養生訓 / 巻第四・慎色慾
此法孫思邈後世に敎へし祕訣にて、明かに千金方にあらはせども、後人其術の保養に益ありて害なき事をしらず。丹溪が如き大醫すら偏見にして、孫眞人が敎を立てし本意を失ひて信ぜず。此良術をそしりて曰、聖賢の心神仙の骨なくんば未易爲。もし房中を以て補とせば、人を殺す事多からんと、格致餘論にいへり。聖賢神仙は世に難有ければ、丹溪が說の如くば此法は行ひがたし。丹溪が說うたかふべき事猶多し。才學高博にして識見偏僻なりと云ふべし。
新字:此法孫思邈後世に教へし秘訣にて、明かに千金方にあらはせども、後人其術の保養に益ありて害なき事をしらず。丹渓が如き大医すら偏見にして、孫真人が教を立てし本意を失ひて信ぜず。此良術をそしりて曰、聖賢の心神仙の骨なくんば未易為。もし房中を以て補とせば、人を殺す事多からんと、格致余論にいへり。聖賢神仙は世に難有ければ、丹渓が説の如くば此法は行ひがたし。丹渓が説うたかふべき事猶多し。才学高博にして識見偏僻なりと云ふべし。
書き下し
此の法、孫思邈後世に教へし秘訣にて、明かに千金方にあらはせども、後人其術の保養に益ありて害なき事をしらず。丹渓が如き大医すら偏見にして、孫真人が教を立てし本意を失ひて信ぜず。此良術をそしりて曰、聖賢の心神仙の骨なくんば未だ為し易からず。もし房中を以て補とせば、人を殺す事多からんと、格致余論にいへり。聖賢神仙は世に難有ければ、丹渓が説の如くば此法は行ひがたし。丹渓が説うたかふべき事猶多し。才学高博にして識見偏僻なりと云ふべし。
現代語訳
この法は孫思邈が後世に教えた秘訣で、『千金方』にはっきりと書き表されていますが、後の人は、その術が保養に益があって害がないことを知りません。朱丹渓のような大医でさえ偏った見方をして、孫真人が教えを立てた本意を見失い、信じませんでした。この良い術を非難して、「聖賢の心や神仙の骨がなければ、たやすく行えるものではない。もし房中の術で補おうとすれば、人を殺すことが多いだろう」と『格致余論』に書いています。聖賢や神仙は世にめったにいないので、丹渓の説のとおりならこの法は行いがたいことになります。丹渓の説には疑わしいことがまだ多くあります。才能と学問は高く広いけれども、見識は偏っていると言うべきでしょう。
解説
この章句が説くこと
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