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万民徳用 / 商人日用・答前半

答て云はく、賣買をせん人は、先つ得利の增すべき心つかひを修行すべし、その心遣と云ふは、他の事にあらず、身命を天道に抛て、一筋に正直に道を學ぶへし。正直の人には、諸天のめぐみふかく、佛陀神明の加護有りて、災難を除き、自然に福をまし、衆人愛敬淺からずして、萬事心に叶ふべし。私欲を專として、自他を隔て、人をぬきて得利を思ふ人には、天道のたゝりありて、禍をまし、萬民のにくみをうけ、衆人愛敬なくして、萬事心に叶ふへからす。貴賤上下、貧福得失、命の長短、皆是れ先世の因果なり。私に名聞利養を願ふとも、更にゆるし有るべからす。結句三惡道の業增長して、天道に背き、必すその科を蒙るへし。是れを恐れ慎みて、私欲の念をすて、此の賣買の作業は、國中の自由をなさしむへき役人に、天道よりあたへたまふ所也と思ひ定めて、此の身は天道に任て、得利を思ふ念を休め、正直の旨を守て商せんには、火のかばけるにつき、水の下れるに隨てなかるゝかごとく、天の福相應して、萬事心に叶ふべし。然りと雖も、福德を得て悅ぶべきにあらず、有漏の善根、無漏の善根といふ事あり。此の夢幻泡影の世界生滅の寶なき身を寶と定めて、常住の念はなれず、世界に專ら執着の念有りて善を行ふを、有漏の善根と名付けたり。有漏善は、福德の因緣なり。有漏善を行ひて、高位福人と成りて、樂至極するとも、ろの因盡くる時節有りて、必す惡道に入るなり。

新字:答て云はく、売買をせん人は、先つ得利の增すべき心つかひを修行すべし、その心遣と云ふは、他の事にあらず、身命を天道に抛て、一筋に正直に道を学ぶへし。正直の人には、諸天のめぐみふかく、仏陀神明の加護有りて、災難を除き、自然に福をまし、衆人愛敬浅からずして、万事心に叶ふべし。私欲を専として、自他を隔て、人をぬきて得利を思ふ人には、天道のたゝりありて、禍をまし、万民のにくみをうけ、衆人愛敬なくして、万事心に叶ふへからす。貴賤上下、貧福得失、命の長短、皆是れ先世の因果なり。私に名聞利養を願ふとも、更にゆるし有るべからす。結句三悪道の業增長して、天道に背き、必すその科を蒙るへし。是れを恐れ慎みて、私欲の念をすて、此の売買の作業は、国中の自由をなさしむへき役人に、天道よりあたへたまふ所也と思ひ定めて、此の身は天道に任て、得利を思ふ念を休め、正直の旨を守て商せんには、火のかばけるにつき、水の下れるに随てなかるゝかごとく、天の福相応して、万事心に叶ふべし。然りと雖も、福徳を得て悦ぶべきにあらず、有漏の善根、無漏の善根といふ事あり。此の夢幻泡影の世界生滅の宝なき身を宝と定めて、常住の念はなれず、世界に専ら執着の念有りて善を行ふを、有漏の善根と名付けたり。有漏善は、福徳の因縁なり。有漏善を行ひて、高位福人と成りて、楽至極するとも、ろの因尽くる時節有りて、必す悪道に入るなり。

書き下し

答て云はく、売買をせん人は、先つ得利の增すべき心つかひを修行すべし、その心遣と云ふは、他の事にあらず、身命を天道に抛て、一筋に正直に道を学ぶへし。正直の人には、諸天のめぐみふかく、仏陀神明の加護有りて、災難を除き、自然に福をまし、衆人愛敬浅からずして、万事心に叶ふべし。私欲を専として、自他を隔て、人をぬきて得利を思ふ人には、天道のたゝりありて、禍をまし、万民のにくみをうけ、衆人愛敬なくして、万事心に叶ふへからす。貴賤上下、貧福得失、命の長短、皆是れ先世の因果なり。私に名聞利養を願ふとも、更にゆるし有るべからす。結句三悪道の業增長して、天道に背き、必すその科を蒙るへし。是れを恐れ慎みて、私欲の念をすて、此の売買の作業は、国中の自由をなさしむへき役人に、天道よりあたへたまふ所也と思ひ定めて、此の身は天道に任て、得利を思ふ念を休め、正直の旨を守て商せんには、火のかばけるにつき、水の下れるに随てなかるゝかごとく、天の福相応して、万事心に叶ふべし。然りと雖も、福徳を得て悦ぶべきにあらず、有漏の善根、無漏の善根といふ事あり。此の夢幻泡影の世界生滅の宝なき身を宝と定めて、常住の念はなれず、世界に専ら執着の念有りて善を行ふを、有漏の善根と名付けたり。有漏善は、福徳の因縁なり。有漏善を行ひて、高位福人と成りて、楽至極するとも、ろの因尽くる時節有りて、必す悪道に入るなり。

現代語訳

答えて言う。売買をする人は、まず利益の増える心遣いを修行しなさい。その心遣いとは、ほかでもなく、身命を天道に投げ出して、ひとすじに正直に道を学ぶことである。正直な人には、諸天の恵みが深く、仏や神々の加護があって、災難を除き、自然に福を増し、人々の愛敬が浅からず、万事が心にかなうであろう。私欲を専らとして、自他を隔て、人を出し抜いて利益を思う人には、天道の祟りがあり、禍を増し、万民の憎しみを受け、人々の愛敬がなく、万事が心にかなわないだろう。身分の貴賤、貧富、得失、命の長短は、みな前世の因果である。私に名声や利益を願っても、決して許されるものではない。結局は三悪道の業が増して、天道に背き、必ずその罪を受けるだろう。これを恐れ慎んで、私欲の念を捨て、この売買の仕事は、国中の自由を得させるべき役人として天道から与えられたものだと思い定めて、この身は天道に任せ、利益を思う念を休め、正直の旨を守って商いをするならば、火が乾いたものにつき、水が低い方へ流れるように、天の福が自然に応じて、万事が心にかなうだろう。しかしながら、福徳を得て喜ぶべきではない。有漏の善根、無漏の善根ということがある。この夢幻泡影の世界の、生じ滅する、たからなき身を宝と定めて、常住の念が離れず、世間に専ら執着の念があって善を行うのを、有漏の善根と名付けた。有漏の善は、福徳の因縁である。有漏の善を行い、高い位や福のある人となって楽を極めても、その因が尽きる時があり、必ず悪道に入るのである。

解説

商人への答えの前半です。正三は利益を否定せず、利益が増す心遣いこそ修行だと述べ、それを「身命を天道に任せ、正直に道を学ぶ」ことだとします。商いは国中の自由を得させるための、天から与えられた役目という捉え方は、事業の社会的使命を示します。続いて有漏の善根と無漏の善根を分け、執着から出た善は福を招いても尽きる、と注意を促します。成功や利益を目的化せず、それを超える意味を求めよという問いかけは、現代の経営にも通じます。

この章句が説くこと

売買正直天道私欲有漏の善根福徳

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