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養生訓 / 巻第四・慎色慾

一男女交接の期は、孫思邈が千金方曰、人年二十の者は四日に一たび泄す。三十の者は八日に一たび泄す。四十者十六日に一泄す。五十者二十日に一泄す。六十者精をとぢて泄さず。若體力さかんならば一月に一たび泄す。氣力すぐれて盛なる人、慾念をおさへこらへて久しく泄さゞれば、腫物を生ず。六十を過ぎて慾念おこらずば、とぢて泄すべからず。わかくさかんなる人も、もし能く忍んで、一月に二度もらして慾念おこらずば、長生なるべし。○今案ずるに、千金方にいへるは平人の大法なり。もし性虛弱の人、食すくなく力よわき人は、此期にかゝはらず、精氣ををしみて交接まれなるべし。色慾の方に心うつれば、あしき事くせになりてやまず。法外のありさま恥づべし。つひに身を失ふにいたる、つゝしむべし。右千金方に二十歲以前をいはざるに意あるべし。二十以前血氣生發して、いまだ堅固ならず。此時しばしばもらせば、發生の氣を損じて一生の根本よわくなる。

新字:一男女交接の期は、孫思邈が千金方曰、人年二十の者は四日に一たび泄す。三十の者は八日に一たび泄す。四十者十六日に一泄す。五十者二十日に一泄す。六十者精をとぢて泄さず。若体力さかんならば一月に一たび泄す。気力すぐれて盛なる人、慾念をおさへこらへて久しく泄さゞれば、腫物を生ず。六十を過ぎて慾念おこらずば、とぢて泄すべからず。わかくさかんなる人も、もし能く忍んで、一月に二度もらして慾念おこらずば、長生なるべし。○今案ずるに、千金方にいへるは平人の大法なり。もし性虚弱の人、食すくなく力よわき人は、此期にかゝはらず、精気ををしみて交接まれなるべし。色慾の方に心うつれば、あしき事くせになりてやまず。法外のありさま恥づべし。つひに身を失ふにいたる、つゝしむべし。右千金方に二十歳以前をいはざるに意あるべし。二十以前血気生発して、いまだ堅固ならず。此時しばしばもらせば、発生の気を損じて一生の根本よわくなる。

書き下し

一男女交接の期は、孫思邈が千金方に曰く、人年二十の者は四日に一たび泄す。三十の者は八日に一たび泄す。四十の者は十六日に一たび泄す。五十の者は二十日に一たび泄す。六十の者は精をとぢて泄さず。若体力さかんならば一月に一たび泄す。気力すぐれて盛なる人、慾念をおさへこらへて久しく泄さざれば、腫物を生ず。六十を過ぎて慾念おこらずば、とぢて泄すべからず。わかくさかんなる人も、もし能く忍んで、一月に二度もらして慾念おこらずば、長生なるべし。○今案ずるに、千金方にいへるは平人の大法なり。もし性虚弱の人、食すくなく力よわき人は、此期にかかはらず、精気ををしみて交接まれなるべし。色慾の方に心うつれば、あしき事くせになりてやまず。法外のありさま恥づべし。つひに身を失ふにいたる、つつしむべし。右千金方に二十歳以前をいはざるに意あるべし。二十以前血気生発して、いまだ堅固ならず。此時しばしばもらせば、発生の気を損じて一生の根本よわくなる。

現代語訳

男女の交わりの間隔については、孫思邈の『千金方』に、「人は二十歳の者は四日に一度精を漏らす。三十歳の者は八日に一度漏らす。四十歳の者は十六日に一度漏らす。五十歳の者は二十日に一度漏らす。六十歳の者は精を閉じて漏らさない。もし体力が盛んであれば一か月に一度漏らす」とあります。気力がすぐれて盛んな人が、欲念をおさえこらえて長く漏らさないと、腫れ物を生じます。六十歳を過ぎて欲念がおこらなければ、閉じて漏らしてはいけません。若く盛んな人でも、よく忍んで一か月に二度漏らして欲念がおこらなければ、長生きするでしょう。今考えてみると、『千金方』に言うのは普通の人のおおよその法です。もし生まれつき虚弱な人、食が細く力の弱い人は、この間隔にかかわらず、精気を惜しんで交わりをまれにすべきです。色欲の方に心が移ると、悪いことが癖になってやみません。道にはずれたありさまは恥ずべきことです。ついには身を滅ぼすに至るので、慎むべきです。右の『千金方』が二十歳以前のことを言っていないのには意味があるはずです。二十歳以前は血気が伸び育っている最中で、まだ固まっていません。このときにしばしば漏らせば、伸び育つ気をそこなって一生の根本が弱くなります。

解説

唐の名医孫思邈の『千金方』を引き、年齢に応じた房事の節度を述べた条です。益軒はこれを「平人の大法」、つまり普通の人の目安とし、虚弱な人はさらに控えるべきだと個人差に応じた調整を加えています。また『千金方』が二十歳以前に触れていないのは、その年頃にはまだ体ができあがっていないからだと読み解き、若年の自制を強く求めています。数値の目安を示しつつ体質で加減するという考え方は、年齢や体調に応じて生活を整える養生の基本姿勢です。

この章句が説くこと

色欲節度精気年齢千金方

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