養生訓 / 巻第七・用薬
一補藥を煎ずるには、かたき木かたき炭などのつよき火を用ふべからず。枯れたる蘆の火、枯竹、桑柴の火、或はけし炭など、一切のやはらかなる火よし。烈しく燃ゆる火を用ふれば、藥力を損ず。利藥を煎ずるには、かたき木かたき炭などの、熾なる强き火を用ふべし。是藥力をたすくるなり。
新字:一補薬を煎ずるには、かたき木かたき炭などのつよき火を用ふべからず。枯れたる蘆の火、枯竹、桑柴の火、或はけし炭など、一切のやはらかなる火よし。烈しく燃ゆる火を用ふれば、薬力を損ず。利薬を煎ずるには、かたき木かたき炭などの、熾なる強き火を用ふべし。是薬力をたすくるなり。
書き下し
一補薬を煎ずるには、かたき木かたき炭などのつよき火を用ふべからず。枯れたる蘆の火、枯竹、桑柴の火、或はけし炭など、一切のやはらかなる火よし。烈しく燃ゆる火を用ふれば、薬力を損ず。利薬を煎ずるには、かたき木かたき炭などの、熾なる強き火を用ふべし。是薬力をたすくるなり。
現代語訳
補薬を煎じるには、硬い木や硬い炭などの強い火を用いてはいけません。枯れた芦の火、枯れ竹、桑の薪の火、あるいは消し炭など、すべてやわらかな火がよいのです。激しく燃える火を用いれば、薬の力をそこないます。利薬を煎じるには、硬い木や硬い炭などの、盛んな強い火を用いるべきです。これは薬の力を助けることです。
解説
補薬と利薬で煎じる火の燃料まで使い分けよと述べた短い条です。補薬には枯れた芦や竹、桑の薪、消し炭のようなやわらかな火を、利薬には硬い木や炭の強い火を用いよと、前に述べた文火と武火の使い分けを具体的な燃料で示しています。目的に合った火を選ぶという細やかさは、料理の火加減や道具選びにも通じる知恵です。何をするかだけでなく、どんな道具や手段でするかによっても結果が変わるという教えとして読むことができます。
この章句が説くこと
火加減補薬利薬道具煎じ方
関連する章句
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『養生訓』巻第七・用薬一いかなる珍味も、これを煮る法ちがひて悪しければ、味あしし。良薬も、煎法ちがへば、験なし。此の故に、薬を煎ずる法に、よく心を用ふべし。文火とは、やはらかなる火なり。武火とは、つよき火なり。文武火とは、強からず柔かならざる、よき加減の火なり。風寒を発散し、食滞を消導する類の剛剤を利薬と云ふ。利薬は、武火にてせんじて、はやく煮あげ、いまだ熟せざる時、生気のつよきを服すべし。如此すれば、薬力つよくして、邪気に勝ちやすし。久しく煎じて熟すれば、薬に生気の力なくしてよわく、邪気にかちがたし。補湯は、やはらかなる文火にて、ゆるやかに久しく煎じつめて、よく熟すべし。如此ならざれば、純補しがたし。ここを以て、利薬は、生に宜しく、熟に宜しからず。補薬は、熟に宜しくして、生に宜しからず。知るべし、薬を煎ずるに、此二法あり。
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『養生訓』巻第七・用薬一頤生微論に曰く、大抵散利の剤は生に宜しく、補養の剤は熟に宜し。入門に曰く、補湯は須く熟を用ふべし。利薬は生を嫌はず。此法、薬を煎ずる要訣なり。補湯は、久しく煎じて熟すれば、やはらかにして能く補ふ。利薬は、生気のつよきを用ひて、はげしく病邪をうつべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一薬一服の大小軽重は、病症により人の大小強弱によりて增減すべし。補湯は、小剤にして少しづつ服し、おそく効をとるべし。多く用ひ過せば滞りふさがる。発散瀉下疎通の利湯は、大剤にしてつよきに宜し、早く効をとるべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一補湯は、煎湯熱き時、少しづつ飲めばつかへず。少しづつ飲みて、ゆるやかに験を得べし。一時に多く服すべからず。補湯を服する間、殊に酒食を過さず、一切の停滞する物くらふべからず。酒食滞塞し、或は薬を服し過し、薬力めぐらざれば、気をふさぎ、腹中滞り、食を妨けて病をます。しるしなくして害あり。故に補薬を用ふる事、其節制むづかし。良医は、用ひやう能くして、なづまず。庸医は、用ひやうあしくして、滞る。古人は、補薬を用ふる其間に、邪を去る薬を兼ね用ふ。邪気去れば、補薬にちからあり。補に専一なれば、なづみて益なく、かへつて害あり。是、古人の説なり。
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『養生訓』巻第七・用薬一利薬を久しく煎じつめては、消導発散すべき生気の力なし。煎じつめずして飪を失はざる生気あるを服して、病をせむべし。たとへば、茶を煎じ、生魚を煮、豆腐を煮るが如し。生熟の間よき程の飪を失はざれば、味よくして痞へず。飪を失へば、味あしくしてつかへやすきが如し。
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