養生訓 / 巻第四・飲茶烟草附
一藥と茶を煎ずるに水をえらぶべし。淸く味甘きをよしとす。雨水を用ふるも味よし。雨中に淨器を庭に置きてとる、地水にまさる。然れども是は久しくたもたず、雪水を尤よしとす。一茶を煎ずる法、よわき火にて炒り、つよき火にて煎ず。煎ずるに堅き炭のよくもゆるをさかんに焚きて煎ず。たぎりあがる時冷水をさす。如此すれば茶の味よし。つよき火にて炒るべからず、ぬるくやはらかなる火にて煎ずべからず。右は皆もろこしの書にも出でたり。湯わく時薏苡の生葉を加へて煎ずれば、香味尤よし、性よし。本草に、暑月煎じ飮めば胃を暖め、氣血をます。
新字:一薬と茶を煎ずるに水をえらぶべし。清く味甘きをよしとす。雨水を用ふるも味よし。雨中に浄器を庭に置きてとる、地水にまさる。然れども是は久しくたもたず、雪水を尤よしとす。一茶を煎ずる法、よわき火にて炒り、つよき火にて煎ず。煎ずるに堅き炭のよくもゆるをさかんに焚きて煎ず。たぎりあがる時冷水をさす。如此すれば茶の味よし。つよき火にて炒るべからず、ぬるくやはらかなる火にて煎ずべからず。右は皆もろこしの書にも出でたり。湯わく時薏苡の生葉を加へて煎ずれば、香味尤よし、性よし。本草に、暑月煎じ飲めば胃を暖め、気血をます。
書き下し
一薬と茶を煎ずるに水をえらぶべし。清く味甘きをよしとす。雨水を用ふるも味よし。雨中に浄器を庭に置きてとる、地水にまさる。然れども是は久しくたもたず、雪水を尤よしとす。一茶を煎ずる法、よわき火にて炒り、つよき火にて煎ず。煎ずるに堅き炭のよくもゆるをさかんに焚きて煎ず。たぎりあがる時冷水をさす。如此すれば茶の味よし。つよき火にて炒るべからず、ぬるくやはらかなる火にて煎ずべからず。右は皆もろこしの書にも出でたり。湯わく時薏苡の生葉を加へて煎ずれば、香味尤よし、性よし。本草に、暑月煎じ飲めば胃を暖め、気血をます。
現代語訳
薬や茶を煎じるには水を選ぶべきです。清らかで味の甘いものがよいです。雨水を用いるのも味がよいものです。雨の中に清潔な器を庭に置いて受けたものは、地の水にまさります。けれどもこれは長く保存できません。雪解け水がもっともよいです。茶を煎じる方法は、弱い火で炒り、強い火で煎じます。煎じるには、硬い炭のよく燃えるものを盛んに焚いて煎じます。沸き上がるときに冷水をさします。このようにすれば茶の味がよくなります。強い火で炒ってはならず、ぬるくやわらかい火で煎じてはいけません。以上はみな中国の書物にも出ています。湯が沸くときに薏苡(はとむぎ)の生葉を加えて煎じれば、香りも味もいっそうよく、性質もよくなります。本草書に、暑い時期に煎じて飲めば胃を温め、気血を増すとあります。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第七・用薬一凡薬を煎ずるに水をえらぶべし。清くして味よきを用ふ。新に汲む水を用ふべし。早天に汲む水を井華水と云ふ。薬を煎ずべし。又茶と羹を煮るべし。新汲水は、平旦ならでも、新に汲みていまだ器に入れざるを云ふ。是亦用ふべし。汲みて器に入れ久しくなるは用ふべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一天よりすぐに下る雨水は性よし、毒なし。器にうけて、薬と茶を煎ずるによし。雪水は尤よし。屋漏水大毒あり、たまり水は飲むべからず。たまり水の、地を漏り来る水のむべからず、井のあたりに、汚濁のたまり水あらしむべからず。地をもり通りて井に入る、甚だ忌むべし。
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『養生訓』巻第四・飲茶烟草附一茶上代はなし、中世もろこしよりわたる。其後玩賞して日用欠くべからざる物とす。性冷にして気を下し、眠をさます。陳蔵器は、久しく飲めば痩せてあぶらを漏すといへり。母煚、東坡、李時珍など、其性よからざる事をそしれり。然れども、今の世朝より夕まで、日々茶を多くのむ人多し。飲み習へばやぶれなきにや。冷物なれば一時に多くのむべからず。抹茶は用ふる時にのぞんでは炒らず煮ず、故につよし。煎茶は、用ふる時炒りて煮る故やはらかなり。故につねには煎茶を服すべし。飯後に熱茶少し飲んで食を消し、渇をやむべし。塩を入れてのむべからず、腎をやぶる。空腹に茶を飲むべからず、脾胃を損ず。濃茶は多く飲むべからず、発生の気を損ず。唐茶は性つよし、製する時煮ざればなり。虚人病人は当年の新茶飲むべからず。眼病、上気、下血、泄瀉などの患あり。正月より飲むべし。人により当年九、十月より飲むも害なし。新茶の毒にあたらば、香蘇散、不換金、正気散、症によりて用ふ。或は白梅、甘草、砂糖、黒豆、生薑など用ふべし。
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『養生訓』巻第七・用薬早く蓋をして、しばし置くべし。久しくふたをおけば、薬汁出で過ぎて、力なし。薬汁出で、熱湯の少しさめて、温になりたる好燗の時飲むべし。かくの如くして、二度泡し、二度飲みて後、其滓は捨つべし。袋のかすを搾るべからず。薬汁濁りてあしし。此法、薬力つよし。利薬には、此煎法も宜し。外邪、食傷、腹痛、霍乱などの病には、煎湯よりも、此法の功するどなり。用ふべし。振薬は、用ふべからず。此法、薬汁早く出で薬力つよし。たとへば、茶を沸湯に浸して其にえばなを飲めば、其気つよく味もよし。久しく煎じ過せば、茶の味も気もあしくなるが如し。
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『養生訓』巻第七・用薬大熱ありて渇する病には、其の宜に随ひて、多く用ふべし。補薬を煎ずるには、一盞に水を入るる事、盞の重さを除き、水の重さ五十匁より、五十五匁に至る。是亦、一般の大小に随ひて、水を增減すべし。虚人の薬小服なるには、水五十匁入る盞を用ふべし。壮人の薬、大服なるには、水五十五匁入る盞を用ふべし。一服に水二盞入れて、けし炭を用ひ、文火にてゆるやかに煎じつめて、一盞とし、滓には水一盞入れて、半盞にせんじ、前後合はせて一盞半となるを、少しづつ痞へざるやうに、空腹に三四度に熱服す。補湯は、一日に一服、若しつかへやすき人は、人により、朝夕は飲みがたし。昼夜二度のむ。短日は、二度はつかへて服しがたき人あり。病人によるべし。つかへざる人には、朝夕昼間一日一服、猶其の上も服すべし。食滞あらば、補湯飲むべからず、食滞めぐりて後飲むべし。
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『養生訓』巻第七・用薬一いかなる珍味も、これを煮る法ちがひて悪しければ、味あしし。良薬も、煎法ちがへば、験なし。此の故に、薬を煎ずる法に、よく心を用ふべし。文火とは、やはらかなる火なり。武火とは、つよき火なり。文武火とは、強からず柔かならざる、よき加減の火なり。風寒を発散し、食滞を消導する類の剛剤を利薬と云ふ。利薬は、武火にてせんじて、はやく煮あげ、いまだ熟せざる時、生気のつよきを服すべし。如此すれば、薬力つよくして、邪気に勝ちやすし。久しく煎じて熟すれば、薬に生気の力なくしてよわく、邪気にかちがたし。補湯は、やはらかなる文火にて、ゆるやかに久しく煎じつめて、よく熟すべし。如此ならざれば、純補しがたし。ここを以て、利薬は、生に宜しく、熟に宜しからず。補薬は、熟に宜しくして、生に宜しからず。知るべし、薬を煎ずるに、此二法あり。
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