養生訓 / 巻第八・養老
一今の世、老いて子に養はるゝ人、わかき時より却つていかり多く慾ふかくなりて、子をせめ人をとがめて、晩節をたもたず、心をみだす人多し。つゝしみていかりと慾とをこらへ、晩節をたもち、物ごとに堪忍ふかく、子の不孝をせめず、つねに樂みて殘年をおくるべし。是老後の境界に相應してよし。孔子、年老い血氣衰へては得るを戒め給ふ。聖人の言おそるべし。世俗、わかき時は頗るつゝしむ人あり。老後をかへつて多慾にして、いかりうらみ多く、晩節をうしなふ人多し。つゝしむべし。子としては是を思ひ、父母のいかりおこらざるやうに、かねて思ひはかり恐れ愼むべし。父母をいからしむるは、子の大不孝なり。又子としてわが身の不孝なるを、親に咎られ、かへつて親の老衰したる由を人に告ぐ。是大不孝なり。不孝にして父母をうらむるは、惡人のならひなり。
新字:一今の世、老いて子に養はるゝ人、わかき時より却つていかり多く慾ふかくなりて、子をせめ人をとがめて、晩節をたもたず、心をみだす人多し。つゝしみていかりと慾とをこらへ、晩節をたもち、物ごとに堪忍ふかく、子の不孝をせめず、つねに楽みて残年をおくるべし。是老後の境界に相応してよし。孔子、年老い血気衰へては得るを戒め給ふ。聖人の言おそるべし。世俗、わかき時は頗るつゝしむ人あり。老後をかへつて多慾にして、いかりうらみ多く、晩節をうしなふ人多し。つゝしむべし。子としては是を思ひ、父母のいかりおこらざるやうに、かねて思ひはかり恐れ慎むべし。父母をいからしむるは、子の大不孝なり。又子としてわが身の不孝なるを、親に咎られ、かへつて親の老衰したる由を人に告ぐ。是大不孝なり。不孝にして父母をうらむるは、悪人のならひなり。
書き下し
一今の世、老いて子に養はるる人、わかき時より却つていかり多く慾ふかくなりて、子をせめ人をとがめて、晩節をたもたず、心をみだす人多し。つつしみていかりと慾とをこらへ、晩節をたもち、物ごとに堪忍ふかく、子の不孝をせめず、つねに楽みて残年をおくるべし。是老後の境界に相応してよし。孔子、年老い血気衰へては得るを戒め給ふ。聖人の言おそるべし。世俗、わかき時は頗るつつしむ人あり。老後をかへつて多慾にして、いかりうらみ多く、晩節をうしなふ人多し。つつしむべし。子としては是を思ひ、父母のいかりおこらざるやうに、かねて思ひはかり恐れ慎むべし。父母をいからしむるは、子の大不孝なり。又子としてわが身の不孝なるを、親に咎られ、かへつて親の老衰したる由を人に告ぐ。是大不孝なり。不孝にして父母をうらむるは、悪人のならひなり。
現代語訳
今の世に、年老いて子に養われる人で、若いときよりかえって怒りが多く欲が深くなって、子を責め人をとがめて、晩節を保たず、心を乱す人が多いのです。慎んで怒りと欲をこらえ、晩節を保ち、物事に堪忍深く、子の不孝を責めず、いつも楽しんで残りの年を送るべきです。これが老後の境遇に似つかわしくてよいのです。孔子は、年老いて血気が衰えては得ることを戒められました。聖人の言葉は恐るべきものです。世間には、若いときはたいへん慎む人がいます。老後にかえって欲が多くなり、怒りや恨みが多くなって、晩節を失う人が多いのです。慎むべきです。子としてはこれを思い、父母の怒りがおこらないように、前もって思いはかり、恐れ慎むべきです。父母を怒らせるのは子の大不孝です。また子として自分の不孝を親にとがめられて、かえって親が老いぼれたことを人に告げるのは、大不孝です。不孝でありながら父母を恨むのは、悪人の習いです。
解説
この章句が説くこと
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