養生訓 / 巻第六・慎病
一夏月古き井、深き穴の中に人を入るべからず。毒氣多し。古井には、先鷄の毛を入れて、毛舞ひ下りがたきは、是毒あり、入るべからず。火をもやして入れて後入るべし。又醋を熱くわかして、多く井に入れて後人入るべし。○夏至に井をさらへ、水を改むべし。
新字:一夏月古き井、深き穴の中に人を入るべからず。毒気多し。古井には、先鶏の毛を入れて、毛舞ひ下りがたきは、是毒あり、入るべからず。火をもやして入れて後入るべし。又醋を熱くわかして、多く井に入れて後人入るべし。○夏至に井をさらへ、水を改むべし。
書き下し
一夏月古き井、深き穴の中に人を入るべからず。毒気多し。古井には、先鶏の毛を入れて、毛舞ひ下りがたきは、是毒あり、入るべからず。火をもやして入れて後入るべし。又醋を熱くわかして、多く井に入れて後人入るべし。○夏至に井をさらへ、水を改むべし。
現代語訳
夏に古い井戸や深い穴の中へ人を入れてはいけません。毒気が多いからです。古い井戸には、まず鶏の羽毛を入れてみて、羽毛が舞って下りにくいものは毒があるので、入ってはいけません。火を燃やして入れてから入るべきです。また酢を熱くわかして井戸に多く入れてから、人が入るべきです。夏至に井戸をさらって水を改めるべきです。
解説
古井戸や深い穴にこもる毒気への注意を述べた条です。鶏の羽毛を落として舞い下りにくければ毒気があると見分け、火を燃やして入れてから入れという方法は、酸欠や有毒ガスの危険を経験的に見抜いたものと考えられます。今でも井戸やマンホール、地下の槽などでの酸欠事故は起きており、閉ざされた場所に入る前に空気の状態を確かめるという教えは決して古びていません。身近な危険を具体的な確かめ方とともに伝える、益軒の実用的な姿勢がよく表れています。
この章句が説くこと
井戸毒気安全夏予防
関連する章句
-
『大和俗訓』巻之三・心術上一ちかき頃の俗語に、用心は臆病にせよといふ事、まことに道理によくかなへり。是ほどの小事は、何のうれひかあらんと思ひて、けなげにして懼れざるは、過のはじめわざはひの本なり。莫大の過わざはひは、必しばしの間少なることをおそれずして、つつしまざるより起るゆゑ、小事をおそれつつしみて、けなげならざるが、わざはひなき道なり。武王の銘に、何の害かあらんと言ふ勿れ、其の禍将に至らんとすとのたまひしも此意なり。
-
『養生訓』巻第八・鍼是内経の戒なり。是皆、瀉有りて補無きを謂ふなり、と正伝にいへり。又浴して後、即時に鍼すべからず、酒に酔へる人に鍼すべからず、食に飽きて即時に鍼さすべからず。鍼医も病人も、右内経の禁を知りて守るべし。鍼を用ひて利ある事も害する事も、薬と灸より速なり。よく其利害をえらぶべし。つよく刺して、痛み甚しきはあしし。又右にいへる禁戒を犯せば、気へり、気のぼり、気うすく、はやく病を去らんとして、かへつて病くははる。是よくせんとして悪しくなるなり。つつしむべし。一衰老の人は、薬治鍼灸導引按摩を行ふにも、にはかに癒さんとてあらくすべからず。あらくするは、是即効を求むるなり。たちまち禍となる事あり。若当時快しとても、後の害となる。
-
『新序』雜事第二青蛉は猶お其の小なる者なり。夫れ爵は俛して白粒を啄み、仰いで茂樹に棲み、其の翼を鼓し、其の身を奮い、自ら以爲えらく患い無く、民と爭う無しと。知らず、公子王孫、左に彈を把り、右に丸を攝り、操持を定め、參連を審らかにするを。故に晝は茂樹に遊び、夕には酸鹹に和す。爵は猶お其の小なる者なり。鴻鵠は江漢に嬉遊し、大沼に息留し、俛して鰋鯉を啄み、仰いで陵衡に奮い、其の六翮を修めて清風に陵り、麃搖高翔し、一擧千里、自ら以爲えらく患い無く、民と爭う無しと。知らず、弋する者其の弓弩を選び、其の防翳を修め、繒繳を其の頸に加え、百仞の上に投じ、纖繳を引き、微波を揚げ、清風を折きて殞つるを。故に朝には江河に遊びて、暮には鼎俎に調せらる。
-
『甲陽軍鑑』品第四十七もしかさねてたれ人なりとも科人を追てゆくに見うしなはぬやうに五間も十間も跡より行くべし、げに追付きたく思ふならば、科人とならぶ様に追ひつくべし、必めしうどのにぐるまゝ、うしろに将棋だをしのごとくに追べからず、あやうき事なり、
-
『淮南子』本經訓昔 容成氏の時、道路 雁行して列處し、嬰兒を巢の上に托し、餘糧を畮首に置き、虎豹も尾す可く、虺蛇も蹍む可くして、其の然る所以を知らざりき。堯の時に逮び至りて、十日並び出で、禾稼を焦がし、草木を殺して、民 食らう所無し。猰貐・鑿齒・九嬰・大風・封豨・修蛇 皆な民の害を為す。堯 乃ち羿をして鑿齒を疇華の野に誅せしめ、九嬰を凶水の上に殺し、大風を青丘の澤に繳し、上は十日を射て下は猰貐を殺し、修蛇を洞庭に斷ち、封豨を桑林に禽にす。萬民 皆な喜び、堯を置きて以て天子と為す。是に於いて天下の廣狹・險易・遠近、始めて道裡有り。舜の時、共工 洪水を振滔して、以て空桑に薄る。龍門 未だ開けず、呂梁 未だ發かず、江・淮 通流し、四海 溟涬として、民 皆な丘陵に上り、樹木に赴く。
-
『養生訓』巻第六・慎病一夏は発生の気いよいよさかんにして、汗もれ、人の肌膚大に開く故、外邪入りやすし。涼風に久しくあたるべからず、沐浴の後風に当るべからず。且夏は伏陰とて陰気かくれて腹中にある故、食物の消化する事おそし。多く飲食すべからず。温なる物を食ひて、脾胃をあたたむべし。冷水を飲むべからず。すべて生、冷の物を忌む。冷麺多く食ふべからず。虚人は尤泄瀉のうれひおそるべし。冷水に浴すべからず。暑甚しき時も、冷水を以て面目を洗へば眼を損ず、冷水にて手足洗ふべからず、睡中に扇にて人にあふがしむべからず、風にあたり臥すべからず、夜外に臥すべからず、夜外に久しく坐して、露気にあたるべからず、極暑の時も極めて涼しくすべからず、日に久しく曝せる熱物の上に坐すべからず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る