養生訓 / 巻第六・択医
一凡諸醫の方書、偏說多し。專一人を宗とし、一書を用ひては、治を爲しがたし。學者多く方書をあつめ、ひろく異同を考へ、其長ずるを取りて、其短なるを捨て、醫療をなすべし。此後才識ある人、世を助くるに志あらば、廣く方書をえらび、其重複をけづり、其繁雜なるを除き、其粹美なるをあつめて一書と成さば、純正なる全書となりて、大なる世寶なるべし。此事は其人を待ちて行はるべし。凡近代の方書、醫論、脈法、藥方、同じき事甚多し。殊に龔廷賢が方書數部、同じき事多くして、重出しげく煩はし。無用の雜言亦多し。凡病にのぞんでは、多く方書を撿する事煩勞なり。急病に對し、遽に廣く考へて、其相應せる良方をえらびがたし。同事多く、相似たる書を多くあつめ考ふるもいたづかはし。才學ある人は、無益の事をなして、暇をつひやさんより、かゝる有益の事をなして、世を助け給ふべし。世にその才ある人、豈なかるべきや。
新字:一凡諸医の方書、偏説多し。専一人を宗とし、一書を用ひては、治を為しがたし。学者多く方書をあつめ、ひろく異同を考へ、其長ずるを取りて、其短なるを捨て、医療をなすべし。此後才識ある人、世を助くるに志あらば、広く方書をえらび、其重複をけづり、其繁雑なるを除き、其粋美なるをあつめて一書と成さば、純正なる全書となりて、大なる世宝なるべし。此事は其人を待ちて行はるべし。凡近代の方書、医論、脈法、薬方、同じき事甚多し。殊に龔廷賢が方書数部、同じき事多くして、重出しげく煩はし。無用の雑言亦多し。凡病にのぞんでは、多く方書を撿する事煩労なり。急病に対し、遽に広く考へて、其相応せる良方をえらびがたし。同事多く、相似たる書を多くあつめ考ふるもいたづかはし。才学ある人は、無益の事をなして、暇をつひやさんより、かゝる有益の事をなして、世を助け給ふべし。世にその才ある人、豈なかるべきや。
書き下し
一凡諸医の方書、偏説多し。専一人を宗とし、一書を用ひては、治を為しがたし。学者多く方書をあつめ、ひろく異同を考へ、其長ずるを取りて、其短なるを捨て、医療をなすべし。此後才識ある人、世を助くるに志あらば、広く方書をえらび、其重複をけづり、其繁雑なるを除き、其粋美なるをあつめて一書と成さば、純正なる全書となりて、大なる世宝なるべし。此事は其人を待ちて行はるべし。凡近代の方書、医論、脈法、薬方、同じき事甚多し。殊に龔廷賢が方書数部、同じき事多くして、重出しげく煩はし。無用の雑言亦多し。凡病にのぞんでは、多く方書を撿する事煩労なり。急病に対し、遽に広く考へて、其相応せる良方をえらびがたし。同事多く、相似たる書を多くあつめ考ふるもいたづかはし。才学ある人は、無益の事をなして、暇をつひやさんより、かかる有益の事をなして、世を助け給ふべし。世にその才ある人、豈なかるべきや。
現代語訳
およそ多くの医者の医書には偏った説が多いものです。もっぱら一人を宗とし、一冊の書だけを用いては、治療をなしがたいのです。学ぶ者は多くの医書を集め、広く異同を考え、その長所を取ってその短所を捨て、医療をなすべきです。今後、才と見識のある人が世を助けることに志があれば、広く医書を選び、その重複を削り、その煩雑なものを除き、そのすぐれたものを集めて一書とすれば、純正な全書となって、大いなる世の宝となるでしょう。これはその人を待って行われるべきことです。およそ近代の医書は、医論、脈法、処方に同じことがたいへん多いのです。とくに龔廷賢の医書数部は同じことが多く、重出がしげく煩わしいものです。無用の雑言もまた多いのです。およそ病に臨んでは、多くの医書を調べることは煩わしい労苦です。急病に対して、にわかに広く考えて、それに相応するよい処方を選ぶことはむずかしいものです。同じことが多く似たような書を多く集めて考えるのもわずらわしいものです。才学のある人は、無益なことをして暇を費やすよりは、このような有益なことをして世を助けるべきです。世にその才のある人がどうしていないことがあるでしょうか。
解説
この章句が説くこと
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説苑・建本子思曰わく、学は才を益す所以なり、礪は刃を致す所以なり。吾嘗て幽処して深く思うも、学の速やかなるに若かず。吾嘗て跂ちて望むも、高きに登りて博く見るに若かず。故に風に順いて呼べば、声疾しきを加えざれども聞く者衆し。丘に登りて招けば、臂長きを加えざれども見る者遠し。故に魚は水に乗り、鳥は風に乗り、草木は時に乗る。
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