養生訓 / 巻第六・慎病
一六七月酷暑の時は、極寒の時より元氣へりやすし、よく保養すべし。加味生脉散、補氣湯、醫學六要の新製淸暑益氣湯など、久しく服して、元氣の發泄するを收歛すべし。一年の内、時令のために、藥を服して保養すべきは、此時なり。東垣の淸暑益氣湯は、濕熱を消散する方なり。純補の劑にあらず。其病なくば服すべからず。
新字:一六七月酷暑の時は、極寒の時より元気へりやすし、よく保養すべし。加味生脉散、補気湯、医学六要の新製清暑益気湯など、久しく服して、元気の発泄するを収歛すべし。一年の内、時令のために、薬を服して保養すべきは、此時なり。東垣の清暑益気湯は、湿熱を消散する方なり。純補の剤にあらず。其病なくば服すべからず。
書き下し
一六七月酷暑の時は、極寒の時より元気へりやすし、よく保養すべし。加味生脉散、補気湯、医学六要の新製清暑益気湯など、久しく服して、元気の発泄するを収歛すべし。一年の内、時令のために、薬を服して保養すべきは、此時なり。東垣の清暑益気湯は、湿熱を消散する方なり。純補の剤にあらず。其病なくば服すべからず。
現代語訳
六月・七月の酷暑のときは、厳寒のときより元気が減りやすいので、よく保養すべきです。加味生脈散、補気湯、『医学六要』の新製清暑益気湯などを長く服用して、元気が発散して漏れるのを収めるべきです。一年のうちで、季節のために薬を飲んで保養すべきなのは、このときです。李東垣の清暑益気湯は、湿熱を消し散らす処方です。純粋に補う薬ではありません。その病がなければ飲んではいけません。
解説
暑さが最も厳しい時期に、元気の消耗を防ぐための薬を用いることを述べた条です。益軒はふだん薬に頼ることを戒めていますが、酷暑の時期だけは季節のために薬で保養してよいと例外を認めています。同じ名前の処方でも、李東垣の清暑益気湯は湿熱を除く薬で補う薬ではないから、その病がなければ飲むなと区別しているのは、医書に通じた益軒らしい慎重さです。薬の名前だけで選ばず、目的と体の状態に合っているかを確かめる姿勢は今も大切です。
この章句が説くこと
夏元気薬季節養生
関連する章句
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『養生訓』巻第六・慎病一夏は発生の気いよいよさかんにして、汗もれ、人の肌膚大に開く故、外邪入りやすし。涼風に久しくあたるべからず、沐浴の後風に当るべからず。且夏は伏陰とて陰気かくれて腹中にある故、食物の消化する事おそし。多く飲食すべからず。温なる物を食ひて、脾胃をあたたむべし。冷水を飲むべからず。すべて生、冷の物を忌む。冷麺多く食ふべからず。虚人は尤泄瀉のうれひおそるべし。冷水に浴すべからず。暑甚しき時も、冷水を以て面目を洗へば眼を損ず、冷水にて手足洗ふべからず、睡中に扇にて人にあふがしむべからず、風にあたり臥すべからず、夜外に臥すべからず、夜外に久しく坐して、露気にあたるべからず、極暑の時も極めて涼しくすべからず、日に久しく曝せる熱物の上に坐すべからず。
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『養生訓』巻第六・慎病一冬は天地の陽気とぢかくれ、人の血気をさまる時なり。心気を閑にしをさめて保つべし。あたため過して、陽気を発し泄すべからず、上気せしむべからず。衣服をあぶるに、少しあたためてよし。熱きを忌む。衣を多くかさね、又は火気を以て、身をあたため過すべからず。熱湯に浴すべからず。労力して汗を発し、陽を泄すべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一四時、老幼ともに、あたたかなる物くらふべし。殊に夏月は伏陰内にあり。わかく盛なる人も、あたたかなる物くらふべし。生冷を食すべからず。滞りやすく、泄瀉しやすし。冷水多く飲むべからず。一夏月瓜菓生菜多く食ひ、冷麺をしばしば食し、冷水を多く飲めば、秋必ず瘧痢を病む。凡病は故なくしておこらず。かねてつつしむべし。
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『養生訓』巻第六・慎病一秋は夏の間肌開け、七八月は残暑も猶烈しければ、腠理いまだとぢず。表気いまだ堅からざるに、秋風すでにいたりぬれば、感じてやぶれやすし、慎んで風涼にあたり過すべからず。病ある人は、八月残暑退きて後、所々に灸して、風邪をふせぎ、陽を助けて、痰咳のうれひをまぬかるべし。
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『養生訓』巻第六・慎病一千金方に曰く、冬温なる事を極めず、夏涼しき事をきはめず。凡一時快き事は、必ず後の災となる。一病生じては、心のうれひ、身の苦甚し。其上、医をまねき、薬を飲み、炙をし、針をさし、酒をたち、食をへらし、さまざまに心をなやまし、身をせめて、病を治せんとせんよりは、初に内欲をこらへ、外邪をふせげば、病おこらず、薬を服せず、針灸せずして、身のなやみ心の苦なし。初しばしの間つつしみ忍ぶは、少しの心づかひなれど、後の患なきは、大なるしるしなり。後に薬と針灸を用ひ、酒食をこらへつつしむは、其苦甚しけれど益すくなし。古語に、終をつつしむ事は、始に於てせよといへり。万の事、始によくつつしめば、後に悔なし。養生の道、ことさらかくのごとし。一飲食色慾の内欲をほしいままにせずして、かたく慎み、風寒暑湿の外邪をおそれ防がば、病なくして、薬を用ひずとも患なかるべし。もし慾をほしいままにして慎まず、只脾腎を補ふ薬治と食治とを頼まば、必ずしるしなかるべし。
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