養生訓 / 巻第七・用薬
一凡藥を服して後久しく飮食すべからず。又藥力のいまだめぐらざる内に酒食を忌む。又藥を飮みてねぶり臥すべからず。ねぶれば藥力めぐらず、滯りて害となる。必ず戒むべし。一凡藥を服する時は、朝夕の食、常よりも殊につゝしみえらぶべし。あぶら多き魚鳥獸、なます。さしみ、すし、肉ひしほ、なし物、なまぐさき物、ねばき物、かたき物、一切の生冷の物、生菜の熟せざる物、ふるくけがらはしき物、色あしく臭あしく味變じたる物、生なる菓、つくりたる菓子、あめ、砂糖、もち、だんご、氣をふさぐ物、消化しがたき物、食ふべからず。又藥を飮む日は酒を多く飮むべからず。飮まざるは尤よし。酒力藥に勝てば驗なし。醴も飮むべからず。日長き時も、晝の間菓子點心など食ふべからず。藥力のめぐる間は食を忌むべし。點心をくらへば氣を塞ぎて、晝の間藥力めぐらず。又死人產婦など、けがれ忌むべき物を見れば氣をふさぐ故、藥力めぐりがたく滯りやすくして、藥のしるしなし。いましめて見るべからず。
新字:一凡薬を服して後久しく飲食すべからず。又薬力のいまだめぐらざる内に酒食を忌む。又薬を飲みてねぶり臥すべからず。ねぶれば薬力めぐらず、滞りて害となる。必ず戒むべし。一凡薬を服する時は、朝夕の食、常よりも殊につゝしみえらぶべし。あぶら多き魚鳥獣、なます。さしみ、すし、肉ひしほ、なし物、なまぐさき物、ねばき物、かたき物、一切の生冷の物、生菜の熟せざる物、ふるくけがらはしき物、色あしく臭あしく味変じたる物、生なる菓、つくりたる菓子、あめ、砂糖、もち、だんご、気をふさぐ物、消化しがたき物、食ふべからず。又薬を飲む日は酒を多く飲むべからず。飲まざるは尤よし。酒力薬に勝てば験なし。醴も飲むべからず。日長き時も、昼の間菓子点心など食ふべからず。薬力のめぐる間は食を忌むべし。点心をくらへば気を塞ぎて、昼の間薬力めぐらず。又死人産婦など、けがれ忌むべき物を見れば気をふさぐ故、薬力めぐりがたく滞りやすくして、薬のしるしなし。いましめて見るべからず。
書き下し
一凡薬を服して後久しく飲食すべからず。又薬力のいまだめぐらざる内に酒食を忌む。又薬を飲みてねぶり臥すべからず。ねぶれば薬力めぐらず、滞りて害となる。必ず戒むべし。一凡薬を服する時は、朝夕の食、常よりも殊につつしみえらぶべし。あぶら多き魚鳥獣、なます。さしみ、すし、肉ひしほ、なし物、なまぐさき物、ねばき物、かたき物、一切の生冷の物、生菜の熟せざる物、ふるくけがらはしき物、色あしく臭あしく味変じたる物、生なる菓、つくりたる菓子、あめ、砂糖、もち、だんご、気をふさぐ物、消化しがたき物、食ふべからず。又薬を飲む日は酒を多く飲むべからず。飲まざるは尤よし。酒力薬に勝てば験なし。醴も飲むべからず。日長き時も、昼の間菓子点心など食ふべからず。薬力のめぐる間は食を忌むべし。点心をくらへば気を塞ぎて、昼の間薬力めぐらず。又死人産婦など、けがれ忌むべき物を見れば気をふさぐ故、薬力めぐりがたく滞りやすくして、薬のしるしなし。いましめて見るべからず。
現代語訳
およそ薬を飲んだ後、長く飲食してはいけません。また薬の力がまだめぐらないうちに酒食をとるのは忌みます。また薬を飲んで眠り横になってはいけません。眠れば薬の力がめぐらず、とどこおって害となります。必ず戒めるべきです。およそ薬を飲むときは、朝夕の食事を、ふだんよりとくに慎んで選ぶべきです。脂の多い魚・鳥・獣、なます、刺身、すし、肉の塩辛、なし物、生臭い物、ねばる物、硬い物、すべての生もの・冷たい物、生野菜の煮えていない物、古く汚れた物、色が悪く臭いが悪く味の変わった物、生の果物、作った菓子、飴、砂糖、餅、団子、気をふさぐ物、消化しにくい物は食べてはいけません。また薬を飲む日は酒を多く飲んではいけません。飲まないのがもっともよいのです。酒の力が薬に勝てば効き目がありません。甘酒も飲んではいけません。日の長い時期でも、昼間に菓子や点心などを食べてはいけません。薬の力がめぐる間は食を忌むべきです。点心を食べれば気をふさいで、昼の間は薬の力がめぐりません。また死人や産婦など、けがれとして忌むべきものを見ると気をふさぐので、薬の力がめぐりにくく、とどこおりやすくなって、薬の効き目がありません。戒めて見てはいけません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第四・飲食下一前食未だ消化せずば、後食相つぐべからず。一薬を服する時、あまき物、油膩の物、獣肉、諸菓、餅餌、生冷の物、一切気を塞ぐ物、食ふべからず。服薬の時多く食へば、薬力とどこほりて力なし。酒は只一盞に止まるべし。補薬を服する日、ことさら此類いむべし。凡薬を服する日は、淡き物を食して、薬力をたすくべし。味濃き物を食して、薬力を損ずべからず。
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『養生訓』巻第七・用薬一入門にいへるは、薬を服するに、病上部にあるには、食後に少しづつ服す。一時に多く飲むべからず。病中部に在るには、食遠に服す。病下部にあるには、空心にしきりに多く服して、下に達すべし。病四肢血脈にあるには、食にうゑて日中に宜し。病、骨髄に在るには、食後夜に宜し。吐逆して薬を納めがたきには、只一すくひ、少しづつしづかに飲むべし、急に多く飲むべからず。是薬を飲む法なり。知らずんばあるべからず。
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『養生訓』巻第七・用薬一補湯は、煎湯熱き時、少しづつ飲めばつかへず。少しづつ飲みて、ゆるやかに験を得べし。一時に多く服すべからず。補湯を服する間、殊に酒食を過さず、一切の停滞する物くらふべからず。酒食滞塞し、或は薬を服し過し、薬力めぐらざれば、気をふさぎ、腹中滞り、食を妨けて病をます。しるしなくして害あり。故に補薬を用ふる事、其節制むづかし。良医は、用ひやう能くして、なづまず。庸医は、用ひやうあしくして、滞る。古人は、補薬を用ふる其間に、邪を去る薬を兼ね用ふ。邪気去れば、補薬にちからあり。補に専一なれば、なづみて益なく、かへつて害あり。是、古人の説なり。
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『養生訓』巻第三・飲食上一朝食いまだ消化せずんば、昼食すべからず。点心など食ふべからず。昼食いまだ消化せずんば、夜食すべからず。前夜の夜食猶滞らば、翌朝食すべからず。或は半減じ、酒肉をたつべし。凡そ傷食を治する事、飲食をせざるにしくはなし。飲食を絶てば、軽症は薬を用ひずして癒ゆ。養生の道しらぬ人、殊に婦人は智なくして、食滞の病に早く食をすすむる故、病おもくなる。ねばき米湯など、殊に害となる。みだりにすすむべからず。病症により、殊に食傷の病人は、一両日食せずしても害なし。邪気とどこほりて、腹みつる故なり。
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『養生訓』巻第四・飲食下一黄耆を服する人は、酒を多くのむべからず。甘草を服する人は、菘菜を食ふべからず。地黄を服するには、蘿蔔、蒜葱の三白を忌む。菘は忌まず。荊芥を服するには生魚をいむ。土茯苓を服するには茶をいむ。凡如此類はかたく忌むべし。薬と食物とのおそれ忌むは、自然の理なり。番木鼈の鳥を殺し、磁石の針を吸ふの類も、皆天然の性なり。此の理うたがふべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一酒食を過し、たたりをなすに、酒食を消すつよき薬を用ひざれば、酒食を消化しがたし。たとへば、敵わが領内に乱入し、あだをなして城郭を攻破らんとす、こなたよりも強兵を出して防戦せしめ、我士卒多く打死せざれば、敵に勝ちがたし。薬を用ひて食を消化するは、是わが腹中を以て、敵身方の戦場とするなり。飲食する所の酒食敵となりて、わが腹中をせめやぶるのみならず、吾が用ふる所のつよき薬も、皆病を攻むれば元気もへる。敵兵も身方の兵も、わが腹中に入乱れ戦つて、元気を損じやぶる事甚し。敵をわが領内に引入れて戦はんより、外にふせぎて、内に入れざらんにはしかじ。酒食を過さずしてひかへば、敵とはなるべからず。つよき薬を用ひて、わが腹中を敵身方の合戦場とするは、胃の気をそこなひてうらめし。
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