養生訓 / 巻第四・慎色慾
一情慾をおこさずして、腎氣動かざれば害なし、若情慾をおこし、腎氣うごきて、精氣を忍んでもらさゞれば、下部に氣滯りて瘡癤を生ず。はやく溫湯に浴し、下部をよくあたゝむれば、滯れる氣めぐりて鬱滯なく、腫物などのうれひなし。此術また知るべし。
新字:一情慾をおこさずして、腎気動かざれば害なし、若情慾をおこし、腎気うごきて、精気を忍んでもらさゞれば、下部に気滞りて瘡癤を生ず。はやく温湯に浴し、下部をよくあたゝむれば、滞れる気めぐりて鬱滞なく、腫物などのうれひなし。此術また知るべし。
書き下し
一情慾をおこさずして、腎気動かざれば害なし、若情慾をおこし、腎気うごきて、精気を忍んでもらさざれば、下部に気滞りて瘡癤を生ず。はやく温湯に浴し、下部をよくあたたむれば、滞れる気めぐりて鬱滞なく、腫物などのうれひなし。此術また知るべし。
現代語訳
情欲をおこさず、腎の気が動かなければ害はありません。もし情欲をおこし、腎の気が動いたのに、精気を忍んで漏らさなければ、下半身に気がとどこおって腫れ物を生じます。早く温かい湯に入って下半身をよく温めれば、とどこおった気がめぐって鬱滞がなくなり、腫れ物などの心配はありません。この術もまた知っておくべきです。
解説
精気を漏らさない法の副作用と、その対処を述べた短い条です。欲をおこしながら無理に抑えると下半身に気が滞って瘡癤(おでき)を生じるので、湯に浸かって温めれば気がめぐって防げると説きます。一つの養生法を勧めるだけでなく、その弊害と手当てまで示すところに、実際に役立つことを重んじた益軒の配慮が見えます。どんな健康法にも合う合わないや副作用がありうることを心得て、体の反応を見ながら調整するという姿勢は、今も大切です。
この章句が説くこと
精気入浴気腎養生
関連する章句
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『養生訓』巻第四・慎色慾然れば、これ気をめぐらし、精気をたもつ良法なるべし。四十歳以上、猶血気甚衰へざれば、情慾を絶つ事は忍びがたかるべし。忍べば却て害あり。もし年老いてしばしばもらせば大に害あり。故に時にしたがつて此法を行ひて、情慾をやめ、精気をたもつべしとなり。是によりて精気をつひやさずんば、しばしば交接するも、精も気も少しももれずして、当時の情慾はやみぬべし。是古人の教、情慾の絶ちがたきをおさへずして、精気をたもつ良法なるべし。人身は脾胃の養を本とすれども、腎気堅固にしてさかんなれば、丹田の火蒸し上げて、脾土の気も亦温和にして盛になる故、古人の曰く、脾を補ふは腎を補ふに如かず。若年より精気ををしみ、四十以後、弥精気をたもちて泄さず、是命の根源を養ふ道なり。
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『養生訓』巻第四・慎色慾一素問に、腎者五蔵の本といへり、然らば養生の道腎を養ふ事を重ずべし。腎を養ふ事薬補をたのむべからず。只精気を保ちてへらさず、腎気ををさめて動すべからず。論語に曰、若き時は血気方に壮なり、戒之在色。聖人の戒守るべし。血気さかんなるにまかせ色慾をほしいままにすれば、必ず先礼法をそむき、法外を行ひ、恥辱を取つて、面目をうしなふ事あり。時過ぎて後悔すれどもかひなし。かねて後悔なからん事を思ひ、礼法をかたく慎むべし。況や精気をつひやし、元気をへらすは寿命をみじかくする本なり、おそるべし。年若き時より男女の欲ふかくして、精気を多くへらしたる人は、生れつきさかんなれども、下部の元気すくなくなり、五蔵の根本よわくして、必ず短命なり。つつしむべし。飲食男女は人の大欲なり。恣になりやすき故、此の二事尤かたく慎むべし。是をつつしまざれば脾胃の真気へりて、薬補食補のしるしなし。老人は殊に脾胃の真気を保養すべし、補薬のちからをたのむべからず。
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『養生訓』巻第四・慎色慾一わかく盛なる人は、殊に男女の情慾かたく慎みて、過すくなかるべし。慾念をおこさずして、腎気をうごかすべからず。房事を快くせんために、烏頭附子等の熱薬飲むべからず。一達生録に曰く、男子年いまだ二十ならざる者、精気いまだ足らずして慾火うごきやすし。たしかに交接を慎むべし。
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『養生訓』巻第五・洗浴一あつからざる温湯を、少し盥に入れて、別の温湯を肩背より少しづつそそぎ、早くやむれば、気よくめぐり、食を消す。寒月は身あたたまり、陽気を助く、汗を発せず。如此すれば、しばしば浴するも害なし。しばしば浴するには、肩背は湯をそそぎたるのみにて、垢を洗はず、只下部を洗ひて早くやむべし。久しく浴し、身を温め過すべからず。
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『養生訓』巻第四・慎色慾一孫真人が千金方に、房中補益説あり。年四十に至らば房中の術を行ふべしとて、其説頗詳なり。其大意は、四十以後血気やうやく衰ふる故、精気をもらさずして、只しばしば交接すべし、如此すれば元気へらず、血気めぐりて補益となるといへる意なり。ひそかに思ふに、四十以上の人、血気いまだ大に衰へずして、槁木死灰の如くならず、情慾忍びがたし。然るに精気をしばしばもらせば、大に元気をつひやす故、老年の人に宜しからず。ここを以て、四十以上の人は交接のみしばしばにして、精気をば泄らすべからず。四十以後は腎気やうやく衰ふる故、泄さざれども壮年のごとく精気動かずして、滞らず、此法行ひやすし。此法を行へば、泄さずして情慾は遂げやすし。
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『養生訓』巻第五・洗浴一身に小瘡ありて熱湯に浴し、浴後風にあたれば、肌をとぢ、熱内にこもりて、小瘡も肌の内に入りて、熱生じ、小便通ぜず、腫る。此症甚、危し。多くは死す。つつしんで、熱湯に浴して後風にあたるべからず。俗に、熱湯にて小瘡を内にたてこむると云ふ。左にはあらず、熱湯に浴し、肌表開きたる故に、風に感じやすし。涼風にて熱を内にとづる故、小瘡も共に内に入るなり。
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