養生訓 / 巻第七・用薬
一中夏の秤も、日本の秤と同じ。藥を合はするには、かねて一服の分量を定め、各品の分釐をきはめ、釐等を用ひてかけ合すべし。藥により、輕重甚だかはれり。多少を以て、分量を定めがたし。一諸香の鼻を養ふ事、五味の口を養ふがごとし。諸香は、是を嗅げば正氣をたすけ邪氣をはらひ、惡臭を消し穢をさり、神明に通ず。いとまありて、靜室に坐して香をたきて默坐するは、雅趣をたすけて心を養ふべし。是亦養生の一端なり。香に四品あり。たき香あり、掛香あり、食香あり、貼香あり。たき香とはあはせたきものの事なり。からの書に、百和香と云ふ。日本にも、古今和歌集の物の名に百和香を詠めり。かけ香とは、かをり袋、にほひの玉などを云ふ。貼香とは、花の露、兵部卿など云ふ類の、身につくる香なり。食香とは、食して香よき物、透頂香、香茶餅、團茶など云ふ物の事なり。
新字:一中夏の秤も、日本の秤と同じ。薬を合はするには、かねて一服の分量を定め、各品の分釐をきはめ、釐等を用ひてかけ合すべし。薬により、軽重甚だかはれり。多少を以て、分量を定めがたし。一諸香の鼻を養ふ事、五味の口を養ふがごとし。諸香は、是を嗅げば正気をたすけ邪気をはらひ、悪臭を消し穢をさり、神明に通ず。いとまありて、静室に坐して香をたきて黙坐するは、雅趣をたすけて心を養ふべし。是亦養生の一端なり。香に四品あり。たき香あり、掛香あり、食香あり、貼香あり。たき香とはあはせたきものの事なり。からの書に、百和香と云ふ。日本にも、古今和歌集の物の名に百和香を詠めり。かけ香とは、かをり袋、にほひの玉などを云ふ。貼香とは、花の露、兵部卿など云ふ類の、身につくる香なり。食香とは、食して香よき物、透頂香、香茶餅、団茶など云ふ物の事なり。
書き下し
一中夏の秤も、日本の秤と同じ。薬を合はするには、かねて一服の分量を定め、各品の分釐をきはめ、釐等を用ひてかけ合すべし。薬により、軽重甚だかはれり。多少を以て、分量を定めがたし。一諸香の鼻を養ふ事、五味の口を養ふがごとし。諸香は、是を嗅げば正気をたすけ邪気をはらひ、悪臭を消し穢をさり、神明に通ず。いとまありて、静室に坐して香をたきて黙坐するは、雅趣をたすけて心を養ふべし。是亦養生の一端なり。香に四品あり。たき香あり、掛香あり、食香あり、貼香あり。たき香とはあはせたきものの事なり。からの書に、百和香と云ふ。日本にも、古今和歌集の物の名に百和香を詠めり。かけ香とは、かをり袋、にほひの玉などを云ふ。貼香とは、花の露、兵部卿など云ふ類の、身につくる香なり。食香とは、食して香よき物、透頂香、香茶餅、団茶など云ふ物の事なり。
現代語訳
中国の秤も日本の秤と同じです。薬を調合するには、前もって一服の分量を定め、各品の分・釐を決めて、釐秤を用いて量り合わせるべきです。薬によって軽重がたいへん異なります。かさの多少で分量を定めることはできません。多くの香が鼻を養うのは、五味が口を養うのと同じです。多くの香は、これを嗅げば正気を助け邪気を払い、悪臭を消し汚れを去り、神明に通じます。暇があって、静かな部屋に座って香を焚き、黙って座るのは、雅な趣を助けて心を養うでしょう。これもまた養生の一端です。香に四種があります。焚く香、掛ける香、食べる香、身につける香です。焚く香とは、合わせ薫物のことです。中国の書物に百和香といいます。日本でも『古今和歌集』の物の名に百和香を詠んでいます。掛ける香とは、香袋やにおいの玉などをいいます。身につける香とは、花の露や兵部卿などというたぐいの、体につける香です。食べる香とは、食べて香りのよい物で、透頂香、香茶餅、団茶などという物のことです。
解説
この章句が説くこと
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