を賛美したが、なお礼儀三百・威儀三千という古の型を手放さなかった。孟子は諸子百家との論争に勝つため、制作を脇に置き、伯夷や柳下恵まで聖人と呼んだ。その場の議論に勝つための言葉が、後世には定義として固定されてしまったのである。会議で勝つための便宜的な言い回しが、やがて組織の公式見解になってしまう危うさに通じる。

この章句が説くこと

聖人孟子子思中庸制作論争

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