養生訓 / 巻第三・飲食上
一酒食を過し、たゝりをなすに、酒食を消すつよき藥を用ひざれば、酒食を消化しがたし。たとへば、敵わが領内に亂入し、あだをなして城郭を攻破らんとす、こなたよりも强兵を出して防戰せしめ、我士卒多く打死せざれば、敵に勝ちがたし。藥を用ひて食を消化するは、是わが腹中を以て、敵身方の戰場とするなり。飮食する所の酒食敵となりて、わが腹中をせめやぶるのみならず、吾が用ふる所のつよき藥も、皆病を攻むれば元氣もへる。敵兵も身方の兵も、わが腹中に入亂れ戰つて、元氣を損じやぶる事甚し。敵をわが領内に引入れて戰はんより、外にふせぎて、内に入れざらんにはしかじ。酒食を過さずしてひかへば、敵とはなるべからず。つよき藥を用ひて、わが腹中を敵身方の合戰場とするは、胃の氣をそこなひてうらめし。
新字:一酒食を過し、たゝりをなすに、酒食を消すつよき薬を用ひざれば、酒食を消化しがたし。たとへば、敵わが領内に乱入し、あだをなして城郭を攻破らんとす、こなたよりも強兵を出して防戦せしめ、我士卒多く打死せざれば、敵に勝ちがたし。薬を用ひて食を消化するは、是わが腹中を以て、敵身方の戦場とするなり。飲食する所の酒食敵となりて、わが腹中をせめやぶるのみならず、吾が用ふる所のつよき薬も、皆病を攻むれば元気もへる。敵兵も身方の兵も、わが腹中に入乱れ戦つて、元気を損じやぶる事甚し。敵をわが領内に引入れて戦はんより、外にふせぎて、内に入れざらんにはしかじ。酒食を過さずしてひかへば、敵とはなるべからず。つよき薬を用ひて、わが腹中を敵身方の合戦場とするは、胃の気をそこなひてうらめし。
書き下し
一酒食を過し、たたりをなすに、酒食を消すつよき薬を用ひざれば、酒食を消化しがたし。たとへば、敵わが領内に乱入し、あだをなして城郭を攻破らんとす、こなたよりも強兵を出して防戦せしめ、我士卒多く打死せざれば、敵に勝ちがたし。薬を用ひて食を消化するは、是わが腹中を以て、敵身方の戦場とするなり。飲食する所の酒食敵となりて、わが腹中をせめやぶるのみならず、吾が用ふる所のつよき薬も、皆病を攻むれば元気もへる。敵兵も身方の兵も、わが腹中に入乱れ戦つて、元気を損じやぶる事甚し。敵をわが領内に引入れて戦はんより、外にふせぎて、内に入れざらんにはしかじ。酒食を過さずしてひかへば、敵とはなるべからず。つよき薬を用ひて、わが腹中を敵身方の合戦場とするは、胃の気をそこなひてうらめし。
現代語訳
酒食を過ごして障りが出た時、酒食を消す強い薬を用いなければ、酒食を消化しがたいものです。たとえば、敵が自分の領内に乱入し、害をなして城郭を攻め破ろうとする時、こちらからも強い兵を出して防戦させ、自分の兵士が多く討ち死にしなければ、敵に勝つことができないようなものです。薬を用いて食を消化させるのは、自分の腹の中を敵と味方の戦場にすることです。飲食した酒食が敵となって自分の腹の中を攻め破るばかりでなく、自分が用いる強い薬も、みな病を攻めれば元気も減ります。敵の兵も味方の兵も自分の腹の中で入り乱れて戦って、元気を損ない破ることが甚だしいのです。敵を自分の領内に引き入れて戦うより、外で防いで内に入れないほうがよいのです。酒食を過ごさずに控えれば、敵とはなりません。強い薬を用いて自分の腹の中を敵と味方の合戦場にするのは、胃の気を損なって恨めしいことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第三・飲食上一飲食は飢渇をやめんためなれば、飢渇だにやみなば、其上にむさぼらず、恣にすべからず。飲食の欲を恣にする人は、義理をわする。是を口腹の人と云ふ。いやしむべし。食過ぎたりとて、薬を用ひて消化すれば、胃気薬力のつよきにうたれて、生発の和気をそこなふ。をしむべし。食飲する時、思案しこらへて節にすべし。心に好み、口に快き物にあはば、先心に戒めて、節に過ぎん事をおそれて恣にすべからず。心のちからを用ひざれば、欲にかちがたし。欲にかつには剛を以てすべし。病を畏るるには怯かるべし。つたなきとは臆病なるをいへり。
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『養生訓』巻第四・飲食下一前食未だ消化せずば、後食相つぐべからず。一薬を服する時、あまき物、油膩の物、獣肉、諸菓、餅餌、生冷の物、一切気を塞ぐ物、食ふべからず。服薬の時多く食へば、薬力とどこほりて力なし。酒は只一盞に止まるべし。補薬を服する日、ことさら此類いむべし。凡薬を服する日は、淡き物を食して、薬力をたすくべし。味濃き物を食して、薬力を損ずべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一朝食いまだ消化せずんば、昼食すべからず。点心など食ふべからず。昼食いまだ消化せずんば、夜食すべからず。前夜の夜食猶滞らば、翌朝食すべからず。或は半減じ、酒肉をたつべし。凡そ傷食を治する事、飲食をせざるにしくはなし。飲食を絶てば、軽症は薬を用ひずして癒ゆ。養生の道しらぬ人、殊に婦人は智なくして、食滞の病に早く食をすすむる故、病おもくなる。ねばき米湯など、殊に害となる。みだりにすすむべからず。病症により、殊に食傷の病人は、一両日食せずしても害なし。邪気とどこほりて、腹みつる故なり。
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『養生訓』巻第三・飲食上一うゑて食し、かわきて飲むに、飢渇にまかせて、一時に多く飲食すれば、飽満して脾胃をやぶり、元気をそこなふ。飢渇の時慎むべし。又飲食いまだ消化せざるに、又いやかさねに早く飲食すれば、滞りて害となる。よく消化して後、飲食を好む時、飲み食ふべし。如此すれば、飲食皆養となる。
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『養生訓』巻第三・飲食上一外にのぞんで、食滞り痰ふさがらば、少し消導の薬をのむべし。夜臥して、痰のんどにふさがるは、おそるべし。一日短き時、昼の間、点心食ふべからず。日永き時も、昼は多く食はざるが宜し。一晩食は、朝食より少くすべし。飣肉も少きに宜し。
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『養生訓』巻第七・用薬一凡薬を服して後久しく飲食すべからず。又薬力のいまだめぐらざる内に酒食を忌む。又薬を飲みてねぶり臥すべからず。ねぶれば薬力めぐらず、滞りて害となる。必ず戒むべし。一凡薬を服する時は、朝夕の食、常よりも殊につつしみえらぶべし。あぶら多き魚鳥獣、なます。さしみ、すし、肉ひしほ、なし物、なまぐさき物、ねばき物、かたき物、一切の生冷の物、生菜の熟せざる物、ふるくけがらはしき物、色あしく臭あしく味変じたる物、生なる菓、つくりたる菓子、あめ、砂糖、もち、だんご、気をふさぐ物、消化しがたき物、食ふべからず。又薬を飲む日は酒を多く飲むべからず。飲まざるは尤よし。酒力薬に勝てば験なし。醴も飲むべからず。日長き時も、昼の間菓子点心など食ふべからず。薬力のめぐる間は食を忌むべし。点心をくらへば気を塞ぎて、昼の間薬力めぐらず。又死人産婦など、けがれ忌むべき物を見れば気をふさぐ故、薬力めぐりがたく滞りやすくして、薬のしるしなし。いましめて見るべからず。
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