弁名 / 仁
仁齋先生乃曰。慈愛之德。遠近内外。充實通徹。無所不至。是又泥孟子。而欲擴充惻隱之心以成仁。不屬諸先王。而屬諸人人。不知歸諸安民。而徒以慈愛言之。故其弊遂至以釋迦爲仁人。豈不謬乎。
新字:仁斎先生乃曰。慈愛之徳。遠近内外。充実通徹。無所不至。是又泥孟子。而欲擴充惻隠之心以成仁。不属諸先王。而属諸人人。不知帰諸安民。而徒以慈愛言之。故其弊遂至以釈迦為仁人。豈不謬乎。
書き下し
仁斎先生乃ち曰く、「慈愛の徳、遠近内外、充実通徹して、至らざる所無し」と。是れ又た孟子に泥みて、惻隠の心を拡充して以て仁を成さんと欲す。諸を先王に属せずして、諸を人人に属す。諸を安民に帰するを知らずして、徒に慈愛を以て之を言ふ。故に其の弊遂に釈迦を以て仁人と為すに至る。豈に謬らずや。
現代語訳
伊藤仁斎先生は「慈愛の徳が、遠くにも近くにも、内にも外にも満ちあふれ行き渡って、至らないところがない(のが仁である)」と言った。これもまた孟子にとらわれて、惻隠の心(人の不幸を見過ごせない心)を押し広げて仁を成そうとしたものである。仁を先王に結びつけず、一人ひとりの人に結びつけた。安民に帰することを知らず、ただ慈愛として語った。だからその弊害として、ついには釈迦を仁の人とするに至った。誤りではないか。
解説
仁斎は朱子の「理」を退け、仁を遠近内外に行き渡る慈愛の徳と説いた。徂徠はこれも孟子の惻隠の心に引きずられ、仁を各人の心の拡充に求めた点で朱子と同じ穴にはまっていると批判する。仁を先王の安民の道から切り離し、ただの慈愛とすると、民を治めない釈迦まで仁人になってしまう。優しさは尊いが、それだけでは人を守れない。組織のリーダーが部下に優しいだけで、仕事の仕組みや待遇を整えなければ、結局は誰も救われない。慈愛を実際の安心に変える仕組みがあってはじめて仁になる。
この章句が説くこと
仁仁斎慈愛孟子安民惻隠
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